コロナ不安による客足の戻りの鈍さに加えて、劇場と配信という時代の過渡期を迎えている映画界だが、文化とビジネスの両面から映画を支える第34回東京国際映画祭(TIFF)が、21年10〜11月に華やかに開催された。長い歴史の中でもひとつの転機となる今回の舵を取った最高責任者の安藤裕康チェアマンに、コロナ禍の協賛金集めやコスト増になっても決行した会場移転など舞台裏の苦闘を聞いた。

■コロナで資金集めに苦闘するも1.5億円のマイナスをカバー

 コロナの真っ只中だった前回(20年)は、世界中の映画祭が軒並み中止になるなか、コンペティションをなくすなど縮小しながらもTIFFを開催にこぎつけた安藤チェアマン。今回もコロナの影響が長引き、夏には最多感染者数を記録。10月1日の全面解除まで緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が地域ごとに発令される厳しい状況が続いたが、決して開催を諦めることなく、強い信念のもと準備を進めてきた。

 注目したいのは、コロナが長引き、幅広い業種における企業の経済活動が追い風からはほど遠い状況にあるなか、多くの協賛企業のサポートを得ていること。そこには、先頭に立って旗を振りつつ、自らも積極的に動いた安藤チェアマンの並々ならぬ映画祭への思いと行動力があった。

「コロナ禍のこの2年間は非常に苦労しました。一昨年の前回は多くの業種において経済活動がストップしているなか、新規スポンサーがほとんどつかず、コロナ前の19年より協賛金はトータル1.5億円ほど減りました。これは運営にとってとても大きな数字であり、なんとか挽回しようとがんばりました。しかし、コロナは依然として長引き、加えて夏には東京オリンピックもありましたから、協賛を得るのがより難しい。そこをなんとか19年くらいの規模まで盛り返すことができました。今回の開催にあたっては、やはり資金面の苦労が大きかったです」

■AmazonプライムビデオがTIFFに協賛することで得た成果

 1980年代は企業利益の一部を文化活動に寄付するメセナが社会的な流れとしてあったが、昨今はそうではなくなってきている。そうしたなか、コロナもあり一昨年に続いて厳しい状況のなか、どう協賛企業を口説いたのだろうか。安藤氏はそこでやるべきことは明確だったと語る。

「具体的なメリットが明確でないと企業としてはお金は出せない。それぞれの企業にとって映画祭と組むメリットは違いますが、そうしたなか映画祭と企業がお互いにフィフティフィフティで話し合って、何ができるか、どう企業の利益に貢献できるかをかなりきめ細かく一緒に考えていかないといけない。それをやってきた結果です」

 オフィシャルパートナーには、世界的な映像配信プラットフォームであるAmazonプライムビデオが名を連ねている。今回が初めてのTIFF協賛となった同社だが、新設した新人監督賞「テイクワン賞」は1回目にして223作品の応募があり、映画祭との連携に満足していたという。また、配信プラットフォームにとっては、映画界とのネットワークを構築できること、そこから新たなビジネスが生まれること、そして、配信ビジネスにおいても映画が大事なコンテンツだと示すことが協賛の目的としてあり、それらもTIFFとの協力関係によりこの先につながる成果を得ているようだ。

 一方、TIFFには映画と直接的には関わらないエンタテインメント以外の業種の企業も多く協賛している。そのメリットを安藤氏は「映画祭への協賛は、ただメディアに載るだけでなく、一緒にイベントを作ることでリアルな場でのアプローチが可能なこと、映画界と繋がれることが大きな特徴です。我々は幅広い業種の方々と積極的に連携していきたい。すでに来年から参加したいというお話をいただいている企業もありますが、もっとそれを拡大していきたいと思っています」と力を込める。

■日比谷・銀座に移転しコスト増、次回へ持ち越した多くの課題

オープニングセレモニーで挨拶をする安藤裕康チェアマン(C)2021 TIFF
オープニングセレモニーで挨拶をする安藤裕康チェアマン(C)2021 TIFF

 今回からのTIFFの大きな変化が、会場をそれまでの六本木エリアから、映画・演劇の街である日比谷・銀座に17年ぶりに移したことだ。映画祭の歴史としても次の時代に向かうひとつのターニングポイントになることだろう。しかしそこには、昨年までと比較して会場費などのコストがアップするデメリットもある。安藤氏はそれでも進めるべき変革の意義を熱く語る。

「チェアマンに就任した当時から準備をはじめ、2年以上かかってようやく実現しました。会場が分散するため、運営スペースの確保や会場費など予算は増えますが、映画の街としてなじみがあり、歴史があるこの地で映画祭を開催することにより、観客層を広げられるという意義があります」

 一方、コロナのなかで迎えた1回目を振り返って安藤氏は「街との一体感の醸成、経済振興への寄与といった形で銀座を盛り上げていく観点からすると、今回はまだまだ足りない。次回以降に持ち越していることがたくさんあります」と自身に向けて厳しく評価する。

「会場は千代田区と中央区にまたがっており、両区長と話し合いましたが、お互いの良いところを利用する地域との協力関係をもっと築いていかないといけないと感じています。映画祭が外国映画人の交流の場になるのと同時に街と一体になることで、それが世界へのPRになる。まだ時間はかかりますが、そういうふうにしていきたいと考えています」

 街との関係性は映画祭のもっとも重要な要素だろう。なぜその街でやるのか、そこから何を発信してどう発展させていくのか。映画を育んできた街とともに映画文化を未来へつないでいこうという強い思いと確固とした意志が、街に根付いた映画祭そのものをひとつの文化して形成していき、人々を惹きつけていく。そんな未来へ向けて動き出したTIFFのこれからに期待したい。