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なぜ、沖縄では新型コロナの流行が繰り返されるのか?

高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科
筆者撮影

先週、東京出張で那覇空港から羽田へと往復しましたが、どちらのフライトも、ほぼ満席。那覇空港のロビーは写真のように大混雑していました。春休みの観光シーズンが到来したようです。この光景は久しぶりです。

パンデミックの影響で海外旅行も難しくなりましたので、春休みの家族旅行や卒業旅行で沖縄が選ばれるようになっているそうです。首都圏の緊急事態宣言が解除されたことも、解放感を高めているかもしれません。

しかしながら、コロナは人の移動について回ります。すでに、沖縄県は、新型コロナウイルス流行の第4波へと入りました。直近1週間の人口10万人当たり陽性者数は5.21人/日で、宮城県の5.85人/日に次いで全国で2番目となっています(図1)。

なぜ、これほど流行が繰り返されるのか・・・、沖縄県で感染症医をしていると、しばしば質問されますが、明確に根拠をもって説明することは難しいです。少なくとも、「観光客が多い」などといった単一の要因ではないはずです。

1年にわたって、沖縄県で患者さんの診療に携わり、集団感染の現場で指導に入り、疫学情報を丹念に確認してきた医師としての印象はあります。沖縄に限らず、今後、地方において対策を進めていくうえでの参考になればと考えてみます。

その1 人口密度の高さ

新型コロナの二次感染が、人口密度の高いところで多いことは、いくつもの研究で明らかになっています。たとえば、イギリスの地方自治体を比較した研究でも、人口密度の高い自治体ほど流行が大きくなり、長引く傾向がありました(BJGP Open 2020; 4 (3): bjgpopen20X101116)。

沖縄県の人口は146万人に過ぎませんが、その多くが本島南部に集中しており、那覇市の人口密度は福岡市や名古屋市よりも高くなっています(図2)。そこに観光客など渡航者が重なり、さらに過密さが増していきます。これが、アウトブレイクの火が付きやすく、消えにくい最大の要因だろうと考えられます。

筆者作図
筆者作図

その2 移動人口の多さ

ウイルスが持続流行するには、一定の人口規模が必要です。人口が少なければ自然消滅していきます。地方においては、新型コロナは持ち込まれて拡大するのです。おおむね人口密度に依存する閾値(発火点)があり、それを越える量が持ち込まれると燃え始めます。

2020年の沖縄県への入境者数は373万でした。例年と比して激減したとはいえ、それでも1日1万人の渡航者が訪れています。シーズン入りすると数倍に膨れ上があります。実のところ、沖縄の流行は、昨年の春休み、夏休み、正月休み、そして今回の春休みとすべて休暇期間中に重なっています。

沖縄県には、宮古島や石垣島を含めて大きな歓楽街が多数あります。地元の住民も訪れますが、主たるターゲットは観光客です。こうした外に開かれた傾向が強いのは、地方都市では札幌のススキノぐらいでしょう。那覇と札幌で感染が持続する理由は、このあたりにあるかもしれません。

米国のマイアミビーチでも、感染対策を守らない観光客が路上で大騒ぎしている問題が報じられています。暖かい南国に来ると、どうしてもハメを外しがちになるのかもしれません。ただ、沖縄は医療資源が限られた小さな島です。本土で控えていただいていることは、沖縄でも控えていただければと思います。

その3 若者人口の多さ

新型コロナの感染を拡げる役割は、少なからず若い世代が担っています。活動的な若者が多いことは、感染を拡げる要因となります。沖縄県の高齢化率は、2020年の推計値で22.6%と全国最低です(図3)。活動的な若者が多いことは、沖縄県の強みではありますが、パンデミックでは弱点となってしまいます。

なお、直近1週間の沖縄県の全陽性者に占める20代、30代の割合は54%ですが、東京で37%、全国では34%に過ぎません。流行初期における若者の感染率の高さは、感染の拡がりも加速度的であることを意味しています。

ただし、離島である沖縄県では、PCR検査を県内で実施できるよう体制を拡充し、若者のアクセスを強化してきた経緯もあります。たとえば、7月に那覇市の歓楽街で流行が確認されたときには、2,000人規模で無料で検査を行いましたし、現在も無料で検査を受けられる体制をとっています。

那覇市の歓楽街で配布している無料PCRチケット
那覇市の歓楽街で配布している無料PCRチケット

実のところ、冒頭で紹介した都道府県別の陽性者数の比較とは、検査をどれだけやっているかにも依存します。人口当たりの検査実績を都道府県別にみると、沖縄は東京、大阪に次いで検査が実施されています(図4)。こうした測定バイアスについて考慮したうえで、地域別の比較をしていく必要はあります。

その4 有配偶率の低さ

沖縄県の壮年層(50代、60代)の有配偶率は66.7%と全国最低です(図5)。独居が多いことから、外出自粛を維持することが困難です。この層にとって、「家族と一緒に過ごしてください」というメッセージは残酷ですらあります。

男性たちは、少なからずスナックで晩御飯を食べています。女性たちは、昼にカラオケで集まったりします。あるいは、信頼の深い友人同士が定期的に集まる「模合」という沖縄独特の親睦制度もあります。

こうして友人と会って過ごすことは、とくに壮年層にとっては大切な暮らしの一部になっています。ただ、そこで集団感染に巻き込まれます。私の病院のコロナ病棟にも、そうして感染された独居の中高年男性が少なからず入院されています。

彼らにスナックに行くなと説くのは簡単なのですが、「じゃあ、どこに行けばいいのか?」という問いが残ります。家族がいて、子供や孫たちが走り回っていて、そんな定型的な自宅のイメージで外出自粛を語っていても、コロナ対策は進みません。

その5 世代間交流の活発さ

沖縄では親族や地域での交流が活発です。集まって食事をする機会が多くあります。誕生会をはじめ、いろいろと親族が集まるイベントが目白押しです。平時であれば、とても良いことなのですが、新型コロナの対策における弱点になっています。

歓楽街で働いている女性が、翌朝は祖母と食事をしているといったことも、沖縄では珍しくありません。親族との距離の近さは、歌舞伎町とは異なる要因だと思います。そうした風土では、高齢者へと感染が拡がりやすくなっています。

また、前節で紹介した独居の壮年層は、しばしば、兄弟のうちで両親の見守りの役割を割り振られています。両親に食事を差し入れたり、一緒に過ごしたりしています。これもまた世代を超えた感染拡大の要因になっています。

その6 締め切った生活環境(夏季)

昨年の夏、沖縄県では、ひときわ新型コロナが流行しました。ピーク時には東京の3倍にもなりました。実は、2009年の新型インフルエンザのパンデミックでも、沖縄だけ夏に大流行しました(図6)。沖縄の夏には、こうした新興感染症が流行しやすい背景があるようです。

ひとつ考えられるのは、多くの県民が、冷房環境で締め切ったなかで暮らしているということがあります。本土も8月には締め切った環境になりますが、沖縄の特性として、6月から10月あたりまで、冷房を必要とする期間が長いことがあるかもしれません。

その7 在沖米軍における流行

最後に・・・ 沖縄独特の課題もあります。

沖縄には、駐留する米軍の軍人、軍属、そして家族が、約5万人住んでいます。これら在沖米軍における感染者数は、3月30日までに1,134人と報告されており、人口比では沖縄県民の4倍近くの流行となってます(図7)。

その彼らと県民とは、ショッピングモール、レストランなどの公共空間を共有しています。相互に親しい友人がいることもあり、会食することもあるでしょう。相互の流行の波は重なりあっており、私たちは米軍と流行を共有しています。同じ島で暮らしているのだから当然でしょう。公式統計には載らない、もうひとつの流行が沖縄にはあるのです。

7月4日(独立記念日)をきっかけとした大流行以降、米軍の公衆衛生担当者らは、私たちとの共通課題としてコロナ対策に取り組んでいただいてます。県に提供される情報もリアルタイムで助かっています。ただ、残念ながら具体的な疫学調査や変異株などの提供については、いまだ十分ではありません。

地方に潜在する感染拡大のリスク

ここまで、沖縄の現場で仕事をしながら感じてきた課題を列挙してみました。いくつかは当を得ていて、いくつかは読み違えているかもしれません。ただ、新型コロナが人の交流を辿って拡がることは間違いなく、その交流が活発かつ多様であれば、それだけ制御しにくくなることは間違いありません。

紹介したように、東京や大阪といった大都市だけでなく、地方においても流行しやすい素因があります。観光地を有する場合には、とりわけナイトライフにおける感染対策が課題になります。観光コンテンツの感染対策というと、日中のアクティビティを議論しがちですが、少なくとも沖縄では、ビーチやホテルで楽しんだり、水族館を訪れたりといったことで、感染が県民へと拡がることは考えにくいのです。

沖縄県では、県外からの渡航者に対して、検査を受けてから来訪するように呼び掛けてきました。さらに、渡航後2週間は、高齢者に会うときにはマスクを必ず着用するなど感染対策を徹底いただくよう呼びかけています。お願いベースでしか呼びかけられず、県外にまで声が届きにくいのが苦しいところです。

また、那覇空港では、希望者がPCR検査が受けられる体制を整備しています。今月からは、3,000円に値下げする学割サービスも始めているので、とくに帰省する大学生は受けていただければと思います。高齢者のいる実家に宿泊すると、一人一人は大丈夫だと信じていても、総じて少なからぬ高齢者が感染することになります。

那覇空港到着ゲートの案内板(筆者撮影)
那覇空港到着ゲートの案内板(筆者撮影)

沖縄に限らず、地方では独居の中高年層が増えてきています。デジタル機器を使いこなせない方々にとって、「ステイホーム」とは孤立に他なりません。要介護であれば、感染対策がとられたデイサービスなど、比較的、コロナから守られやすくなりますが、その手前の層が、スナックやカラオケでリスクに晒されています。禁じるばかりでなく、彼らにとって安全な居場所としていく必要を感じています。

そして・・・、沖縄県でも4月から高齢者へのワクチン接種が始まります。これを着実に進めることが直近の目標となります。夏休みまでの間に、十分に行き渡らせることができれば、重症者数はかなり抑えられるはずです。

その先には、県内の飲食店や小売店、あるいは観光事業者など接客にあたる方々にワクチン接種へと協力いただくことで、ウイルスが持ち込まれ、流行しやすい沖縄県も、秋以降には状況が変わってくるものと期待しています。

沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科

地域医療から国際保健、臨床から行政まで、まとまりなく活動。行政では、厚生労働省においてパンデミックに対応する医療体制の構築に取り組んだほか、少子高齢社会に対応する地域医療構想の策定支援などに従事してきた。臨床では、感染症を一応の専門としており、地域では、在宅医として地域包括ケアの連携推進にも取り組んでいる。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。

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