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過去最大規模の2023年度予算案、通常国会で審議されるが、どこが注目点か

土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)
2023年の通常国会は、1月23日に召集される予定である。(写真:つのだよしお/アフロ)

1月23日から始まる予定の通常国会で審議される2023年度予算政府案は、2022年12月23日に閣議決定された。

2023年度予算政府案では、国を代表する会計である一般会計の歳出総額が、114兆3812億円と過去最大となった。そうなった一つの理由が、防衛費の大幅増額がある。

2023年度予算政府案における一般会計歳出の全体像は、下記のようになっている。

2023年度予算政府案の一般会計歳出の主要経費別内訳(出典:財務省「令和5年度予算のポイント」を一部改変)
2023年度予算政府案の一般会計歳出の主要経費別内訳(出典:財務省「令和5年度予算のポイント」を一部改変)

予算大幅増の内訳

単純な比較でいうと、2022年度当初予算(予算政府案が無修正で可決成立)と比べて、2023年度予算政府案は、6兆7848億円増えた。そのうち4兆7999億円は、防衛関係費が増えた分である。増加したうちの約7割を占める。防衛関係費の増加率でみれば、89.4%増である。

2023年度予算案での防衛関係費は、2022年度当初予算から約1.9倍になったことになるのだが、それがすべて2023年度に支出されるわけではない。防衛費で2023年度に支出される分だけでは、2022年度当初予算と比べて1兆4192億円の増加である。残る増加分である3兆3806億円は、2024年度以降に防衛費として支出することとするために留め置く資金である(本段落で、億円未満の四捨五入で丸めの誤差あり。以下同様)。

それというのも、増やす防衛費の財源を予め確保しておくべく、2023年度中に特別会計の剰余金や独立行政法人の積立金や国有財産の売却収入などを繰り入れて、一般会計で収入として受け入れた上で、「防衛力強化資金(仮称)」という別のお財布を作って貯めておく。そのための予算が、この3兆3806億円である。

こう見ると、2023年度予算政府案では、2022年度と比べて確かに6兆7848億円増えたとはいえ、臨時的な対応のために増やした3兆3806億円が含まれているから、2022年度と比べてどれだけ予算規模が増えたのかを見極めるには、この臨時的な部分を除いて見る必要がある。

2023年度予算案に含まれながら、2023年度に防衛費として支出する予定のない3兆3806億円を除くと、一般会計歳出総額の増加分は3兆4042億円となる。

防衛費増額の裏側

他方、防衛力強化資金(仮称)繰入れ3兆3806億円を除いた、2023年度の防衛関係費は、2022年度当初予算と比べて1兆4192億円増えたことは、前述の通りである。これは、2022年末に閣議決定された「防衛力整備計画」に従ったものである。「防衛力整備計画」は、拙稿「43兆円の防衛費、結局どう決着したのか。2023年度からの5年間の防衛政策を占う」(Yahoo!ニュース個人)で詳述したが、2023年度からの5年間で防衛経費の総額を43兆円程度とする(ただし、予算として支出される分は40兆5000億円)ことを決めた文書である。

その「防衛力整備計画」において、増やす防衛費の財源については、次のように財源を確保することとされた。

2023年度から2027年度までの本計画を賄う財源の確保については、歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入を活用した防衛力強化資金の創設、税制措置等、歳出・歳入両面において所要の措置を講ずることとする。

出典:「防衛力整備計画」(2022年12月16日閣議決定)

つまり、増やす防衛費の財源を、国債によって賄うことは念頭になく、歳出削減や余剰資金、場合によっては増税によって賄うということが、明記されたのである。

防衛費の増額に際して、これほど財源確保についてこと細かく明記されたことは前例がない。それだけ稀なことである。

これを受けて、2023年度予算政府案では、増税は行わないものの、「防衛力強化のための対応」として4兆5919億円の収入を確保した。お金に色はついていないものの、敢えて「防衛力強化のための対応」と明示した上で、一般会計で収入として受け入れることとした。この4兆5919億円の収入の元手は、前述のように、特別会計の剰余金や独立行政法人の積立金や国有財産の売却収入である。

となると、前述の防衛費増額との対応関係をここで整理しよう。

増やす防衛費の財源確保として、4兆5919億円の収入を確保した。これは、例年にない臨時的な財源措置である。片や、前述の通り、臨時的な資金のやりくりのために防衛力強化資金(仮称)繰入れに3兆3806億円を費やした。そうすると、この両者の差額である1兆2113億円は、事実上、2023年度予算案の防衛関係費(防衛力強化資金繰入れを除く)に充てられるといってよいだろう。

別のいい方をすれば、2023年度予算案において、防衛力強化資金(仮称)繰入れを除く防衛関係費は、前述の通り、2022年度当初予算と比べて1兆4192億円増えるのだが、そのうち、臨時的な財源措置によって1兆2113億円が賄われるので、残る2079億円が臨時的な収入ではなく歳出改革等で財源を捻出するものといえる。

以上を踏まえると、これまた「防衛力強化のための対応」という収入面での臨時的な対応が2023年度予算案には含まれるので、実態として2022年度と比べてどれだけ予算規模が増えたのかを見極めるには、この臨時的な部分を除いて見る必要がある。

すると、前述したように、防衛力強化資金(仮称)繰入れ3兆3806億円だけではなく、防衛力強化資金(仮称)繰入れを除く防衛関係費を増やすための臨時的な財源措置である1兆2113億円もあって、これら合わせて4兆5919億円(つまり、予算案の一般会計歳入に計上された「防衛力強化のための対応」の額)は、2022年度当初予算にはなかった臨時的なものである。

結局、2023年度予算政府案は、2022年度当初予算と比べて6兆7848億円増えた、と前述したものの、この臨時的な増額4兆5919億円を除くと、増えたのは2兆1929億円となる。つまり、2022年度当初予算の総額107兆5964億円から2兆1929億円増えて、109兆7893億円となった、というところが、2023年度予算案の実態といえよう。

ただし、それでもなお、過去最大規模であることには変わりない。

引き続き巨額の予備費

別の注目点として挙げられるのは、上の表にもあるように、巨額の予備費である。2022年度当初予算でも新型コロナウイルス感染症対策予備費を5兆円計上したが、2023年度予算案でも、新型コロナウイルス感染症及び原油価格・物価高騰対策予備費とウクライナ情勢経済緊急対応予備費を合わせて5兆円計上している。

巨額の予備費の問題点については、拙稿「使途不明?の予備費の使われ方はこう解明する! 2020年度と2021年度の新型コロナ対策予備費の行方」(Yahoo!ニュース個人)でも詳述しているように、使途を予め国会で議決せずに予算が成立し、その後に内閣の裁量で使途を決めて支出できる予算が巨額になってしまう点にある。

2021年度以降、5兆円規模の予備費を連年計上していることについて、政府はどう説明するのかが問われよう。

最大費目の社会保障費、山場は今年末

社会保障関係費は、上の表にもあるように、一般会計歳出の中でも最も多い費目である。2023年度予算案では、「骨太方針2021」で定められた「実質的な伸びを高齢化による増加分におさめる」との目安に沿って、2022年度からの増加額を抑えて、36兆8889億円となった。

2023年度には、大きな社会保障制度の改正案件はないこともあってか、比較的穏やかな形で決着した。ただ、2024年度予算では、医療における診療報酬改定と、介護報酬改定の同時改定が行われることから、大きな社会保障制度の改正を実施する機会となる。この機会をとらえて、長年懸案とされてきた医療や介護の改革課題に着手できるかが問われる。2023年末までには、この決着をつけなければならない。今年末までの議論がカギとなろう。

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慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

1970年生。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学准教授等を経て2009年4月から現職。主著に『地方債改革の経済学』日本経済新聞出版社(日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞受賞)、『平成の経済政策はどう決められたか』中央公論新社、『入門財政学(第2版)』日本評論社、『入門公共経済学(第2版)』日本評論社。行政改革推進会議議員、全世代型社会保障構築会議構成員、政府税制調査会委員、国税審議会委員(会長代理)、財政制度等審議会委員(部会長代理)、産業構造審議会臨時委員、経済財政諮問会議経済・財政一体改革推進会議WG委員なども兼務。

慶大教授・土居ゼミ「税・社会保障の今さら聞けない基礎知識」

税込550円/月初月無料投稿頻度:月2回程度(不定期)

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