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コロナに負けるな、日本の子どもたち1 SNS?動画?ゲーム? 高校生に聞いてみました

竹内和雄兵庫県立大学環境人間学部准教授
(写真:アフロ)

コロナに負けるな子どもたち

 新型コロナ感染症の流行で、多くの子どもたちが家にいます。例年なら、そろそろ新しい生活に慣れ、少し落ち着いてくる時期ですが、学校にも行けず、悶々としている子どもも多いと思います。大人でもずっと家にいるのはそろそろつらくなってきているので、仲間との生活を一番に考える子どもたちの不安やストレスは相当なものです。

 学校にも行けない、友達に会えない、外に出ることもできない、テレビをつけたらコロナのニュースばかり、買い物や図書館等に連れ出すこともできない…。子どもたちがYouTube等の動画を見たり、SNSで友達と話したり、ゲームをしたりするのを「止めなさい」と頭ごなしに叱るのは難しい状況です。やめさせても、他にすることを提案できないからです。一方、私のもとには連日、保護者や先生から相談が寄せられます。「子どもがずっとスマホしていて心配」「このままネット依存にならないか不安」「やめろと言っても暴れだしてやめない」「スマホをやめない子どもを見ていると私がおかしくなりそう」…。切実な声です。

 私たち大人はどうしたらいいのでしょうか? 大人がいくら考えても埒が明かないので、スマホサミットで知り合いになった高校生4人に、保護者の許可を得て、zoomで聞いてみました。便利な時代です。個人が特定できないように一部改変し、他の場面で聞いた内容も付け加えて以下、書きます。

竹内 最近、どんな感じ?

A男 ゲームゲームゲーム!

B子 私は動画かな、やめられない(笑)

C男 関連動画がいいとこ、ついてくる!

D子 TikTokとかSNSとか楽しい

竹内 一日、どれくらいしてるの?

A男 起きてる間ずっと

B子 SNSして、動画見て、ゲームして

D子 私はLINE通話つなぎっぱなし

竹内 おうちの人、怒らない?

B子 最初は怒ってたけど、他にすることない

A男 うん、あきらめてる感じ

C男 このまえ朝4時までゲームしてて…

竹内 朝の4時までずっと?

C男 翌朝12時頃寝てたら母さん、かんかん

B子 朝まで「どうぶつの森」!

D子 それそれ!

A男 お母さんに取り上げられた

D子 え? どうしたの?

A男 父さんもゲーム漬けで、味方してくれた 

B子 ああ、お父さん、甘いよね

竹内 君らはどう思ってる? 楽しんでる?

A男 本当はやりすぎかなって

D子 ネット依存かもしれない、こわいかも

ネット依存が怖い?

 最初は勇ましい子どもたちでしたが、だんだんと勢いがなくなってきて、最後は「自分は依存症かもしれない」と不安を語りだしました。親に言われるのは嫌だけど、自分でも何とかしなければいけないレベルだと4人とも感じているようでした。私は今回は聞き役に徹するつもりでしたが、意外にも彼らが私の言葉に聞く耳を持っているようなので、彼らにゲーム障害の定義を伝えてみました。以下、その時の説明の概要です。再構成して書きます。

 ご存じの通り、2019年5月、WHO(世界保健機関)が「ゲーム障害」を正式に病気に認定しました。2022年からは健康保険が使えるようになるそうです。これまで「ネット依存」とよく聞きましたが、今までは単なる俗語で、医学的にはそういう言葉は存在しませんでした。今後は「ゲーム」に関しては病気として考えることができます。WHOの「ゲーム障害」には大きく4つの判断基準があります。簡単に書きます。

1.ゲームをする時間や頻度を自ら制御できない

2.ゲームを最優先する

3.問題が起きているのに続ける

4.以上の状態が12カ月以上続く(重症の場合は短期間でも)

やばいかも…

A男 おれ、依存かもしれないな

B子 でも12か月も続いてないから大丈夫かな

A男 ここ1ヶ月は完全に依存だ!

B子 お母さんと喧嘩しても続けてる(笑)

C男 このまま長引いたら入院?

D子 私は動画だから大丈夫、ゲームじゃない

B子 でもD子、12時間はやばいよ

D子 ドラマ10話見たら12時間

A男 ゲームで気づいたら12時間はざらかも

C男 チームでやってたら一瞬

A男 ボイスチャットで話すと盛り上がる

 彼らによると、今の状態がずっと続いたら、「日本中の子どもが『依存』になってしまうかもしれない」とのことです。「やっぱりルールというか、規則はいるかもしれない」「うん、寝る時間決めるとか」「起きる時間を決めて逆算する?」「自分で決めたらいいんじゃないかな?」などなど。意外にも4人中2人が「スクリーンタイム」を設定して、制限時間が過ぎたら警告が出るようにしているそうでした。「今は強制力はなく、単なるお知らせなんだけど、受験になったら親にパスワード入れてもらおうと思ってる」という子までいました。

親に管理してもらう?

A男 それだけは無理

C男 受験になったらなぁ

B子 協力してもらいたいかも

竹内 自分で管理できないの?

A男 それができたら苦労しない

C男 友達に誘われるし…

D子 ついつい動画、見続けて‥

B子 気づいたら2時間とかざら…

C男 親なんだから何とか言ってくれ

A男 高校受験のとき、ちょっと思った

 彼らはしきりに「スマホの誘惑」という言葉を使います。「うまく誘ってくる」と言います。私にも記憶がありますが、興味のある動画を見ていると関連動画にさらに興味深いものが…。数珠繋ぎに繋がって気づいたら長時間見ていた、というのがよくあります。「AIへの敗北」を痛感し、暗澹たる思いに駆られます。私は布団にスマホを持ち込むのをやめる決意を一旦しましたが、ついつい持ち込んでしまいます…。

 彼らは「親に協力してもらおっかな」と言います。友達に言いやすいのだそうです。「鬼ババ作戦」と言って笑っていましたが、「お母さんが怒ってるからしょうがない」と言えば罪がないそうで、みんな心当たりがあるようでした。彼らは自分の意志でスマホサミットに参加した子たちですから、彼らの言葉を日本中の子どもたちの総意とは言えないのはわかっていますが、それにしてもここまで追い込まれている子がいることに私たちは気づくべきです。

 彼らはこうもう言いました。「かといって、親に勝手にルールを決められてもうまくいかない」「ちゃんと話し合って納得したルールなら守れるよな」。

兵庫県の調査結果(2018)から

 2つのグラフを見て、考えてみましょう。どちらも兵庫県スマホサミット(兵庫県青少年本部)の結果で、私たちが兵庫県の中高生と一緒に考えたものです。子どもたちが考えたアンケートですので、かなり雑駁なものです。もちろん、このデータだけで何かを断言することはできませんが、考えるきっかけにはできると思います。そのつもりで見てください。

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 まずは2018年の結果(小中高校生4249人対象)です。「ネットルールを破ったことがある」と答えた割合を「ネット依存傾向」の有無で比べました。「ネット依存傾向」がある子は、ない子に比べてルールを破っていることが一目でわかります。特に「保護者とのルール」や「自分で作ったルール」は半分近くの子が破っています。しかし、「生徒会等のルール」や「友達と作ったルール」は破ったことがある子は少ないです。「自分たちで作ったルールが良い」ことがわかります。私と学生たちは年間50回近く、全国各地でスマホサミットを実施し、子どもたち自身で自分たちのネットルールを考える手助けをしていますが、その根拠を得た思いです。今年はユニセフと「全国スマホサミットを開催し、熊本、久留米、津、茨城、神戸の5か所で子どもたちと話し合いましたが、どこの子どもたちも異口同音に「自分たちでルールを考えたい」と言いました。ちなみに「ネット依存傾向」は、キンバリー・ヤング博士が作った世界的なテストへの回答から判断していますが、このことについては後日詳説します。閑話休題。では「保護者のルール」は無意味なのでしょうか。

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 2つめのグラフを見てください。2019年のアンケート結果(小中高校生7390人対象)です。7390人分のデータなので、説得力はありますが、私は意味を分かりかねていました。今回の高校生の言葉を聞いて、少しわかったような気がします。

 大人がいくらルールを決めても、子どもが「話し合って、納得した」と思ったルールでなければ無意味なケースも多いのかもしれません。だとすれば、私たち大人が子どもたちにすべきことは、一方的に説教することでも、自分たちで考えさせることだけでもありません。大人と子どもがしっかり向き合って、話し合うこと。そのことを子どもたちも求めているのかもしれません。高校生の言葉を借りると、「親なんだから何とか言って」です。もしかしたら、一部の子どもたちにとってネットの問題は自分だけでは解決できないほどの大きな課題になってきているのかもしれません。私にはそういう心の叫びにも聞こえました。

 「反抗期だから素直になれないけど、本当はお母さんと話し合いたい」というD子の言葉に、他の3人は大きくうなづきました。

試されているのは私たち大人

 せっかく、子どもたちと同じ空間にいる時間が山ほどあります。子どもとしっかり向き合う時間を作りましょう。なかなか難しいですが、粘り強く、子どもに問いかけてはどうでしょう。「お父さんも自分のスマホの時間を考えようと思っているんだ」「お母さんも考えたの」、等なんでもいいので、大人がまずしっかりと考える姿勢を見せて、子どもと向き合ってみるチャンスかもしれません。

 それ以前に、まず子どもたちと雑談する時間を増やす工夫が必要なのかもしれません。一緒にお菓子を作ったり、好きな映画を見たり…。そういう時間を共にする中で、子どもと向き合うことができるのかもしれません。

 私は大学教員で、普段は多くの自治体で教員研修を引き受けたり、各種委員会で意見を述べたりする機会が多いですが、今はそういう機会もほぼありません。そのため少し時間があります。何回かに分けて、今、子どもたちとネットについて思っていることを書いていこうと思います。

 ご意見等、ありましたら、ぜひお願いします。

 

兵庫県立大学環境人間学部准教授

公立中学校で20年生徒指導主事等を担当(途中、小学校兼務)。市教委指導主事を経て2012年より現職。生徒指導を専門とし、ネット問題、いじめ、不登校等、「困っている子ども」への対応方法について研究している。文部科学省、総務省等で、子どもとネット問題等についての委員を歴任している。2013年ウィーン大学客員研究員。教育学博士。

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