パソナ、社員1200人「東京」から「淡路島」へ異動~社員は異動を拒否できるのか
人材派遣大手、パソナグループが社員約1200人を淡路島に異動することを発表しました。
昨日、人材派遣大手、パソナグループが、社員約1200人を東京本社などから淡路島(兵庫県)に異動させるニュースが報道され、大きな反響を呼びました。
このことはネットで大きな反響を呼び、ツイッターでは移転先となる「淡路島」がトレンド入りしました。ネットの反応を伝える記事をご紹介します。
このように、今回の大規模な異動について、巷では、賛否両論あるようです。
このパソナグループの「脱東京」の動きは、コロナ禍の中、今後広がる可能性があります。それに伴い、単身赴任を余儀なくされる人も出てくるおそれがあります。
そこで、社命の異動による単身赴任を拒否できるか否かを民法からアプローチしてみたいと思います。
結婚をすると「同居」義務が発生する
結婚をした夫婦は、民法上、互いに「同居」義務が発生します(民法752条)。
民法752条(同居、協力及び扶助の義務)
夫婦は同居し、お互いに協力し扶助しなければならない。
この「同居義務」は、「協力」「扶助」義務と合わせて、婚姻共同生活を維持する基本的な義務とされています。 同居義務は婚姻の成立、つまり役所に婚姻届を届出た時から発生し、婚姻の解消まで存続します。
民法が意味する「同居」とは
この同居とは、「夫婦としての同居」であって、単なる場所的な意味ではありません。同じ屋根の下でも、たとえば障壁を設けて生活を別にするのは民法が想定している同居とはいえません。
夫婦の居住形態や居住場所については、夫婦が協議して決めることになりますが、協議が成立しないときには、家庭裁判所に審判を求めることができます。また、夫婦の一方が同居を拒否しているときは、家庭裁判所に同居の履行を求めて審判の申立てをすることができます。
「単身赴任」の社命は「人事権の乱用」にあたるか
このように、民法によって夫婦が同居義務を負うことになりますが、対外的に何らかの意味を持ちうるかが問題となります。
ひとつは、夫婦の一方が、その勤務先の企業等から単身赴任を強いられるような配転命令を受けた場合に、民法の同居義務を根拠に拒絶できるかが問われます。
判例は、個々の労働契約の解釈によって使用者の配転命令権の存否や範囲を判断したうえで、個々の配転命令が権利濫用(人事権乱用)にあたるかどうかを判断しています。
その際には、配転に関する「業務上の必要性」と「配転によって労働者が被る不利益」が比較衡量されますが、配転命令が「労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせているものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは」権利の乱用にあたらないと判示しています(最高裁判所昭和61年7月14日)。
「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」とは
では、「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」とは具体的にどのようなことが該当するでしょうか。
現状では、本人や家族の病気で転勤が困難であるような事案になると、労働者に対し、「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」を負わせるものと評価され、人事権乱用が認められています。
一方、「単身赴任を強いられる」というだけでは、「労働者が通常甘受すべき程度の不利益にとどまる」と評価されており、本条の同居義務が、配転命令を拒絶する根拠とまではされていません。
今後、コロナ禍の影響で、「脱東京」は加速することが予想されます。それに伴い、パソナグループのように、本社機能の地方移転を実行する企業も増えていくでしょう。このことは、様々な観点から社会的要請として歓迎されるべきことが多々あると思います。しかし、一方、そうなれば人事異動による単身赴任を選択せざるをえない人も出てくるでしょう。中には持病や家族の介護などで単身赴任をしてしまうと、「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負う」おそれがある方もいるに違いありません。このような場合、会社に事情を伝えて協議すれば、単身赴任を回避して、会社と労働者の双方にとって最適な方向性が見いだせるかもしれません。
単身赴任は、「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」がキーワードです。覚えておいてください。