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外国人と結婚する「田中さん」の「姓」はどうなるのか

竹内豊行政書士
外国人と結婚をすると、「姓」(氏)はどのようになるのでしょうか。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

外国人の方とお付き合いをしている方は大勢いらっしゃると思います。そこで、今回は、外国人と結婚をした場合、「氏」(法律では、「姓」のことを「氏」といいます)はどのようになるのかをみてみたいと思います。

「夫婦同氏」の原則

まず、日本人同士が結婚した場合に、「氏」はどうなのかをみてみましょう。

夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫または妻の氏を称します(民法750条)。これを「夫婦同氏の原則」といいます。

民法750条(夫婦の氏)

夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。

つまり、法的に結婚を成立させるためには、夫または妻の氏のいずれかを夫婦の氏として選択することが求められます。このことは、夫婦双方は、いずれも自己の氏を夫婦の氏としうるにせよ、他方は、必ず従前の氏を放棄しなければならないことを意味します。

「外国人」と婚姻すると氏はどうなるのか

では、外国人と婚姻した場合、氏はどうなるかみることにしましょう。

実は、戸籍先例では、前掲の民法750条は日本人と外国人を当事者とする婚姻には適用されず、外国人との婚姻によっても日本人の氏は変動しないという法解釈が採られています。たとえば、日本人配偶者の氏が「田中」であった場合、結婚しても「田中」のままということです。

「外国人配偶者の氏」に変更したい場合

さて、日本人の配偶者が、外国人配偶者の氏へ変更したい場合はどうすればよいのでしょうか。

戸籍法は、配偶者である外国人の称する氏に変更することを望む日本人配偶者に対して、婚姻から6か月以内に限り、届出をすることで、外国人配偶者の氏への変更を認めています(戸籍法107条2項)。これにより、比較的簡易に外国人配偶者の氏へ変更することができます。この届出の制度は、立法者が、夫婦同氏を志向していることを読みとることができます。

「通称氏」への変更を希望する場合

ただし、ここでいう「外国人配偶者の氏」とは、その者の本国法上の法的な氏を指しています。そのため、外国人配偶者が使用する通称への変更を希望する場合は、氏の変更を規定している戸籍法107条1項「やむを得ない事由」を要件とする家庭裁判所の許可が必要となります。

この外国人配偶者の通称への変更を「やむを得ない事由」として許可をした判例としては、在日韓国人である夫の通称氏への変更について、外国人配偶者が通称として日本名を永年使用し、社会生活で通称が定着しているときは、「やむを得ない事由」に該当するとしたものがあります。

戸籍法107条(氏名の変更)

1.やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。

2.外国人と婚姻をした者がその氏を配偶者の称している氏に変更しようとするときは、その者は、その婚姻の日から六箇月以内に限り、家庭裁判所の許可を得ないで、その旨を届け出ることができる。

「結合氏」に変更する場合

日本人配偶者の称する氏と外国人配偶者の称する氏を併記した新たな氏(「結合氏」といいます)に変更する場合も、通称氏への変更と同様に、家庭裁判所の許可を得なければなりません。

以上ご覧いただいたとおり、日本人同士の場合は、有無をいわず夫婦いずれかの氏に変更しなければなりません。一方、外国人と結婚する場合は、日本人配偶者の氏は「変わらない」か「外国人の氏に変更する」かのいずれかを選択する余地があります。また、家庭裁判所の許可を得れば、外国人配偶者の通称氏や結合氏を称することも可能です。

「氏」は「名」と合わさって個人を識別・固定するための「標識」という機能の他、「他者との関係性」を示す機能も有しています。外国人の方と結婚をお考えの方は、選択の余地がある分、氏をどのようにするかを早い段階のうちからご検討しておいてはいかがでしょうか。

参考文献:『新注釈民法(17)』(二宮周平編・有斐閣)『家族法 第5版』(二宮周平著・新世社)

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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