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黄砂もですが、PM2.5高濃度にもっと注意

竹村俊彦九州大学応用力学研究所 主幹教授
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

昨日(2021年3月29日)から今日(30日)にかけて、日本の広い範囲で黄砂が観測されました。黄砂の日本への飛来は頻繁ではなく珍しいため、ニュースにも取り上げられやすいのですが、それよりも、PM2.5の濃度が同時に非常に高くなっていることに、もっと注意をしなければなりません。今日(30日)は、PM2.5の注意喚起を発表する自治体があるかもしれません。

PM2.5高濃度はニュースになりにくい

黄砂は、微粒子の中でも大きめのサイズのものが多いので、ベランダの手すり・物干し竿・車などに付着すると、目立ちます。また、気象庁が黄砂の飛来をはっきりと伝えるので、空の霞みと相まって、多くの人々に認識されやすい状況です。一方で、PM2.5の濃度が高い場合も、当然空は霞むのですが、見ただけでは水滴である霧と区別することが難しく、また、気象庁はPM2.5の高濃度を伝えないため、認識することが難しくなります。PM2.5が高濃度の場合は、各地方自治体がそれぞれで情報を出すので、大きなニュースにはなりにくいのです。このことは、私の以前の記事「PM2.5と黄砂の情報の問題点」でも指摘しました。

しかし、健康への影響を考えると、黄砂が高濃度のときよりも、PM2.5が高濃度のときの方が一層注意が必要です。小さい微粒子であるPM2.5でも、大きめの微粒子が多い黄砂でも、気管支や肺などの呼吸器系やアレルギー疾患に影響があります。そして、PM2.5はサイズが小さいので、さらに、肺から血液の中に取り込まれてしまうため、循環器系にも悪影響を及ぼしてしまいます。黄砂が飛来するから、洗濯物や車の汚れに注意することよりも、PM2.5が高濃度で健康に影響する可能性があることを意識する方が重要なのではないでしょうか。

黄砂とPM2.5が混ざって飛来

専門の測器による観測や、コンピュータシミュレーションの結果から、昨日(3月29日)から今日(30日)にかけては、黄砂とPM2.5が混ざって飛来してきたと考えられます。PM2.5には、一部は黄砂の中でも小さめの砂粒が含まれていると思われますが、工場や自動車など、人間の活動によって出された物質が越境飛来してきたものが、かなり含まれていると推測されます。

気象キャスターに一言

気象キャスターは、基本的には気象庁が発表した情報にアンテナを張っているため、おそらく黄砂のことしか伝えていないのではないでしょうか。黄砂の飛来がよくわかる、見栄えのよい衛星画像もありました。しかし、黄砂のことだけではなく、PM2.5による健康影響の懸念を伝えることが、視聴者にとって一層有益な情報なのではないでしょうか。気象庁が出さない情報にも、アンテナを張ってもらえればと思います。

九州大学応用力学研究所 主幹教授

1974年生まれ。2001年に東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。九州大学応用力学研究所助手・准教授を経て、2014年から同研究所教授。専門は大気中の微粒子(エアロゾル)により引き起こされる気候変動・大気汚染を計算する気候モデルの開発。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書主執筆者。自ら開発したシステムSPRINTARSによりPM2.5・黄砂予測を運用。世界で影響力のある科学者を選出するHighly Cited Researcher(高被引用論文著者)に7年連続選出。2018年度日本学士院学術奨励賞など受賞多数。気象予報士。

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