スマホやタブレットによる映画、ドラマなどの映像コンテンツ視聴が一般的になるなか、スマホネイティブ世代を中心に広がりを見せる「映画早送り視聴」の是非が話題になっている。すでに現代社会の新たな視聴スタイルとなったコンテンツ消費を巡って、映画監督の上田慎一郎氏(『カメラを止めるな!』)、書籍『映画を早送りで観る人たち』著者の稲田豊史氏、芸人・映画系YouTuberのジャガモンド斉藤氏が意見をぶつけ合った。

■スキップ文化とネットで怒る人の関係性

 3人が登壇したのは、『映画を早送りで観る人たちと映画のこれから』をテーマにする座談会(ポニーキャニオン映画部の公式YouTubeチャンネルで6月8日にライブ配信され、現在はアーカイブ視聴可能)。まずはこの視聴スタイルのネット記事の不定期連載執筆からスタートし、書籍としてまとめた稲田氏から、その経緯と意図、発刊後のさまざまなリアクションについて語られた。

 本書は、倍速視聴、10秒スキップ視聴、ネタバレ視聴(結末を知ってから観る)といったコンテンツ視聴スタイルを知り、その違和感から取材を始める経緯が序章で描かれる。そこから徹底した取材を通して、早送りして映画を観る人たち、セリフで物語を全部説明してほしい人たち、映画を観ること・語ることに失敗したくない人たち、好きなものをけなされたくない人たちの心理や行動原理を章ごとに紐解き、その背景にそうせざるを得ない現代社会があることにたどり着く。

監督・脚本を務めた“話題作”映画『100日間生きたワニ』についても映画オリジナル脚本に込めた思いを語った上田慎一郎監督(写真提供:ポニーキャニオン映画部)
監督・脚本を務めた“話題作”映画『100日間生きたワニ』についても映画オリジナル脚本に込めた思いを語った上田慎一郎監督(写真提供:ポニーキャニオン映画部)

 上田監督はその感想を「若者を理解したい中年のドキュメンタリーとして胸に迫ってきた。稲田さんの文体に葛藤が表れていて、映画を1本観たような感動があった」と称した。本書で稲田氏は、早送り視聴というスタイルの現状分析とその社会的背景を導き出し、自身の所感を綴っているが、すべての行為に対する是非は問うていない。大きな反響のあったネット連載時を振り返りながら、世の中の反応についてこう語る。

「連載時は、早送り視聴というスタイルに怒っている年配世代もいましたし、自分たちの視聴スタイルにケチをつけられたと思うZ世代も多くいました。ただ、ネット記事の見出しだけを見て、背景や文脈をスキップして怒っているケースも多かったと思います。それこそ早送り視聴と同じことで、まさに本に書かれている人たちそのもの。それに対して、発刊後に本を全部読んで怒る人はほとんどいませんでした。本が伝えているのは、なぜ早送り視聴する人がいるのか。そうせざるを得ない切実さがこの社会を覆っていること。それが、わかりやすいものを求める人が一定数いることにつながっている。僕自身、この本を世に出してそのことがメタ的にわかりました」(稲田氏)

 この発言を受けて斉藤氏は「ツイッターでも全体のメッセージを考えずに断片的に受け止めて猛烈に怒る人が多い。炎上と同じ構図ですね」とスキップ文化と怒る人との関係を語り合った。

■スマホネイティブZ世代のデフォルト視聴スタイルに

約3時間の座談会で話し足りない様子だった『映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~』著者の稲田豊史氏(写真提供:ポニーキャニオン映画部)
約3時間の座談会で話し足りない様子だった『映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~』著者の稲田豊史氏(写真提供:ポニーキャニオン映画部)

 世の中に一定数いる早送り視聴をする人たち。その背景にはそうせざるを得ない社会があると稲田氏は語る。SNSで情報収集しながら、常にだれかとつながってコミュニケーションを取り、いつでもどこでも楽しめるエンタテインメントコンテンツが身の回りにあふれ返る。限られた余暇時間を有効に使うことを考えたときに、早送り視聴は必然になるかもしれない。そもそも映画を観ることが友人や仲間との情報交換のためとする一般的なスマホネイティブのZ世代にとっては、すでにそれがデフォルトの視聴スタイルとなっている。稲田氏は「早送り視聴はこれから減ることはない。むしろ増えていく」と断言する。

 それをどう捉えるかには、まずビジネスとしての視点がある。上田監督は、年間1本しか映画を観ない人がサブスクの動画配信で多くの作品を観るようになり、そこからシリーズ過去作品や関連作品の視聴につながる好循環が生まれていることに触れた。早送り視聴も、一般層が映画に興味を持ち、次につながる入り口になることには意義がある。なによりニーズがあるからそこに向けたサービスも生まれており、そうした時代の流れとライフスタイルの変化に抗うことはできない。

 一方、制作者にとっては早送りやスキップ視聴への複雑な感情もあることだろう。上田監督は「(早送り視聴に)あわせた作品作りはしない。するべきではない」とクリエイティブの信念を語りながら、「プロデューサーや製作委員会からそういう指示が出ることは今後あるかもしれない。それに抗うのか、従うのかは作品によって選ぶかもしれない。やはり多くの人に観てもらいたい気持ちがあるから」と葛藤をにじませながら率直な気持ちを吐露した。

 音楽ではサブスクが市場シェアを急拡大した2010年代、曲のあたまだけ聴くユーザー特性にあわせて、サビやキャッチーなメロディを楽曲の冒頭に持ってくる曲作りが増えた。TikTokの人気が爆発したときには、そこでのバズを狙った踊りやすい、口ずさみやすいインパクトが曲に求められるようになり、メディアにあわせたクリエイティブが生まれている。テクノロジーの進化とともに時代や社会、ライフスタイルが変化を遂げるなかで、コンテンツもそれにあわせて変わっていくのは必然だろう。いままさに映像メディアも歴史の過渡期を迎えており、新たな映像コンテンツとクリエイティブが生まれようとしているのかもしれない。

 この先、早送り視聴で育ったZ世代のクリエイターたちは、たとえば30分の上映で従来の2時間映画と同等の内容とメッセージを詰め込むような、通常の上映で倍速と同じ視聴ができるフォーマットの作品を作るかもしれない。ひとつの映画のなかでシーンによって倍速が入る作品が生まれるかもしれない。時代の視聴スタイルにあわせた新たな演出や映像表現、フォーマットも生まれてくることだろう。

 しかし、従来の作品がなくなるわけではない。座談会に参加した早送り視聴がデフォルトという20代女性は、ふだんはサブスクで映画を観るが、『ワイルド・スピード』シリーズは「映画館に行く時間とIMAXや4DXの高いお金をかけても観る価値がある」と話していた。映画館で観るべき作品が選ばれて劇場鑑賞されているように、たとえ早送り視聴用の作品が生まれたとしても、それと映画館で観る映画は別。バリエーションが増えた作品群から視聴者それぞれのライフスタイルによって楽しむようになるのだろう。

■早送り視聴はAIの得意な合理化 人にしかできないことと逆行

芸人であり映画系YouTuberのジャガモンド斉藤氏は、YouTubeで映画を語ることの難しさと芸人としてのジレンマも吐露した(写真提供:ポニーキャニオン映画部)
芸人であり映画系YouTuberのジャガモンド斉藤氏は、YouTubeで映画を語ることの難しさと芸人としてのジレンマも吐露した(写真提供:ポニーキャニオン映画部)

 もうひとつは、人の教養としての視点。時代の流れのなか、現代社会で早送りやスキップ視聴スタイルは一般的になりつつある。では、それが人の内面や人格形成に与える影響はどうなのか。前述した怒る人は、物事や人に向き合って時間をかけて理解することをスキップしていることに根がある。

 上田監督はAIを例に出し「AIは映画の情緒を除外して自動判定でストーリーを短くする。文脈や意味を捉えることはできない。早送り視聴はAIの得意な合理化であり、一方、人にとって必要なのは深く考えること。全体から自分で考えて理解するという人にしかできないことをしないのは、AIが人に取って変わろうとするこれからの時代に逆行する行為に思えます」と警鐘を鳴らす。

 ただ、一定数いる早送り視聴する人たちは、すべての映画を早送りするわけではなく、感覚的に作品によってメディアウインドウを切り分け、本数は少なくても映画館に足を向ける人もいる。それこそ社会的ヒットとなった『カメラを止めるな!』やムーブメントを生み出している『シン・ウルトラマン』など庵野秀明“シン”シリーズを早送り視聴したいという人はまずいないだろう。そこは作品次第になっていることもうかがえる。

 社会的役割の観点で映画界に求められるのは、早送りやスキップをしたくないと思わせる作品作りかもしれない。それが文化の社会意義でもある人の心の豊かさや、人々の生活の幸福度にもつながっていく。一方、視聴者に求めるのは、感情の赴くままにできるだけ多くのエンタテインメントに触れてもらうこと。稲田氏は「早送り視聴でもいい。入りやすい入り口から入って、機会があれば映画館でも観てほしい」、斉藤氏は「いまは作品が増えていて観る人も大変。でも、自分が好きなものだけ観ればいい。それを積み重ねれば、早送りで観たくない映画に出会えるはず」と語っている。昔から変わらないかもしれないが、一般層がちゃんと観たいと思う映画が世の中に増えていくことが、観る人を育てることにつながっていく。

【座談会】「映画を早送りで観る人たち」と映画のこれから<稲田豊史、上田慎一郎、ジャガモンド斉藤>