Yahoo!ニュース

結婚について知っておきたい法知識 14 別居中でも生活費を分担しなくてはならない?

竹内豊行政書士
夫婦関係が破綻して別居中でも生活費を分担しなくてはならないのでしょうか。(ペイレスイメージズ/アフロ)

夫婦には同居義務があります(民法752条)。

(同居、協力及び扶助の義務)

752条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

この義務に対応して、婚姻共同生活から生じる費用は、夫婦各自がその資産・収入その他一切の事情を考慮して分担します(民法760条「婚姻費用の分担」)。

その費用は、家事労働という現物出資の形でも構いません。したがって、夫は生活費を入れて、妻は家事をするという役割分業も、婚姻費用分担の一つの方法になります。

(婚姻費用の分担)

760条 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。

婚姻費用の内容は、夫婦が未成熟子との家庭生活を営む上で必要な費用です。すなわち、夫婦の財産・収入・社会的地位にふさわしい通常の生活費を意味します。

具体的には、次のようなものが挙げられます。

・夫婦の衣食住

・夫婦の教養娯楽

・子の養育費 など

別居中の夫婦の婚姻費用分担

夫婦関係が円満であれば婚姻費用分担義務は通常問題になりません。

婚姻費用分担義務が実際に問題になるのは、次のような場合です。

・夫婦が別居して婚姻関係が破綻状態になっている

・夫婦が別居して離婚訴訟をしている

夫婦間の扶助義務(民法752条)は、「自己(自分)と同程度の生活を相手方に保障する」という生活保持義務(夫婦間の扶養、親の未成熟子に対する扶養であり、夫婦・親子の本質として、相手方の生活を自己の生活の一部として自己と同程度の水準まで扶養する義務のこと)です。したがって、たとえば、夫が生活費を入れている場合は、夫は別居中の妻に対して、同居していたときと同じ程度の費用を分担しなければなりません。

しかし、同居生活と別居生活では、実際にかかる費用は異なります。別居していても同じ程度の生活費を負担することになると、結果的には義務者に過重な負担を強いることになってしまいます。

そこで、判例では次のような工夫をしています。

・相手側の協力がないことを理由に負担額を軽減する。

・相手側が正当な理由なく同居を拒んでいることを理由に、婚姻費用分担請求を「権利の濫用」(民法1条3項)として認めない。

1条(基本原則)

1 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。

2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

3 権利の濫用は、これを許さない。

・婚姻破綻につき夫婦双方に責任がある場合は、離婚訴訟が提起された後は、生活補助義務(自己が社会的に相応の生活をしてなお余力がある場合に、必要最低限の援助をすればよい義務)を前提として、生活保護法の基準に準拠した分担をすることで必要十分とする。

なお、負担すべき金額について、家庭裁判所では、算定表が用いられることが多いようです。

縁あって一緒になった夫婦です。夫婦の間で婚姻費用分担義務について考えなければならないような関係になるのはできれば避けたいものです。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

竹内豊の最近の記事