芸人としての芸歴は30年を超え、情報番組司会者を16年以上務めるなど長きにわたって芸能界の第一線で活躍。昨年は個人事務所を設立し、独立するとともにより精力的に芸能活動の幅を広げる加藤浩次。そんな彼が、これまでに得た豊富な経験値とスキル、情報感度、人脈をフル活用して次なるステージとなる一歩を踏み出した。自ら企画・プロデュース・主演を務めた社会派の映像作品『コージカトーのあくなき追及!』(U-NEXT配信中)は、狂犬・加藤がこれから進むひとつの道を示した怪作になっている。

■自らを素材にして社会問題を徹底追及する企画・プロデュース作

 かつて狂犬と呼ばれた芸人であり、いまや情報番組の朝の顔としてもすっかりおなじみの加藤。そんな自身の世の中のイメージと築き上げてきたブランドを一部で利用しながら、それを躊躇なく叩き壊すのが本作。自らを素材にして、ときにはフリにしていじり、その姿を揶揄することで物語の核心へと切り込んでいく。フェイクドキュメンタリーだが、社会派ドキュメンタリーとしてもメッセージ性の強い人間ドラマとしても観ることができる異色の作品性を帯びていることに、誰もが驚かされることだろう。

 本作は、憤りを感じる世の中の不条理を自ら取材し徹底追及することをライワークにする「コージカトー」が主人公。自らをコージカトーと名乗って活動する加藤に密着する4章からなる全8話の配信オリジナル番組だ。その第1章で取り上げるのは不倫。学生時代の後輩男性から妻の不倫の相談を受けたコージカトーは、証拠を集めて妻と直接対峙し、夫婦関係のケジメをつける。しかし、彼の追及はそこで終わらない。妻が不倫に利用したマッチングアプリが元凶と考え、運営会社にまで押しかける。激しい情動に突き動かされるコージカトーの実力行使に訴える姿が迫ってくる。

 第2章では霊感商法にスポットを当てる。高額なお布施や怪しい商品の購入に疑問を持たない信者に話を聞き、占い師を名乗る教祖を突き止め、その団体の拠点をアポ無しで突撃する。しかし、教祖との1対1の対話は平行線をたどり、コージカトーに反発する熱狂的な信者たちとの修羅場に陥る。それでも火がついた彼の執念は収まることがなく、その後も信者たちを個別に追いかけ、その行動の善悪を追及していく。

■誰もが既視感を抱くであろう現実社会を投影した物語へ込める思い

極楽とんぼの相方・山本圭壱とのラジオ収録の合間の打ち合わせにもカメラが入る/「コージカトーのあくなき追及!」U-NEXT独占配信中(C)PONYCANYON
極楽とんぼの相方・山本圭壱とのラジオ収録の合間の打ち合わせにもカメラが入る/「コージカトーのあくなき追及!」U-NEXT独占配信中(C)PONYCANYON

 そこに映し出されるのは、自らを絶対的な正義と信じ、なりふりかまわず声を荒げて声高に正義を唱えるコージカトーの姿。そんな自身に陶酔もしながら、他者に対してそれを一方的にふりかざしていく。ここまで観た視聴者はあることに気づくだろう。周囲の言葉に聞く耳を持たない危うさをにじませながら、過激さを増していく彼の暴走ぶりは、次第に既視感を覚えさせる。現実社会において誰もが日頃から目にしていることと重なるのだ。それこそが加藤の企画の狙いだろう。

 そして、第3章に入ると物語は急展開していく。それまでのルールもマナーも無視して自分よがりの正義を強引に貫いてきた執念が、ある出来事をきっかけに揺らぐ。コンプライアンスなどどこ吹く風とばかりに、怒りにまかせて誰にも止められない勢いで突っ走ってきたコージカトーだが、決して完璧な人間でも強い人間でもなかった。それまでの威勢のよさはすっかり影を潜める。人間誰しも多面性があり、追及される側の人たちと同じ弱さも持つことが生々しいリアリティを伴って描かれる。

 この企画の視点には、実際にさまざまな事件や事故を情報番組司会者の立場で目の当たりにしてきた加藤が直面する、行き場のない怒りややるせなさ、無力感に対する反動があるだろう。そしてなにより、社会や一部の人々のリアクションに対する彼なりの見解をエンターテインメントに昇華することでわかりやすく伝えようとする意図がある。実際に朝の情報番組で加藤は、取り上げるトピックにえぐるような鋭角の視点を加えることや、ときには感情を隠さず辛辣な言葉を放つことも辞さない。大人の事情とは無縁の忖度なしの姿勢が幅広い層の支持を得ている彼なりの、ふだんから内に込めた思いの発露でもあるのだろう。

■紆余曲折を経た芸能生活を糧にしたいまだからこそ作れた怪作

フェイクドキュメンタリーならではの誇張した演出もその後の作品全体を通したメッセージへとつながっていく/「コージカトーのあくなき追及!」より(C)PONYCANYON
フェイクドキュメンタリーならではの誇張した演出もその後の作品全体を通したメッセージへとつながっていく/「コージカトーのあくなき追及!」より(C)PONYCANYON

 それはまさに自身をさらけ出す覚悟を持って企画・プロデュース・主演を手がけたからこそ作り得た怪作。特筆すべきは緻密に練られた構成と脚本だろう。章ごとに異なるテーマを掘り下げており、それぞれが独立しているように見えるが、そうではないことが後半で明らかになる。前半とは物語が正反対に展開する後半だが、そうなるべき経緯が前半部分に伏線として散りばめられており、それらが複雑に絡み合いながらラストに向けて回収されていき、物語は結末へと向かう。

 セリフや演出面でも、芸人である加藤ならではのウデが光っている。キャラクター造形や登場人物の会話のやりとりには、ディテールにこだわったリアリティがあり、ストーリーには緊張と緩和がところどころに盛り込まれる。物事にまじめに取り組むことの滑稽さを笑う視点も差し込まれており、そうした随所ににじむ笑いへのこだわりが、物語をすんなりと視聴者の心に沁み渡らせ、登場人物への共感を抱かせるとともに彼らの姿を笑わせて、楽しませる。エンターテインメント性に優れた社会派作品になっているのだ。

全8話の物語は中盤から急展開があり、ラストには加藤浩次が現代社会へ投げかけるメッセージがある/「コージカトーのあくなき追及!」より(C)PONYCANYON
全8話の物語は中盤から急展開があり、ラストには加藤浩次が現代社会へ投げかけるメッセージがある/「コージカトーのあくなき追及!」より(C)PONYCANYON

 いまや情報番組やバラエティの司会、MCを務める芸人は多くいるが、本作が加藤以外の誰にも決して作れない作品であることは明らか。加藤イズムと呼ぶべきメッセージ性が色濃くにじんでいる。長きにわたる芸能生活において、その道のりは決して順風満帆ではなく、紆余曲折や苦悩、葛藤があってのいまがある加藤。そんな彼のなかの狂犬が、これまでの経験を糧として新たな姿を見せている。

 本作は全8話のあとにエンドロールが流れるが、それも含めて完結する映像作品。とくに本編前半で抱くであろうささくれ立つ気持ちとは正反対の感情が、そこで生まれるように設計されている。

 全編を通してジェットコースターのように感情を揺さぶられる本作だが、ラストシーンからエンドロールにかけては視聴者をある感情で包み込むような構造があり、誰もがカタルシスを得られることだろう。自身のふだんの言動を振り返って本作のメッセージを噛み締めながら、見終わったときの爽快感と温かな気持ちを味わってもらいたい。

【関連リンク】

公式サイト「コージカトーのあくなき追及!」(U-NEXT独占配信中)