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不倫相手の夫や妻から、慰謝料を請求「される」「されない」の境界線

竹内豊行政書士
不倫相手の配偶者から、慰謝料を請求「される」「されないの」境界線を探ってみます。(写真:アフロ)

既婚者と一線を越えてしまうと、相手方配偶者(=不倫相手の配偶者)から慰謝料を請求される場合もあります。今回は、その理由と慰謝料請求をされる場合とされない場合の違いを探ってみたいと思います。

結婚すると「貞操義務」が課せられる

まず、不倫をしてはいけない理由を民法からアプローチしてみたいと思います。

役所に「婚姻届」を届け出て結婚をすると、お互いに貞操義務を負います。貞操とは、「配偶者以外の者(夫または妻以外の人)と性的関係を結ばないこと」を言います。

民法には「貞操義務」が明文化されていない

実は、民法には「夫婦は互いに貞操義務を負う」といったような貞操義務が明記されていません。しかし、次の3つの条文によって、夫婦は互いに貞操義務を負うとされます。

その1.重婚が禁止されている。

民法732条(重婚の禁止)

配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない。

ここでいう「婚姻」とは、戸籍に表れる関係のことです。したがって、法律上の配偶者がいる者が、別の異性と事実上の夫婦生活を営んでも、重婚にはなりません。

その2.「同居」「協力」「扶助」の3つの義務が規定されている。

民法は、結婚した夫婦に「同居」「協力」「扶助」の3つの義務を課しています。

民法752条(同居、協力及び扶助の義務)

夫婦は同居し、互いに扶助しなければならない。

以上は結婚生活を維持するための基本な義務といえます。

その3.不貞行為が離婚原因になる。

加えて民法は、配偶者の不貞行為を離婚事由に挙げています(民法770条1項1号)

民法770条(裁判上の離婚)

夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

一 配偶者に不貞な行為があったとき。

二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。

三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。

四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

2 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

不貞行為とは、貞操義務に反する行為です。つまり、不貞とは「夫婦の一方が、自分の意思で配偶者以外の者と性行為をすること」と解されます。不貞行為が離婚の原因になるのは、道徳上当然の効果といえます。

2つの判例で見る慰謝料請求される・されないの境界線

このように、重婚が禁止され、同居協力義務が規定され、さらに不貞行為が離婚原因になることから、また一夫一婦制という婚姻の本質から、夫婦は互いに貞操義務を負うとされています。そして、貞操義務を負う既婚者と不倫をした者は、相手方配偶者から慰謝料を請求される場合があります。なぜでしょうか。二つの判例から探ってみたいと思います。

慰謝料を「認めた」判例

昭和54年3月30日、最高裁は「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意または過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず」夫または妻としての権利を侵害しその行為は違法性を帯び他方配偶者の苦痛を慰謝すべき義務があると判示しました。

つまり、夫婦の一方が不貞行為をした場合には、不貞行為の相手方は、他の夫または妻としての権利を侵害しており、夫婦の他方が被った精神的苦痛に対して慰謝すべき義務があるとしたのです。

慰謝料請求を「認めなかった」判例

しかし、婚姻がどのような実態にあっても、夫または妻が配偶者以外の者と性的関係を持てば、配偶者の不貞行為の相手方の行為が「夫または妻としての権利侵害」に当たるとして不法行為責任を認めるのでは、公平な解決が図れないような気がします。

そこで、平成8年(1996年)3月26日、最高裁は、性格の相違や仕事の問題などで夫婦仲が悪化し、離婚調停なども試みたあげく別居した後で、夫が妻以外の女性と性的関係を持ち同棲するようになった事案で次のように不法行為責任を限定する考えを示しました。

配偶者と相手方が肉体関係を持った時点で既に夫婦関係が破綻していた場合には、原告配偶者に婚姻共同体の平和の維持という権利または利益はなく、特段の事情がない限り相手方は不法行為責任を負わない。

そして、「当時は、婚姻はすでに破たんしていた」と認定し、妻からの慰謝料請求を棄却しました。

不毛な争い~破たんが先か、交際が先か

このように不倫相手の相手方配偶者から、慰謝料を請求「される」「されないの」境界線は、不倫をした時点で、相手の夫婦関係が破綻していたのか、それともしていなかったのかにあります。しかし、「破たんしていた・していなかった」を厳密に判断するのはふつう容易でありません。そのため、「破たんが先か、交際が先か」をめぐって泥仕合になってしまうことが多いようです。

貞操義務違反の代償

不倫の相手側配偶者からの慰謝料請求では、「破たんが先か、交際が先か」は重要な意味を持ちます。仮に「破たんが先」として慰謝料請求をされなかったとしても、不倫の事実が露呈すれば、プライベートな問題にもかかわらず、世間から信用を失い、仕事などへ影響が及んでしまうこともめずらしくありません。

配偶者をお持ちの方は、「貞操義務」を、配偶者をお持ちの方とお付き合いを考えている方は、「不倫の代償」をぜひ思い出してみてください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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