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PM2.5予測情報の発表(4月19日)

竹村俊彦九州大学応用力学研究所 主幹教授
著者本人撮影(2011年)

本日(2024年4月19日)12時30分、福岡市から「PM2.5予測情報:レベル1」が発表されました(追加:西日本新聞の記事)。これは、呼吸器系疾患や心疾患、アレルギー疾患がある方へ向けた情報です。こうした方々は、PM2.5や黄砂の濃度が高くなった際に、急性疾患を引き起こす可能性があるために必要な情報です。しかし、今日の福岡のPM2.5濃度よりも、一昨日や昨日の他の地域のPM2.5濃度の方が相当高かった観測事実があるにもかかわらず、そのような情報は出てきませんでした。この問題については、昨日掲載した「PM2.5と黄砂の「命にかかわる情報」提供は不十分」という記事で指摘しているので、是非お読みいただければと思います。この記事では、今週の高濃度の現象を具体例としてあげて、公的機関や報道機関からの情報提供の問題点をわかりやすく解説します。

今週はPM2.5が全国的に高濃度だった

下の図は、環境省大気汚染物質広域監視システム「そらまめくん」から引用した、上から順番に、4月17日17時・18日18時・19日11時の東北から九州にかけてのPM2.5濃度の測定データです。一番下の19日11時の状態で、福岡市からは、影響の出やすい方々向けの情報を出しました。一方、一昨日17日や、昨日18日は、それよりも高いPM2.5濃度が、中国・近畿・東海・東北南部で測定されていました。それにもかかわらず、これらの地方からは何の情報も出されませんでした。その結果、報道機関もその事実を十分に把握できず、ほとんどニュースになりませんでした。一部の気象情報で、健康影響が呼びかけられた程度にとどまりました。

(上から)2024年4月17日17時・18日18時・19日11時のPM2.5濃度の観測値(環境省大気汚染物質広域監視システム「そらまめくん」より)
(上から)2024年4月17日17時・18日18時・19日11時のPM2.5濃度の観測値(環境省大気汚染物質広域監視システム「そらまめくん」より)

PM2.5高濃度情報の提供は不十分:「命にかかわる」情報提供を

17〜18日にかけて、中国・近畿・東海・東北南部では、PM2.5濃度は、1立方メートルあたり70マイクログラムを超える数値が数時間以上連続で計測されていました。それにもかかわらず、公的機関からの情報がなかったのは、環境省が示しているガイドラインの「レベルⅡ」に従った運用を各自治体が実行しているからです。この「レベルⅡ」は、「PM2.5と黄砂の「命にかかわる情報」提供は不十分」で説明したとおり、世界保健機関(WHO)が推奨する現在の数値と比較すると、かなり緩いものになっています。

「レベルⅡ」は、すべての人向けの情報です。一方、福岡市は、ガイドラインの「レベルⅠ」に従った情報も出すことにしています。これが、高感受性者、つまり、呼吸器や循環器の疾患をお持ちの方、お子様や高齢者の方向けの情報です。こうした方々にとっては、PM2.5の高濃度情報は「命にかかわる」大切な情報です。公的機関が情報を出すことによって、報道機関もそれをニュースとして取り上げることで、情報が広く行き渡りやすくなります。

上の図でわかるとおり、17〜18日は、福岡のPM2.5濃度は、他の地方よりも低い状態でした。19日に高くなったので(図のオレンジ色のレベル)、19日に情報が出されたということです。一方、17〜18日は、中国・近畿・東海・東北南部では、図で赤色のレベルも見られ、福岡市と同じ運用をしていれば、多くの自治体から情報が出されて、高い濃度であることが広く周知されていたでしょう。

福岡市は「レベルⅠ」の情報提供の運用ができています。他の自治体も同様の運用にして、「命にかかわる」情報を提供するようにお願いしたいです。

九州大学応用力学研究所 主幹教授

1974年生まれ。2001年に東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。九州大学応用力学研究所助手・准教授を経て、2014年から同研究所教授。専門は大気中の微粒子(エアロゾル)により引き起こされる気候変動・大気汚染を計算する気候モデルの開発。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書主執筆者。自ら開発したシステムSPRINTARSによりPM2.5・黄砂予測を運用。世界で影響力のある科学者を選出するHighly Cited Researcher(高被引用論文著者)に7年連続選出。2018年度日本学士院学術奨励賞など受賞多数。気象予報士。

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