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夏には珍しいPM2.5高濃度 西之島噴火

竹村俊彦九州大学応用力学研究所 主幹教授
(写真:海上保安庁/ロイター/アフロ)

日本の広域でPM2.5が高濃度となるのは、ほぼ大陸からの越境飛来です。空気の流れがおおよそ西から東である春や秋が越境飛来のシーズンです。しかし、梅雨が明けて夏真っ盛りであるにもかかわらず、この1週間ぐらい、九州から東北まで、PM2.5濃度が高くなっています。日本の夏は太平洋高気圧に覆われて、太平洋のきれいな空気が入ってくるのが基本なので、珍しい現象です。今回は、その原因を考えてみましょう。

大陸からの越境飛来

私は、研究のために自ら開発したソフトウェアSPRINTARSを利用して、PM2.5と黄砂の予測を毎日実施し、皆様に広く情報提供しています。7月29日に計算した予測図を下に示します。最初の3枚は、PM2.5の代表的な成分である硫酸塩エアロゾル(エアロゾルは微粒子のことです)の大気中の全体の量を示しています。1枚目は7月28日、2枚目は7月31日、3枚目は8月3日です。7月28日に大陸にあったPM2.5高濃度の空気が、高気圧の縁の時計回りの風で日本海の方に流れて、8月3日には九州全体を覆っています。最後の4枚目の図だけは、地上付近限定のPM2.5濃度を示していますが、九州ではそれなりに高い濃度を示しています。したがって、実際にPM2.5濃度が高くなった1つの原因として、大陸からの越境飛来はある程度寄与していると考えられます。普通の越境飛来は、西寄りの風にのって1〜2日で大陸から日本へ到達しますが、今回は5日ぐらいかけて遠回りして越境飛来してきました。

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でも、なんかおかしい… 西之島だ!

九州で8月2日に高濃度になった時点で、自治体が測定している観測データを眺めて、なんかおかしいことにすぐに気が付きました。越境飛来がPM2.5高濃度の主な要因だったら、光化学オキシダント濃度も普段より高くなるはずなのですが、それほど大きな変化がなかったのです。光化学オキシダントが作られるには紫外線が必要なのですが、夏だから条件はバッチリなはずです。さらに観測データを確認すると、光化学オキシダントの材料である窒素酸化物の濃度にも、それほど大きな変化がありませんでした。

そこで、ひまわり8号の画像を見てみると、高気圧の南の縁を回って九州に入ってきている霞みが見られました。その霞みの発生源が西之島にありました。西之島は火山活動が最近活発になっていて、噴煙が高度5000mまで到達しているとのことです。SPRINTARSの計算では、西之島の影響は考慮されていません。

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火山から放出される噴石や火山灰は、サイズが大きいものが多いので、ほとんどが火山の近くで落下します。PM2.5のサイズに含まれるような非常に微小な石や灰は、それほど多くないと考えられます。しかし、同じく火山から放出される二酸化硫黄は、空気中で酸化して、硫酸塩エアロゾルとなって、PM2.5に含まれます。

ちなみに、大陸起源の硫酸塩エアロゾルも、元は二酸化硫黄です。石油・石炭といった化石燃料を使っても、二酸化硫黄は放出されます。公害が問題となっていた頃は、日本でも化石燃料を使うと二酸化硫黄が大量に放出されていましたが、現在は対策が進んで放出量はわずかです。

ということで、ここ1週間のPM2.5の高濃度は、西之島の噴火が主な原因で、大陸起源の大気汚染も一部混ざっていたと推定されます。ただし、九州では8月5日午後に一旦PM2.5濃度が下がったのですが、6日午後以降に再び上昇しています。これはほぼ西之島起源ではないかと推測しています。

九州大学応用力学研究所 主幹教授

1974年生まれ。2001年に東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。九州大学応用力学研究所助手・准教授を経て、2014年から同研究所教授。専門は大気中の微粒子(エアロゾル)により引き起こされる気候変動・大気汚染を計算する気候モデルの開発。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書主執筆者。自ら開発したシステムSPRINTARSによりPM2.5・黄砂予測を運用。世界で影響力のある科学者を選出するHighly Cited Researcher(高被引用論文著者)に7年連続選出。2018年度日本学士院学術奨励賞など受賞多数。気象予報士。

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