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二層構造で黄砂飛来

竹村俊彦九州大学応用力学研究所 主幹教授
(写真:ロイター/アフロ)

気象庁の黄砂予測や、私が中心となって開発してきたソフトウェアSPRINTARSを使った予測で計算されていたとおり、この記事を書いている4月16日に黄砂が日本へ飛来しました。本日午後以降に、私たちがいる地面付近の高度でも濃度が高くなる予測ですが、上空高いところでの黄砂濃度が先行して高くなったことが観測されています。つまり、低高度と高高度の二層構造で黄砂が飛来するということです。なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。

すでに16日午前に日本上空に黄砂到達

独自計算による大気中の黄砂の総量の推定値では、13日頃にタクラマカン砂漠で発生した黄砂が、16日午前に日本へ到達していることが示されています(図1)。

また、計算による推定値と観測値とが合致しています。私がいる福岡で、専門の測器(スカイラジオメーター)を使って観測したデータでも、黄砂が16日午前に飛来した証拠を示しています。図2の赤点は、福岡での大気中の微粒子の光学的厚さの観測値を示しています。光学的厚さとは、地表まで届く太陽光の量の減り具合を示す指標で、光学的厚さが1だと、太陽光量が1/e(eは自然対数の底)、つまりおおよそ0.37倍になります。過去1週間のデータと比較すると、通常は光学的厚さが0.1〜0.3ぐらいですが、今日は1前後に数値が跳ね上がっていることが図2からわかります。また、図2の青点は、微粒子のうち、どの程度の粒子サイズのものが多いかを示す指標で、オングストローム指数*といいます。通常は1前後の数値なのですが、今日は0.1〜0.2ぐらいまで小さくなっています。大きめの微粒子の比率が高いと、オングストローム指数は小さくなり、黄砂飛来時の典型的な観測データです。

*オングストローム指数:2つの異なる太陽光の波長での光学的厚さを対数で取った場合の波長に対する傾き。黄砂のような大きめの微粒子の場合は、波長ごとの光学的厚さの差が小さいため、オングストローム指数は小さくなる。

図1:独自のソフトウェアSPRINTARSを使って計算された大気中の黄砂の総量(光学的厚さ)の推定値(2024年4月13日0時・15日0時・16日6時)
図1:独自のソフトウェアSPRINTARSを使って計算された大気中の黄砂の総量(光学的厚さ)の推定値(2024年4月13日0時・15日0時・16日6時)

図2:福岡でのエアロゾルの光学的厚さ(赤点)とオングストローム指数(青点)の4月16日10時までの測定値(速報値)。太陽光を利用した観測のため、夜間や雲のある場合は欠損となる。
図2:福岡でのエアロゾルの光学的厚さ(赤点)とオングストローム指数(青点)の4月16日10時までの測定値(速報値)。太陽光を利用した観測のため、夜間や雲のある場合は欠損となる。

一方、地上付近の空気を吸って、含まれる粒子の個数を測定する測器(パーティクルカウンター)での観測では、16日午前の時点では、微粒子の増加はまだ見られていません(図3)。この図は、粒径5マイクロメートル以上の粒子の数の測定結果を示していますが、黄砂が飛来すると、この数値が跳ね上がります。

図3:福岡での地上付近の大気中の5マイクロメートル以上の粒子の個数の測定値(4月16日10時まで)。
図3:福岡での地上付近の大気中の5マイクロメートル以上の粒子の個数の測定値(4月16日10時まで)。

以上の計算による推定や観測データを見ると、16日午前時点で、上空には黄砂は飛来しているけれど、私たちが暮らしている地上付近ではまだ到達していないことがわかります。黄砂の飛来情報は、通常、地上付近の濃度を基準にしているので、西日本で16日午後に黄砂飛来という情報が提供されています。

黄砂には主な発生源が2つある

「黄砂」は、東アジア内陸の乾燥地域から発生する砂の総称です。主な発生源は、ゴビ砂漠とタクラマカン砂漠です。タクラマカン砂漠は、南北を標高が非常に高い山脈で挟まれているため、強風によって砂が舞い上がると、山に沿って砂が強制的に上空高いところまで運ばれます。その後、上空の強い西寄りの風によって速く流されていきます。この現象による黄砂が、16日午前に日本へ到達したと考えられます。

タクラマカン砂漠での黄砂発生をもたらした地上付近の強風域が、少し遅れてゴビ砂漠へやってきて、こちらでも砂を舞い上げます。ゴビ砂漠の標高は1,000メートル前後で、発生した黄砂は、そこから重力落下などで少しずつ高度を下げながら流されていきます。したがって、私たちが暮らしている地上付近に飛来する黄砂は、ゴビ砂漠起源の場合が多いです。今回は、これが16日午後以降に日本各地に到達すると予測されているわけです。

ただし、タクラマカン起源の黄砂が上空で漂っているときに雨が降ると、その雨で黄砂が洗い流されて、地上まで降ってくることになります。地上付近の微粒子の濃度が高くなくても、例えば雨の後に車が汚れるのは、そのためです。

PM2.5に注意

上で説明したとおり、黄砂は大きめの微粒子の比率が高いのですが、もちろん小さめの微粒子も含まれていて、これはPM2.5に分類されます。また、アジア内陸で黄砂を取り込んだ空気は、日本へ流れてくる前に中国の都市部を通過します。そうすると、化石燃料等の使用によって発生した人為起源のPM2.5も一緒に流れてくることになります。黄砂が飛来する場合の大半では、こうした人為起源のPM2.5の濃度も高くなります(ただ、黄砂が飛来しなくても人為起源PM2.5は流れてきます)。

PM2.5に分類されるサイズの微粒子は、より健康への悪影響を及ぼしやすいと考えられています。お子様やご高齢の方、呼吸器や循環器の疾患をお持ちの方は、特に今週金曜日までは注意して過ごしていただければと思います。

九州大学応用力学研究所 主幹教授

1974年生まれ。2001年に東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。九州大学応用力学研究所助手・准教授を経て、2014年から同研究所教授。専門は大気中の微粒子(エアロゾル)により引き起こされる気候変動・大気汚染を計算する気候モデルの開発。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書主執筆者。自ら開発したシステムSPRINTARSによりPM2.5・黄砂予測を運用。世界で影響力のある科学者を選出するHighly Cited Researcher(高被引用論文著者)に7年連続選出。2018年度日本学士院学術奨励賞など受賞多数。気象予報士。

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