「Web3の世界ではゲームチェンジが起きる」ーーテレビ情報番組への出演でもおなじみの前田裕二氏は、ライブ配信サービスをいち早く立ち上げた先駆者であり、市場および会社を拡大させてきた敏腕経営者だ。ネットが新たな世界に突入しようとしているいま、Web2.0からスタートしたプラットフォーム・SHOWROOMをどうしていくのか。Web3世界のメタバースやNFTへの取り組みを聞いた。

既存サービス事業者にとって自己矛盾も抱えるWeb3

「エンタメ×テクノロジー」を掲げてDeNAにてライブ配信サービス・SHOWROOMを2013年にローンチ。黎明期の市場を開拓、拡大するとともに2015年に会社分割により起業し、この7年間事業を拡大してきた前田裕二氏。現在、SHOWROOMは会員登録者数590万、アプリダウンロード数690万。創業以来成長を続けてきたなか、ひとつの大きな節目に差し掛かった。分散型ネットの新時代と言われるWeb3の到来により、GAFAMも含めてWeb2.0から始まっているプラットフォーム権力集中の時代が終わろうとしているのだ。

 そんななかだが、前田氏は「クリエイターがどうやって生きていけるかをずっと考えてきたこの10年間だったので、Web3の登場によっていよいよ僕らがやりたかった世界が実現するんだと、心躍る思いです」。SHOWROOM立ち上げの原動力であり、当初から一貫して変わらぬクリエイター視点の思いを口にし、笑顔を見せる。

「プラットフォームへの権力の集中は、クリエイターエコノミー視点で大きな課題です。中央に権力が集中しないWeb3では、クリエイターに力が寄るでしょう。クリエイター自身の力がWeb3の世界で認められれば、それをプラットフォームに突然奪われるようなことがない。自己矛盾ではありますが、クリエイターがプラットフォームに過度に依存せずに生きていける状況を作らないといけない。我々もその観点で、NFTやトークンを活用した機能も実装していきます」

 Web3に向かうネット世界の潮流を前田氏は「来るべきして来た世界」という。これまでに、クリエイターの権利が守られるためにはどうすればいいかを常に考え、彼らがポテンシャルを発揮しやすくするためにキャッシュポイントを増やすなどの取り組みをSHOWROOMで行ってきた前田氏。この先については「今までWeb2.0の世界でできることをやり切ってきましたが、Web3の世界ではゲームチェンジが起きます。詳しいことはまだ言えないのですが、楽しみにしていただけたらと思います」と新たな時代の到来を見据える。

メタバース化の重要なファクターはアイデンティティ

乃木坂46もSHOWROOMにルームを開設。ギフティングやコメントを通じたリアルタイムコミュニケーションから熱量の高いつながりを生み出している(提供:SHOWROOM)
乃木坂46もSHOWROOMにルームを開設。ギフティングやコメントを通じたリアルタイムコミュニケーションから熱量の高いつながりを生み出している(提供:SHOWROOM)

 では、具体的にはどうか。自律分散的に多数のバースが存在する世界になりつつあるメタバースへの取り組みについて聞くと、アバターで参加するSHOWROOM自体がひとつの仮想世界=メタバースであるとし、現在はユーザー個々のアバターの唯一無二性は担保されていないが、NFT化することでそれを可能にしていくことをこの先の展開のひとつとして挙げる。

「メタバースにおいて『アイデンティティ』が非常に重要なファクターであり、バース間を移動するチケットにもなると個人的に思っています。SHOWROOMの次のステップとしては、アバターを3次元にするなどしてよりリッチに自己表現できるようにして、アイデンティティを感じやすくしていきたいと構想しています」

 一方、いままさにメタバースがバズワードになっていることで、企業展示会や就活説明会など社会のさまざまなシーンで、その機能が使われているのを目にする。しかし、メタバースのネット空間が一般的になってきているかと言うと、そうとも言い切れない。それは社会の一部での一時的なブームであり、誰もが慣れ親しんで日常的に使うようになる本来の普及とは異なる。とりあえずその機能を流行りのメタバースにしてみよう、とする流れがあると前田氏は指摘する。そしてそこには、メタバースにする意味が見出せないケースもあるようだ。

「本質的には『別の自分になりたい』、そして、そこで日々、何度も、継続的に『時間を過ごしたい』と思わないと、そのバースには発展性がないと思っています。繰り返しですが、そのためにはアイデンティティが必要です。なんらか自己表現できるギミックがあり、そこで自分のバーチャルアイデンティティを愛でたい、育てたいと思う粘度が作れるか、です」

メタバース一般化に求められる移動コストの極小化

 もうひとつメタバース普及の課題となるのがハード面だ。現状では、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着しなければならないギークな世界と思われがちだが、すでにスマホのみでできるメタバースのゲームもあり、HMDもすぐにメガネやコンタクトといったウエアラブルディスプレイに変わっていくことが予想される。前田氏は「現実世界とメタバースの世界の移動コストを極小化していくことが、メタバースが一般化する上で重要だと思います」と語る。

 メタバースが一般化したときには、その世界では自分がなりかわるアバターを使って、あらゆるゲームやサービスを行き来して利用できるようになり、無数に存在するメタバース間のいろいろなつながりも生まれていくのだろう。

「SHOWROOMでは、バーチャルライバーになれる仕組みを入れ込んでいます。まず現実世界とは切り離れたところに別のアイデンティティを持たせるという、“メタバースの入り口”チケットを提供しています。そこからSHOWROOMという限られたメタバースのなかで活動してもいいし、別のメタバースに行ってもいい。フォートナイト(Epic Games)やRobloxなど膨大なユーザー数を抱えるメタバースの世界がありますが、盛り上がっている場所では、土地をNFTで買って、その価値が上がったり下がったり、という楽しみもあります。例えばその値上がりは、別のプラットフォームでファンが多くいることに起因するものであったりして、そういったバース間のつながりも生まれます」

オンライン生活に慣れたユーザーはメタバースにも抵抗がない

 メタバースの普及が進むに連れて、いずれそこで提供されるサービスは生活のあらゆる面にまで及んでくるに違いない。そうなるとユーザーは、現実世界と仮想現実のメタバースという2つの世界を行き来して生活をすることになる。

 振り返って現在の日常は、コロナがあったことで、学校教育や仕事をはじめ、ショッピング、エンタテインメントなどあらゆる面でツールとしてのオンライン利用が一気に普及し、いまやそれが一般的になりつつある。さまざま生活の面においてオンラインを活用することに抵抗がなくなっているいま、それらがメタバースに移行していったとしても、そこに利便性や娯楽性といったメリットや楽しさがあれば、誰もがすんなりと入っていくことは想像に難くない。

 そのときには、人々は現実世界よりもメタバースにいる時間のほうが長くなり、次第にそちらが生活のメインになっていくのかもしれない。

(『経済界』7月号より)