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パソナ、社員1200人「東京」から「淡路島」へ異動~社員は異動を拒否できるのか

竹内豊行政書士
パソナグループが社員約1200人を淡路島に異動することを発表しました。(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

人材派遣大手、パソナグループが社員約1200人を淡路島に異動することを発表しました。

昨日、人材派遣大手、パソナグループが、社員約1200人を東京本社などから淡路島(兵庫県)に異動させるニュースが報道され、大きな反響を呼びました。

人材派遣大手、パソナグループは令和5年度末までに社員約1200人を東京本社などから淡路島(兵庫県)に異動させ、淡路島で取締役会や経営会議を開催するなどして本社化する方針を発表した。パソナは京都府や岡山県などで「道の駅」事業を受託するなど「地方創生」にも積極的に取り組んできたが、新型コロナウイルスの感染拡大を機に淡路島への本社移転を決め、地方創生のモデルを自ら示した格好だ。

出典:パソナ、本社を淡路島へ移転 新型コロナきっかけ 地方創生のモデル示す

このことはネットで大きな反響を呼び、ツイッターでは移転先となる「淡路島」がトレンド入りしました。ネットの反応を伝える記事をご紹介します。

人材派遣大手、パソナグループが東京にある本社の主要機能を兵庫県の淡路島に移す方針を明らかにしたことがネットで大きな反響を呼んでいる。ツイッターでは1日、移転先となる「淡路島」がトレンド入り。営業、人事部門などの社員約1000人を来年春までに淡路島に異動させるという大胆な計画に、ネットユーザーからは「本社を丸ごと異動(移動)って凄いな!」と驚きの声があがった。ネットの反応は「本社移転は英断。このコロナ禍で仕事の仕方に変化が出て、移転支障なしと判断したのだろう」と評価する見方と、「社員の人かわいそう…自分なら転職するかな」と否定的な見方で二分しているようだ。

出典:パソナの本社機能移転で“淡路島”がトレンド入り 「素晴らしい」「自分なら転職するかな」とネットで大きな反響

このように、今回の大規模な異動について、巷では、賛否両論あるようです。

このパソナグループの「脱東京」の動きは、コロナ禍の中、今後広がる可能性があります。それに伴い、単身赴任を余儀なくされる人も出てくるおそれがあります。

そこで、社命の異動による単身赴任を拒否できるか否かを民法からアプローチしてみたいと思います。

結婚をすると「同居」義務が発生する

結婚をした夫婦は、民法上、互いに「同居」義務が発生します(民法752条)

民法752条(同居、協力及び扶助の義務)

夫婦は同居し、お互いに協力し扶助しなければならない。

この「同居義務」は、「協力」「扶助」義務と合わせて、婚姻共同生活を維持する基本的な義務とされています。 同居義務は婚姻の成立、つまり役所に婚姻届を届出た時から発生し、婚姻の解消まで存続します。

民法が意味する「同居」とは

この同居とは、「夫婦としての同居」であって、単なる場所的な意味ではありません。同じ屋根の下でも、たとえば障壁を設けて生活を別にするのは民法が想定している同居とはいえません。

夫婦の居住形態や居住場所については、夫婦が協議して決めることになりますが、協議が成立しないときには、家庭裁判所に審判を求めることができます。また、夫婦の一方が同居を拒否しているときは、家庭裁判所に同居の履行を求めて審判の申立てをすることができます。

「単身赴任」の社命は「人事権の乱用」にあたるか

このように、民法によって夫婦が同居義務を負うことになりますが、対外的に何らかの意味を持ちうるかが問題となります。

ひとつは、夫婦の一方が、その勤務先の企業等から単身赴任を強いられるような配転命令を受けた場合に、民法の同居義務を根拠に拒絶できるかが問われます。

判例は、個々の労働契約の解釈によって使用者の配転命令権の存否や範囲を判断したうえで、個々の配転命令が権利濫用(人事権乱用)にあたるかどうかを判断しています。

その際には、配転に関する「業務上の必要性」「配転によって労働者が被る不利益」が比較衡量されますが、配転命令が「労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせているものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは」権利の乱用にあたらないと判示しています(最高裁判所昭和61年7月14日)。

「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」とは

では、「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」とは具体的にどのようなことが該当するでしょうか。

現状では、本人や家族の病気で転勤が困難であるような事案になると、労働者に対し、「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」を負わせるものと評価され、人事権乱用が認められています。

一方、「単身赴任を強いられる」というだけでは、「労働者が通常甘受すべき程度の不利益にとどまる」と評価されており、本条の同居義務が、配転命令を拒絶する根拠とまではされていません。

今後、コロナ禍の影響で、「脱東京」は加速することが予想されます。それに伴い、パソナグループのように、本社機能の地方移転を実行する企業も増えていくでしょう。このことは、様々な観点から社会的要請として歓迎されるべきことが多々あると思います。しかし、一方、そうなれば人事異動による単身赴任を選択せざるをえない人も出てくるでしょう。中には持病や家族の介護などで単身赴任をしてしまうと、「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負う」おそれがある方もいるに違いありません。このような場合、会社に事情を伝えて協議すれば、単身赴任を回避して、会社と労働者の双方にとって最適な方向性が見いだせるかもしれません。

単身赴任は、「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」がキーワードです。覚えておいてください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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