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“紀州のドン・ファン”遺言で田辺市に13億円超の遺産を残す~相続人以外に財産を残す場合の注意点

竹内豊行政書士
相続人以外に財産を残す場合にはいくつか注意点があります。(写真:アフロ)

去年不審死した『紀州のドン・ファン』と呼ばれた和歌山県田辺市の資産家の男性が、「全財産を市へ遺贈する」との遺言を残していたことがわかりました。遺産は少なくとも13億円に上るということです(“紀州のドン・ファン”13億円超の遺産確認…遺言書で田辺市が遺贈受理手続きを開始)。

このように、相続人以外の人や団体に財産を残す場合には、相続人に財産を残す場合と違っていくつか注意していただきたい点があります。

遺言を残すこと

遺言は人の最終の意思表示について、その者の死後に効力を生じさせる制度です。私的自治の原則(私人の生活関係で自由が尊重されること)を人の死後にまで拡大するものとして、遺言の自由も認められるとされています。当然、相続人以外の団体に遺産を承継させることができます。

反対に、遺言を残さなければ相続人以外の人や団体に財産を残すことはできません。遺言を残さなければ、相続人間での遺産分割協議によって遺産が引き継がれることになります。

理由を記すこと

相続人以外の人や団体に遺産を残すことによって、相続人が承継する遺産が少なくなってしまいます。そのため、遺言者の死後に、相続人から「(亡くなった父が)市に寄付するなんて考えられない」「この遺言書はだれかにそそのかされて書いたものだ」などと本人の意思で残したものでないといった遺言の信ぴょう性を疑う声が出たり、「そもそもこの遺言書は偽造されたものだ」といったように遺言の真贋を疑う声が上がることも考えられます。

このような疑義を封じるために、団体に遺産を残すことを決めた経緯と理由を遺言書にきちんと記すことが大切です。

公正証書遺言にすること

このように、相続人以外の人や団体に遺産を残す遺言書は、一般に相続人等から遺言の信ぴょう性や真贋を問う声が上がりやすくなります。したがって、自分一人で残すことができる自筆証書遺言ではなく、公証人と証人2人以上が立ち会う下で作成する公正証書遺言で作成することをお勧めします。

遺言執行者を指定すること

遺言の効力は遺言者(遺言書を作成した人)の死後に発生します。したがって、当然ですが、遺言の内容を実現するのを遺言者は見届けることはできません。そこで遺言の執行(遺言者の死後に遺言の内容を実剣する手続)を責任もって成し遂げてくれる人が必要になります。この、遺言の執行をしてくれる人を遺言執行者といいます。そして、遺言執行者は遺言書で指定することができます。遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します。

団体に遺産を承継させるには、その団体との折衝や実際の相続手続など専門能力が求められます。実際に、遺言書を作成するときに、遺言執行者を頼めそうな人に遺言執行者を引き受けてくれるか否かを確認しておいた方がよいでしょう(ただし、この時点で遺言の内容がその者に知れるので注意を要します)。

自分の死後にその団体が存続している確率が高いこと

せっかくある団体に財産を残すという遺言書を作成しても、自分の死後にその団体が消滅してしまっては元もこうもありません。その場合は、その団体に残すとした財産の行方は相続人間の遺産分割協議に委ねられることとなってしまうのです。したがって、その点も考慮して団体を選ぶ必要があります。

このように、相続人以外の人や団体に財産を残す場合は、いくつか注意すべき点があります。永年住み慣れた市、故郷の町、母校、慈善団体など、相続人以外の団体に財産を残してみようとお考えの方は、ご参考にしていただいて、遺言の内容が確実に自分の死後に実現する遺言書をぜひ残してください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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