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知っておきたい「親の相続」その2〜所有者不明土地が九州の面積を上回る! 対策は?

竹内豊行政書士
所有者不明土地が九州の面積を上回りました。その主な原因は相続です。(ペイレスイメージズ/アフロ)

政府は、所有者が分からない土地に公園や店舗などを作れるようにする制度の概要を固めました。制度を創設するための特別措置法案を来月3月上旬に閣議決定して今国会で成立させ、来年夏の施行を目指します。

有識者らでつくる民間の「所有者不明土地問題研究会」(座長・益田寛也元総務相)の推計では、所有者不明土地は全国で約410万ヘクタール(2016年)に上るということです。この面積はなんと九州の面積を上回る数字です。そして、このまま有効な対策を取らなければ2040年には北海道本土にほぼ匹敵する広さになると推測されています(以上参考、読売新聞2018.2.19)。

土地を利用するには所有者の承諾が必要です。したがって所有者が不明な土地の多くは手を付けられない状態にならざるを得ません。その結果、再開発や災害復興の妨げになっています。

たとえば、首相官邸で1月19日に行われた所有者不明土地問題をめぐる閣僚閣議会議の初会合で配布された資料には、所有者不明土地が自治体などの用地取得を妨げている実態を浮き彫りにしている次のような事例が記載されました。

・約700人の共有地の取得を進めたが、約10人が所有者不明で交渉が難航

・共有林の所有者の相続関係人30人のうち1人が行方不明者で買収が困難

では、なぜ所有者不明土地がこのような膨大な面積になってしまったのでしょうか。実は、その多くの原因は相続なのです。

以下、相続が原因で遺産の土地が所有者不明になってしまう一連の流れをご紹介します。親の相続が原因で所有者不明土地を発生させないための参考にしてください。

相続が発生すると財産は「共有」になってしまう

人が亡くなったその瞬間に相続人について相続が開始します。

(相続開始の原因)

民法882条

相続は、死亡によって開始する。

相続人は、相続が発生すると死亡した人(被相続人)の「一身に専属した」もの(年金受給権、生活保護受給権、雇用契約による労働債務等)以外は一切引き継ぎます。

(相続の一般的効力)

民法896条

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

そして、相続人が複数いる場合は、相続財産は相続人の共有になります。

(共同相続の効力)

民法898条

相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。

その共有の割合が「法定相続分」です。たとえば、被相続人の配偶者が2分の1、残りを子どもたちが均等の割合で分け合うというものです。法定相続分は、民法900条で規定されています。

残念ながら、人は死んだらあの世に財産を持っていけません。被相続人が残した財産が「誰のものでもない状態」つまり、無主物になってしまったら世の中は大混乱になってしまいます。そこで、法は被相続人の財産を一定の関係の者(相続人)に一定の割合(法定相続分)で、「とりあえず」引き継がせることにしたのです。

共有になった財産を協議で「具体的」に分け合う

相続人全員が「法定相続分で構いません」というならいいのですが、そういうケースはほとんどありません。

そこで、いったん法定相続分で割り当てられた財産を「具体的」に分け合う必要性が生じます。この、具体的に分け合う行為が遺産分割です。そして、遺産分割の話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。

遺産分割は「全員参加・全員合意」が鉄則

「協議」ですから相続人全員が参加して参加者全員が合意しなければ成立しません。

たとえば、相続人が10人いたとします。一人が「面倒だから好きなようにしてください」と言って参加してくれないと協議は成立しません。さらに、9人が分け方に賛成しても1人でも反対したら成立しません。多数決ではダメです。

そして、成立しなければ、いつまで経っても法定相続分による「共有」のままです。結果的に遺産は「塩漬け」の状態に陥ります。

厄介な「共有」

この、「共有」がくせ者です。

共有のままでは共有者全員の同意が得られなければ、共有物の変更(民法251条)ができないのです。変更とは、共有山林の伐採や共有物を法律的に処分する行為(売買等)が挙げられます。

(共有物の変更)

民法251条

各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。

共有の土地がたどる末路

そして、年月が経つと、相続人が死亡してその子どもや孫、時には甥や姪が相続人の地位を引き継いだりします。

当事者が雪だるま式に増えていきます。登場人物が増えれば増えるほど話がまとまらなくなるのは世の常。遺産分割協議も例外ではありません。

そのうち、相続人の中に、連絡が取れなくなってしまう人が出てきます。

そして、遺産が所有者不明の土地になってしまうのです。

親の遺産を所有者不明土地にしないために~遺産分割は急げ!

相続が発生したらできるだけ速やかに遺産分割協議を成立させることです。友好な相続人の関係も時が経つにつれて変化することはよくあります。

時間が長引けば長引くほどまとまりにくくなるのが遺産分割です。

「善は急げ」とあるように「遺産分割は急げ」と覚えておきましょう。

親に遺言を残してもらうのも策

もし、今から親が亡くなったら遺産分割が困難になることが予想されるなら、親が心身共に元気な内に相続について話し合うことをお勧めします。

親との話し合いの中で「相続人全員が参加して参加者全員が合意することが難しい」となったら、遺産分割をしないで遺産を承継できるようにするために親に遺言書を残してもらいましょう。

親に相続や遺言の話をするのにためらいがあるかもしれませんが、親も自分の相続が「争族」になるのを望んでいないはずです。

所有者の不明な土地はもはや国家レベルの問題です。「国の窮地を救う!」という気概で勇気を持ってチャレンジしてみてください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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