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「死んでしまいたい」子へ大人ができること -町田市の小学生自殺で今,強く思うこと

竹内和雄兵庫県立大学環境人間学部准教授
(写真:アフロ)

町田市でとても悲しいことが起きました。学校から配られた端末での書き込みが原因だと報道されています。ずっとこのことばかり考えています。まだわからないことが多いですが,今,思うことを書きます。まとまっていませんが,前回に続いて書きます。

今回は,少し前のできごとをきっかけに考えてみました。

大学の授業で

少し前,ある大学での教職関連の講義でのことです。

その日は「いじめ」についての講義でした。「いじめの四層構造」など,理論的な部分を一通り講義したあと,学生たちに「いじめ」についてグループ討議の時間を作りました。きっかけとしての討論でしたので,あまり制約せず,自由に討論してもらい,20分程度の討論のあと,①話題に出たこと,②他のグループへの問題提起,を出し合いました。

生徒に死にたいと言われたら…?

自分たちの体験を話したグループ,いじめをなくすためにどうしたらよいかを話したグループなど様々でしたが,あるグループから,「生徒に『死にたい』と言われたらどうしたらよいか」と問題提起がありました。いじめの場面を想定している問題提起でした。

「教師としてのカウンセリングテクニック」の演習直後だったので,みんなでどうしたらよいかを話し合う時間を取りました。難しい課題でしたが,大学院の講義ですので,チャレンジしてもらいました。

ストレートマスター(大学を出てそのまま大学院に進学した学生)が多いこともあり,どのグループも悩んでいましたが,考えることじたいが彼らの学びになるし,その日の講義は「チーム学校」について触れて終わろう,くらいに考えていましたが,学生諸君は一生懸命でした。

答えはないですが

もちろん正解はありません。あったとしても1つではないし,生徒によって答えはかわってきますが,学生は「正解」を求めて一生懸命です。まず自分の意見を言わずに生徒の気持ちに寄り添って聴くこと,周りにその生徒の味方をつけてあげる,などいろいろな意見が出ました。時間がなかったので,次回に再度話し合うこととして,みんなでその日の講義を振り返る時間を取りました。

私は,毎回の講義でその日の授業の学びや気づきなどをその場で紙に書いてもらい,数名に発表してもらっています。私は,彼らの発言のあとに総括します。ある女子学生がこんな発言をしました。

ある女子学生のこたえ

私は「死にたい」と思っている生徒に言うことがあります。

「死にたい」と思う子は,「自分は何もできない」「生きていてもしょうがない」とか自分への気持ちが下がっていると思います。

私は教師としての経験はないし,言葉もうまくありません。

でも私は23年間,一生懸命生きてきました。教師としてでなく,人として向き合うことが大事だと思います。

私が言いたいことは「私は死んでほしくない。少なくとも私はあなたが死んだら悲しい。だから死なないでほしい」

生徒の目を見て,しっかり話したいと思います。

前提に,私がその生徒に本心から「死んでほしくない」と言えるかどうか,です。

嘘をついたら伝わり,かえって生徒を傷つけます。

だから,「死んでほしくない」と心から言えるように生徒と向き合いたいです。

いじめた私だからこそ

その学生は,少し前の講義で,自分がいじめ加害者だったことを告白しています。

その時,「私はいじめ加害者だった経験があるからこそ,教師になります」と力強く発言しました。

「過去は変えられませんが,自分の生き方の中で,反省を形にします」と発言していました。

そういういろいろな気持ちが結実したのだと思います。

教員として,人として

私は講義のまとめとして,一生懸命考えたことをたたえたうえで,

「チーム学校」の必要性を説くつもりにしていましたが,

彼女の言葉に完敗しました。

私たちは教師である前に,まず人間として子どもたちに向き合う必要があります。

これは教育関係者に限ったことではなく,保護者として,地域住民として,企業の人間として,行政職員として,同じ時代を生きる仲間として,重要な視点です。

大学生に教えられました。

町田の悲しい事件に向き合うために

私たちがどんなに悲しんでも,議論しても,亡くなった子は帰ってきません。だからこそ,私たちはしっかり向き合う必要があります。自分たちの周りの子どもに,これまで以上に向き合うこと,まずここからしか始まりません。

子どもたちはこれから高度情報社会を生き抜いていきます。学校の情報端末で悲しい事件が起きたのですから,何らかの対策が必ず必要です。しかし,長い目で見たら,学校でのICT活用は進んでいきます。

「だから学校での端末使用はしない」という議論にはなりません。では何が必要か,パスワード管理の問題なのか,情報モラル教育が必要なのか,監視体制の問題なのか,それぞれの自治体で見直すことは必須です。

私はこの種の問題に長く関わってきました。多くの事例にも関わってきました。

私なりに頑張りたいです。前向きな議論ができる方,ぜひご一緒しましょう。

ユニセフの方の言葉

前回の投稿で,ユニセフの方の言葉を書きました。道路と同じで,ネットも使わせなければ事故は起きない。だからと言って使わせないことは現実的ではない…。

少し補足します。

交通事故等で昨年,2000人以上亡くなりました。だからと言って「自動車廃止」という声は大きくなりません。私たちの社会は,「2000人」であきらめているのかもしれません。

ネットが原因で亡くなる人はもちろんそんなに多くありません。学校端末で起きたできごとにより亡くなったのは、今,わかっているのは1人です。だからしょうがないと言っているのではもちろんありません。この1人は,私たち大人がしっかり対策していれば,守れたかもしれない命です。これから二度と同じような悲しいことが起きないために,今,しっかり考えなければならないときです。

試されているのは私たち大人です。

兵庫県立大学環境人間学部准教授

公立中学校で20年生徒指導主事等を担当(途中、小学校兼務)。市教委指導主事を経て2012年より現職。生徒指導を専門とし、ネット問題、いじめ、不登校等、「困っている子ども」への対応方法について研究している。文部科学省、総務省等で、子どもとネット問題等についての委員を歴任している。2013年ウィーン大学客員研究員。教育学博士。

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