Yahoo!ニュース

東映元会長の故・岡田裕介さん“最後の映画”を託された盟友・成島出監督が明かす「寂しさと悔しい思い」

武井保之ライター, 編集者

 昨年11月に急逝した東映の代表取締役グループ会長・岡田裕介さんが製作総指揮を務める最後の映画となった『いのちの停車場』が5月21日に公開される。長年の盟友・吉永小百合さんを主演に迎え、メガホンを成島出監督に託した本作は、在宅医療をテーマに人の生と死に真正面から向き合った物語。岡田会長とお互いの映画人生を交錯させ、親交を重ねてきた成島監督に今の思いを聞いた。

■オヤジギャグばかり言っていたチャーミングな人(笑)

 岡田会長と成島監督の出会いは、それぞれが東映東京撮影所の所長、脚本家として活躍していた頃。岡田会長が成島監督の脚本作をプロデュースし、その後に監督として映画を撮るようになってからも2人の付き合いは続く。成島監督はその頃から「気にかけていただいていた」と振り返りながら、当時の岡田会長の印象を聞くと笑顔を見せる。

「一番印象的なのは、オヤジギャグばかり言っていたこと(笑)。真面目な仕事の話をしているなか、ふと出てくるんですよ。仕事に対しては本当に厳しくて、僕は何度も悔しい思いもしてきましたけど、独特な色気があってチャーミングな人でした。くだらないことを言っていたときのあの笑顔がもう見られないと思うと本当に寂しいですね」

 岡田会長プロデュース、主演が吉永小百合、成島監督がメガホンを取るチームで製作された『いのちの停車場』は、『ふしぎな岬の物語』(14年)に続く2作目となり、岡田会長の最後の作品になった。今作の撮影が終わり、公開を先に控えていた昨年11月、岡田会長は急性大動脈解離のため急逝した。

「岡田会長は吉永さんの作品のときにいつも体調を崩すんです。前作では帯状疱疹になったり、吉永さんとの打ち合わせ前にはよくお腹を壊したり、いい歳して少年みたいなところがあって(笑)。ところが今作ではなにも起きずにクランクアップしました。『会長、今回はお元気なままで入院もされませんでしたね!』なんて話をしていました。それがまさかこんなことになって……。信じられない思いでした」

「岡田会長はどの映画に対しても変わらぬ熱い気持ちをお持ちでした。でも、今になって考えると、今作はいつもより現場に来る回数が多く、体調を崩さなかったことも含めて、なにかの予兆だったのか。言葉がうまく見つからないけど、理屈じゃないところでなにかを感じていたのかもしれません。これからもっと東映を引っ張っていくつもりでいたはずだから、自分が一番驚いているに違いない」

「岡田会長は吉永さんと高倉健さんの作品には特別な気持ちが入る人だったから、われわれスタッフとしては士気が高まる一方でプレッシャーでもありました。企画と脚本作りでは決して妥協しない。その作品の魂を徹底して追求する。その諦めない姿勢はプロデューサーとして尊敬するところであり、物作りに携わる人間としてとても勉強になりました。昔ながらのプロデューサー気質なんですよね。岡田会長との脚本作りは本当に大変でした(笑)」

■社会問題を定義する意義がある…岡田会長と悩んだラストシーン

『いのちの停車場』は、終末期の在宅医療をテーマにした現役医師・南杏子さんの小説『いのちの停車場』(幻冬舎)が原作。“命を救う”現場で戦ってきた主人公が、転身先である命の終わらせ方と向き合う医療に困惑しながらも、さまざまな患者と出会うなか、人それぞれの生き方を患者やその家族とともに考えるようになっていく物語。

 岡田会長の深い思い入れがある原作の実写化だが、自らのプロデュースと成島監督の演出、吉永小百合の好演によって、人の生死に関わる重いテーマを扱っているにもかかわらず、穏やかな気持で観られる作品に仕上がっている。しかし、尊厳死に向き合うそのラストには賛否があるかもしれない。

「映画は娯楽として成立したうえで、社会問題を定義する意義があります。本作のラストは、関係者に話を聞き、いろいろな情報を調べてリアルの現場を取材したうえで、岡田会長を含めてどうやって終わらせるかを悩み、話し合いました。その結末を観る人それぞれに考えてほしいです」

 そこには、コロナのいまだからこそ考えなくてはならないテーマがある。人それぞれの生き方、家族との向き合い方に改めてを思いを馳せさせられる作品と言えるだろう。成島監督にとって今作がどういう意味のある作品になったかを聞くと、間をおいて考えてから穏やかな口調で答えてくれた。

「岡田会長と吉永さんと組んできたなかで、個人の思いまでも打ち込んだ映画です。ただ、まだ自分のなかで整理がつき切らない。監督として自分にとってどういう意味があるのか、まだ客観的に考えられていません。これから封切りを迎えて、いろいろな声を聞いてから、ひとつの答えが出るのかなぁと思います。この機会を与えてくれた岡田会長には心から感謝しています。この作品が50年、100年と長く残る作品になって欲しい。岡田会長の思いが届いて欲しいと心から願っています」

(取材・執筆協力:東映、経済界)

【関連リンク】

『いのちの停車場』公式サイト

『ふしぎな岬の物語』公式サイト

『経済界』公式サイト

ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

武井保之の最近の記事