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「こどもの日」と「緊急事態宣言」~親権は「子どもファースト」で行使するもの

竹内豊行政書士
緊急事態措置が延長された今、「こどもの日」に親子の法律関係を見てみましょう。(写真:アフロ)

本日5月5日は「こどもの日」です。

こどもの日は、「国民の祝日に関する法律」第2条に次のように規定されています。

国民の祝日に関する法律 第2条

こどもの日~こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるとともに、母に感謝する。

そこで今回は、親子の間の法律関係を考えてみたいと思います。

緊急事態措置が延長された今、親子で過ごす時間が増えることで、親子の関係でお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。親子について新たな視点を得るきっかけにもなるかもしれません。ぜひご覧ください。

法律上の親子関係の成立

まず、親子関係はどのようにして成立するのか見てみましょう。法律上の親子関係が成立するのは母子関係と父子関係では次のように違います。

母子関係の成立

民法には、法律上の母子関係に関しては、婚外子につき「認知することができる」という規定しかありません(民法779条)

民法779条(認知)

嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる。

現在の判例・戸籍実務では、妻が婚姻中(法律上、結婚している間)に懐胎(=妊娠)した子および妻が婚姻後に出産した子を「嫡出子」(ちゃくしゅつし)としています。一方、そうでない子は「嫡出でない子」としています。

しかし、「嫡出」という用語には「正妻から生まれること」(新明解国語辞典)といったように「正統」という意味が込められているため、使用すべきでないという批判があります。

「母子関係」~「出産の事実」で発生する

判例では、「嫡出でない子」について、「母子の関係は分娩(=出産)の事実によって当然に発生する」とされました(最高裁判決昭和37[1962]年)。この「分娩者=母」というルール(「分娩主義」)は、嫡出子にも該当するとされています。

「父子関係」~妻が婚姻中に妊娠した子は、夫の子と推定される

一方、父子の関係は、妻が婚姻中に妊娠した子は、夫の子と推定されます(民法772条1項)

民法772条1項(嫡出の推定)

妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。

この規定は、「母が婚姻中に妊娠した子の法律上の父は、母の夫と推定する」という父子関係の推定規定です。

しかし、実際のところ妻が婚姻中に妊娠したことを証明するのは簡単ではありません。そこで民法は、次のいずれかの子は、婚姻中に懐胎した子と推定することにしました(民法772条2項)

1.婚姻成立の日から200日を経過した後に生まれた子

2.婚姻解消の日もしくは取消しの日から300日以内に生まれた子出生した子

民法772条2項(嫡出の推定)

婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

この「200日」「300日」という数字は、医学的統計に基づくものです。そのため、未熟児・過熟児のような推定が働かない場合は、個別に婚姻中に妊娠したことを証明しなければなりません。

親子関係の成立~「監護教育」と「扶養」の権利義務の発生

法律上の親子関係が成立すると、法的な親子関係が成立します。それにより、現実に子の身の回りの世話をする監護教育と、子の財産を管理したり、子に代わって法律行為をする親権や子の経済的な援助をする扶養など法的な権利義務が親子間に発生します

以下、親権者の権利義務について見てみましょう。

親権者の権利義務

未成年の子は親権に服します(民法818条1項)

民法818条(親権者)

1. 成年に達しない子は、父母の親権に服する。

2. 子が養子であるときは、養親の親権に服する。

3. 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。

なお、平成30(2018)年6月13日、民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げること等を内容とする民法の一部を改正する法律が成立しました。そして、2022年4月1日から施行されます(詳しくは、1月13日成人の日~新成人122万人誕生、成人年齢なぜ20歳、皇族は18歳で成人、成人18歳問題をご覧ください)。

さて、親権には具体的に次のようなものがあります。

監護教育権

親権者は、子の利益のために子の監護および教育の権利を有し、義務を負います(民法820条)

民法820条(監護及び教育の権利義務)

親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

職業許可権

子は、親権者の許可を得なければ、職業を営むことができません(民法823条)

民法823条(職業の許可)

1.子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができない。

2.親権を行う者は、第6条第2項の場合には、前項の許可を取り消し、又はこれを制限することができる。

財産管理権

親権者は子の財産を管理します(民法824条)。この管理行為の対象となる財産は、未成年の子に属する一切の財産となります。

民法824条(財産の管理及び代表)

親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。

注意義務

親権者は、財産管理権を行使する際には、自己のためにするのと同一の注意義務を負います(民法827条)

民法827条(財産の管理における注意義務)

親権を行う者は、自己のためにするのと同一の注意をもって、その管理権を行わなければならない。

親権の行使は子どもの健やかな成長のためのもの

このように、親子関係が成立すると法律上親子間に権利義務が生じます。この権利義務は子どもの健やかな成長を守ることを基盤としています。したがって、子どもの人格に関する決定はすべて親権者に委ねられているものではありません。親権は、あくまでも「子どもファースト」で行使すべきものなのです。

残念ながら親が子どもを「教育」と称して虐待する事件が後を絶ちません。また、緊急事態措置が延長される中、親子の関係が過密になることで虐待が起きる可能性が高くなる危険性があります。

冒頭でご紹介した、「こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかる」というこどもの日の趣旨を、親権を行使する者は、今一度改めて認識する必要があるのではないでしょうか。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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