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小中携帯電話持ち込み「原則禁止」を国が見直しへ 私が「時期尚早」と考える理由

竹内和雄兵庫県立大学環境人間学部准教授
(ペイレスイメージズ/アフロ)

携帯電話持ち込み「見直し」

 2月19日、文部科学大臣が閣議後記者会見で、小中学校のスマホ持ち込み「原則禁止」とした2009年の文部科学省通知を見直すことを明らかにしました。大阪府が小中学校持ち込みの「一部解除」のガイドラインを2月18日に出したばかりだったので、かなりの注目が集まりました。

 私は立場上、多くの自治体の方、特に教育委員会関係の方とつながりが多いのですが、これまでは「大阪はたいへんですね」と対岸の火事を眺めるような状況でしたが、ここにきて大騒ぎです。2日後の今日に至るまで、すでに20人以上から連絡がありましたが、どなたも「そんな準備はできていない」「どういう準備が必要でしょうか?」等、戦々恐々です。さらにテレビ、新聞等の取材も同じくらいあるので、たいへんですので、ここで私の考えを書いておきます。

世の流れ

 基本的には世の中の流れで、当然の方向だと思います。10年後には小中学生が普通に学校に携帯電話等を持って行って、授業でも活用していると考えています。世界的な流れで、授業中に情報機器を使って検索したり、意見表明したりしていくのは当然です。世の中がそういうスキルを要求しているのですから、学校で教えないわけにはいきません。そうしていかないと日本の子どもたちはこれからやってくる「高度情報化社会」を生き抜いていけないでしょう。最近会ったシンガポールや韓国の学生の情報収集能力は私が日々接している学生とは比べものにならないものでした。私の少ない情報で世の中を云々するのは危険なのはわかっていますが、私が日々接している大学生の情報収集能力は日に日に下がっている印象さえ受けます。大学入学時点でブラインドタッチができる学生はほぼいません。私が大学教員になったばかりの7年前より下がっている印象です。今の学生はスマホでほぼすべて事足りるので、パソコンを使いません。今の世の中を「スマホ社会」と定義すると彼らは最先端かもしれませんが、総合的に彼らのスキル育成について見直していかなければならないのは自明でしょう。

だが時期尚早

 以上のことを書いた上で、しかし時期尚早です。日本社会、特に日本のネット社会は、残念ながら小中学生が学校にスマホを持って行って良いほど成熟していません。大人含めて、情報モラルがまだ十分ではありません。連日の「バイトテロ」だけ見てもあきらかです。そういう愚行を繰り返しているのは小中学生ではなく、残念ながら高校生、大学生、社会人です。

 大人を含めて、モラルが完成していない現状で解禁したらたいへんなことになります。社会全体で慎重に議論を繰り返す必要があります。例えば登下校の子どもたちの歩きスマホ。例えば授業中のスマホ使用。例えばスマホ盗難。例えば盗撮。彼らが失敗しないように明確なルールを示し、できる準備は万全にしておく必要があります。

 文部科学省は、これから見直し作業に取り組むことになっています。まだ意思表明がなされたばかりです。私学や高校の先行事例を集めて、考え得るすべてのデメリットの改善策を講じる目処が立ってから解禁にしても遅くありません。もっと言えば、子どもたちを実験台にできません。

 そういう意味では、大阪府に注目があつまります。最終決定は各学校、市町村教育委員会にゆだねられる(これはこれで問題ですが)ようですが、大阪府の来年度の状況を全国で見ていく必要があります。大阪に住む私としては、大阪府の子どもたちを実験台にしてほしくない気持ちは強いので、できる協力は惜しまないつもりです。

兵庫県立大学環境人間学部准教授

公立中学校で20年生徒指導主事等を担当(途中、小学校兼務)。市教委指導主事を経て2012年より現職。生徒指導を専門とし、ネット問題、いじめ、不登校等、「困っている子ども」への対応方法について研究している。文部科学省、総務省等で、子どもとネット問題等についての委員を歴任している。2013年ウィーン大学客員研究員。教育学博士。

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