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座間の事件に模倣犯。女子高生5人に聞きました。なぜネットに「死にたい」? 見えなくなった若者の悩み。

竹内和雄兵庫県立大学環境人間学部准教授
(写真:アフロ)

少女が狙われている

 神奈川県座間市のアパートで9人の切断遺体が発見された事件では、自殺願望をツイッターでほのめかしていた少女らが犠牲となりました。東京や北海道では、同じような書き込みをしていた少女をわいせつ目的で誘拐したり、殺そうとしたりする事件が相次いでいます。容疑者は「座間の事件を参考に家出少女を探した」いう主旨の発言をしているそうです。なぜ、少女たちはSNSに「死にたい」などと簡単に書いてしまうのでしょうか。事件について、女子高校生に聞いてみました。

女子高生座談会(座間の事件)

なぜネットに「死にたい」?

竹内 「死にたい」ってネットに書く?

A子 考えてみたら、よく書くなぁ

B子 道でこけて恥ずかしくて死にたい

A子 明日テスト、もう死にたい、とか

C子 疲れた~くらいの時もあるよね

A子 そう、軽い感じ

B子 軽い言葉を狙われた

 もちろん、深刻な思いの場合もありますが、彼らにとって、「死にたい」は、「疲れた~」の代わりくらいの軽い言葉の場合も多いそうです。そんな軽い言葉が犯人の標的になってしまったかもしれないと言います。

かまちょ、って?

竹内 じゃ「死にたい」は放置でいい?

A子 かまちょ、もいるからなぁ

竹内 かまちょ、って?

A子 「かまってちょーだい」ちゃん

B子 メンヘラの、かまちょかも

E子 リスカ見せるより手っ取り早い

A子 即リプたくさんくるし

 「死にたい」って言葉は、「かまってほしい」ときに効果的だそうです。メンヘラ(=メンタルヘルスが病んでる子)が、リスカ(=リストカット)の傷を見せて「かまってアピール」したりすることもあるけど、ネットの「死にたい」の方が手っ取り早く、多数の即リプ(=即座のリプライ、返信)が来る、と言います。

なぜ友達に言わない?

竹内 友達に言わないの? 親友とか?

A子 「死にたい」はドン引きされる

B子 表アカでは良い子してたいもん

A子 表はリア充自慢、インスタ映え笑

E子 裏アカは自分の弱みも書くから

B子 これ以上、印象悪くならない

C子 ネットにはいい人もいる

D子 真剣に聞いてくれるし

C子 わかってくれて優しい

A子 同じ趣味の友達!

B子 顔も知らないから書きやすい

C子 何かあったらすぐ切れるし

 表アカウント(=表アカ、公式の自分)で良い子を演じている反動で、裏アカウント(=裏アカ、自分の裏の顔)では、弱い自分、悪い自分をさらけ出す。ネットの人は、弱い自分、悪い自分をはじめから知ってくれているから、何でも話せる。いざとなったら簡単に関係を切ることができるから安心と言います。

 「子供・若者白書」(内閣府、2017)によると、若者にとって「居場所」と感じられる場は、「自分の部屋」「家庭」に次いで「インターネット空間」が3位につけており、「学校」を上回っています。インターネット上の人に対し、「困ったときは助けてくれる」との回答が21.8%、「他の人には言えない本音を話せるときがある」との回答も25.4%となっており、インタビューをした女子高生と同様の傾向が見られます。

なぜ大人に言えない?

竹内 大人に話してほしいなぁ

A子 大人は大騒ぎして暴走する!

B子 一人に言ったら全員に伝わる

C子 ホウレンソウ、らしいよ

A子 学年集会されたり

B子 だから先生には言わない

 大人は信用できないと彼らは言います。私たち学校教員は、ホウレンソウ(=報告連絡相談)を合い言葉に、学校全体で子どもたちを守ろうとしていますが、それが「暴走」と映っているとしたら悲劇です。学年集会は、まさに同じ被害が出ないために必ず行っていますが、「先生の不用意な発言で、誰のことかすぐばれて、よけい居場所がなくなる」と言います。ある子は、それを「二次被害」と言って笑いましたが、目は笑っていませんでした。

ツイッターを見てみると

 ツイッターの「#死にたい」を1月7日(日)10時過ぎに見てみました。一部改変して紹介します。

 血のついたカミソリの画像とともに「血がすき。こんな私でよければ繋がりませんか」

 すぐ下には「誰か助けてください、死にたいって思ってる。怖いくて辛くて今だって涙が止まらないよ」 プロフィールによれば14歳。40件以上の返信がありました。「どうしたんですか? 話聞きますよ?」「命は大切に」等に混じって、「私も死にたいと思います…」も。「何でもいいから吐き出して」「アドバイスできるから」「マジで心配」…。

 とても優しく、親身な書き込みが続きます。そんな書き込みに、アカウント主の中学生は一生懸命、返答します。心が大きく揺れていると想像できます。元中学教師として、いたたまれない気持ちになりました。

 他に多いのは、「DMください」「DMでいいですか?」等、DM(=ダイレクトメッセージ、個人同士のやりとり)への誘導。

第三者はDMを覗くことはできません。どんなやりとりがされているのか、心配でしょうがないです。優しい書き込みの中に悪意を持った人が紛れ込んでいないとは言い切れません。

 今回、座間の事件もあってか、ツイッター社は利用規約を改訂し、自殺や自傷行為を促したりあおったりすることを禁止すると明記するなど改善に乗り出しています。政府も再発防止策の取りまとめに着手しています。事件を契機に、広くツイッターの危険性が認識され、事態が動いたことは良かったと思っています。

 しかし、実際には座間を模した事件が起こっています。現状の対策で十分なのか、国を挙げてしっかり議論していかなければならないと思っています。今、見てきたように「死にたい」という書き込みは削除しない方針のようです。子どもたちが悩みを書いたり、思いを吐露したりする場所がなくなるのはかわいそうという配慮でしょう。しかし、殺人や誘拐事件等の入口になってしまっている現状を考えると何らかの対応策が必要だと思います。

#援交も

 また、ツイッターには、「#死にたい」以外にも、「#援交」等で援助交際を持ちかける書き込み等もあります。警察庁は、平成28年にコミュニティサイト起因で性被害等にあった児童を1736人と発表しています。そのうちツイッターは446人で他を大きく離して1位(2位は「ぎゃるる」で136人)。平成27年の226人からほぼ倍増しています。私はこれまで各都道府県教委等主催の研修会だけでなく、文部科学省や総務省、内閣府、さらには警察庁等の会議等で、このあたりについて、これまで警鐘を鳴らしてきましたが、同時に対策していくべきだと考えます。

見えなくなった若者たちの苦悩

 1980年代、悲しい若者は「盗んだバイクで走り出」していました。「死にたい」若者の一部は、コンビニで「うんこ座り」する集団に優しく吸収されていました。「先生、あなたはか弱い大人の代弁者なのかい?」 尾崎豊がそういう空気を見事に表現したとおり、当時の若者は身体全体で私たち教員に挑んできていました。私たち教員も彼らに応えようと必死でした。今の若者はそういうリアルのつながりではなく、ネット上に救いを求めているのだとしたら…。どうしようもない焦燥感を持っています。

 もしかしたら彼らは、「ネットに逃げている」のではなく、「ネットにしか逃げ場がない」のかもしれません。試されているのは私たち大人なのかもしれません。

兵庫県立大学環境人間学部准教授

公立中学校で20年生徒指導主事等を担当(途中、小学校兼務)。市教委指導主事を経て2012年より現職。生徒指導を専門とし、ネット問題、いじめ、不登校等、「困っている子ども」への対応方法について研究している。文部科学省、総務省等で、子どもとネット問題等についての委員を歴任している。2013年ウィーン大学客員研究員。教育学博士。

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