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過去最大規模の2023年度予算が成立。これは、後戻りしない予算規模膨張の前触れか!?

土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)
成立した2023年度予算では過去最大規模となったが、今後はどうなる?(筆者作成)

3月28日に、2023年度予算政府案が参議院で可決され成立した。2023年度予算において、一般会計歳出が114兆3812億円と過去最大となった。その背景については、既に拙稿「過去最大規模の2023年度予算案、通常国会で審議されるが、どこが注目点か」で詳述しているが、この予算規模が何を意味するかについて考えてみたい。

2023年度の一般会計歳出は、2022年度当初予算での107兆5964億円よりも6兆7848億円増えた。ただ、国の一般会計歳出の規模を表した冒頭の図にもあるように、2022年度には2度の補正予算が組まれた。これらを含む補正後予算ベースでみると、一般会計歳出は139兆2196億円となる。

2023年度は補正予算が組まれるかどうか、本稿執筆時点で全く予断を許さないが、2022年度補正後予算と比べると、2023年度当初予算は、24兆8383億円少ない。

加えて、2022年度補正後予算も、前述した139.2兆円の全てを2022年度に使い切れたわけではない。既に報道されているように、2022年度の予備費は3.8兆円使わずじまいとなる見通しとなった。それだけでも、2022年度予算での一般会計歳出は、135.4兆円となる。つまり、決算ベースでの一般会計歳出は、それだけ減ると見込まれる。

加えて、予算に計上された歳出を翌年度に繰り越して、当年度には支出しないものも、決算ベースでの一般会計歳出からは除かれる。このところ、コロナ禍で余分に補正予算で計上しながらも、結局は2020年度には30.8兆円、2021年度には22.4兆円も翌年度に繰り越されている。

冒頭の図は、2021年度までは決算ベースの金額で表されているので、2021年度までは、翌年度への繰越を除いた額となっている。ただ、2022年度(図では右から2番目の▲)は、翌年度への繰越が未確定なので除かれていない。

そう考えると、2022年度も、2021年度とほぼ同規模の翌年度への繰越があるとすれば、2022年度の決算ベースの一般会計歳出は、115~125兆円ほどになる可能性がある。

以上を踏まえて、国の一般会計の予算規模をみると、コロナ前は、100兆円をわずかに超える程度だったが、コロナ禍で2020年度に一気に予算規模が拡大したものの、それ以降は減少傾向になっているようにも見える。それは、あたかもコロナ禍で多額の臨時的な支出を必要としていたが、新型コロナの感染が収束に向かうにつれてそうした支出が要らなくなることを反映したかのようにも解釈できる。

予算規模は本当にコロナ前に戻るのか

しかし、財政の歴史を振り返ると、歴史にも残るような大きな出来事があって、一旦予算規模が拡大すると元に戻らない、という仮説がある。その仮説は、ピーコック=ワイズマン(Peacock and Wiseman)の転移効果仮説という。2人が1961年に刊行した"The Growth of Public Expenditure in the United Kingdom"で、イギリスの予算規模の経緯を踏まえてこの仮説を提起した。

戦争や災害や大きな不況などが起きるとそれに対応するために歳出が顕著に拡大するが、それが終わって(財政需要がなくなった後で)も、予算規模はそれらが起きる前には戻らず拡大したままとなり、こうした大きな出来事が起きる度に予算規模が拡大してゆく、という仮説である。

そこで、再び冒頭の図をみよう。1990年度以降のわが国の一般会計歳出を振り返ると、バブル絶頂期の1990年度は69.3兆円だったが、1990年代前半のバブル崩壊に対する景気対策で1995年度には75兆円を超えた。これ以降、75兆円を下回ることはなかった。

その後、1997年秋には山一證券や北海道拓殖銀行など大手金融機関が連鎖的に破綻する金融危機が起き、再び大規模な景気対策が講じられ、1998年度には84.4兆円と80兆円を超えて増えた。この景気対策が終わった2000年代には、景気対策に要した歳出は不要となったのだが、結局一般会計歳出が80兆円を下回ることはこれ以降なかった。

さらにその後、リーマンショックに端を発した世界金融危機が起き、景気が大きく後退したことから、2009年度には再び大規模な景気対策が講じられた。2009年度には101.0兆円と、一般会計歳出は初めて100兆円を超えた。その後、東日本大震災も起き、震災復興の対応も求められた(初期対応は一般会計で行うも、後の対応は一般会計から東日本大震災復興特別会計に移管された)。

これ以降、一般会計歳出は100兆円前後で推移し、リーマンショックや東日本大震災の前の規模に戻ることはなかった。

そして、今般のコロナ禍である。

もちろん、当否は厳密な分析が必要なのだが、簡単な概観でいえば、日本の一般会計歳出は、まるでピーコック=ワイズマンの転移効果仮説が当てはまるかのように、歳出規模の拡大を繰り返している。

コロナ後の予算規模はどうなるか

では、コロナ後の一般会計歳出の規模は、コロナ前に戻るだろうか。

まだ新型コロナが完全に収束していない本稿執筆時点での情報に基づいても、当面はコロナ前には戻らないと言える条件がそろっている。

防衛関係費が、2023年度で2022年度当初予算と比べて1兆4192億円も増えており、拙稿「43兆円の防衛費、結局どう決着したのか。2023年度からの5年間の防衛政策を占う」でも記したように、今後も増えることが見込まれる。

さらに、岸田文雄内閣が今後具体策を検討するこども予算も、将来的な倍増を目指している。

これらだけでも、予算規模がコロナ前に戻らない形で膨張することが予想される。

加えて、高齢化に伴う社会保障費の増大もある。もちろん、冒頭の図に示した期間でも、高齢化に伴って社会保障費は増大し続けてきた。

ただ、ピーコック=ワイズマンの転移効果仮説では、予算規模は、緩やかに増加するのではなく、大きな出来事があるとその時に顕著に増加し、それが終わった後に(必ずしもその出来事とは関係ない要因で)後戻りしない形で増加する、という。

防衛費やこども予算は、コロナ後は要らなくなるコロナ対策の経費とは直接関係ない費目として、コロナ後に登場する。つまり、コロナ禍によってコロナ前より予算規模が顕著に増えたが、その増えた要因となったコロナ対策の経費が要らなくなった後に、別の理由でコロナ前には戻らない形で予算規模が膨張する。そのことが、新型コロナがまだ完全には収束していない本稿執筆時点でも、予想できてしまう。

わが国の財政は、そんな状況に置かれているのだろう。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人のテーマ支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、オーサーが執筆したものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

1970年生。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学准教授等を経て2009年4月から現職。主著に『地方債改革の経済学』日本経済新聞出版社(日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞受賞)、『平成の経済政策はどう決められたか』中央公論新社、『入門財政学(第2版)』日本評論社、『入門公共経済学(第2版)』日本評論社。行政改革推進会議議員、全世代型社会保障構築会議構成員、政府税制調査会委員、国税審議会委員(会長代理)、財政制度等審議会委員(部会長代理)、産業構造審議会臨時委員、経済財政諮問会議経済・財政一体改革推進会議WG委員なども兼務。

慶大教授・土居ゼミ「税・社会保障の今さら聞けない基礎知識」

税込550円/月初月無料投稿頻度:月2回程度(不定期)

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