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命名の判決~名前の文字制限は憲法違反?子どもに自分と同じ名前を付けられる?

竹内豊行政書士
「命名に関する裁判例」をご紹介します。命名する場合の参考にどうぞ。(写真:アフロ)

前回、「子の名前トップは蓮くん・咲良ちゃん~名前は自由に決められる?変更できる?」を掲載したところ、大勢の方にご覧いただけました。

名は変更が可能とはいえ、ほとんどの人はほぼ毎日しかも一生関わっていきます。命名に関心が高い方が大勢いらっしゃるのは当然といえるでしょう。

そこで、今回は「命名に関する裁判例」をご紹介します。命名する場合の参考にしてください。

命名に使用できる文字を制限することは憲法違反か?

【判決その1】名づけ文字をある範囲にすることは、「公共の福祉」のために必要

名づけ文字をある範囲にすることは、公共の福祉のために必要であると認められる。そのため、本条(戸籍法50条)によって子の名は常用平易な文字を用いなければならない。

したがって、その範囲を当用漢字表に掲げる文字に制限したことは、憲法のどの規定にも違反するものではない(昭和26・4・9東京高・家裁月報3・3・13)

【判決その2】戸籍法により命名するのは当然

戸籍上の氏名に関する限り、戸籍法の定めるところに従って命名しなければならないのは当然であって、これらの規定にかかわりなく氏名を選択し、戸籍上それを公示すべきことを要求し得る一般的な自由ないし権利が国民各自に存するとは解することはできない。

本条(戸籍法50条)の規定が憲法13条に違反する旨の主張は、その前提を欠く(昭和58・10・13最・判例タイムズ516-111)

戸籍法50条 (子の名に用いる文字)

1. 子の名には、常用平易な文字を用いなければならない。

常用平易な文字の範囲は、法務省令でこれを定める。

憲法13条 

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

子どもに親と同じ名前を命名できるか?

子どもに自分(親)と同じ漢字を命名しようとした人がいました。

【判決その3】子どもに親と同じ名を付けることは「名の特定の困難な命名」として戸籍法に違反する

子の命名権において自由に文字を選んで命名することができるのが本則である。しかし、名はその人を特定する公の呼称であるから、いかなる名が付けられるかは、本人・世人は利害関係をもっている。したがって、難解・卑猥・使用の著しい不便・識別の困難などの名は命名することができないものと解すべく、本条の規定(戸籍法50条)は右解釈の現れである。

父親がその妻「伸子」との間に生まれた長女の出生届に「伸子」(しんこ)と命名した場合に「伸子」(しんこ)と「伸子」はまぎらわしい名であって世人が同一戸籍内の「伸子」なる者から「伸子」(しんこ)を識別すること。すなわち「伸子」(しんこ)を特定することは困難であるから、このような出生届は、名の特定の困難な命名として、本法に反する違法な届出というべきである(昭和38・11・9名古屋高裁・高裁民集16・8・664)

判決文はこちらからご覧いただけます。

以上ご紹介した判決からお分かりいただけると思いますが、名は社会生活を送るに当たって「自己を他者と識別する」という機能を持っています。そのため、特定困難な命名は避けた方がよいと思います。

また、原則として一生その子に関わります。命名する際には、子どものためにも子どもの将来をイメージすることが大切です。

以上のことを念頭に置いて命名してはいかがでしょうか。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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