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行政に政治が歪められた日本版カジノ法制案

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(提供:アフロ)

さて、昨日のエントリでは政府より示された日本版カジノ法制案についてマーケットの観点から問題になる点をご紹介したわけですが、本日は本法制案における最大の失笑ポイントについてご紹介したいと思います。昨年12月に成立したIR推進法では、我が国において成立するカジノを統制する機関に関して、以下のような規定を持っています。

カジノ管理委員会は、別に法律で定めるところにより、内閣府に外局として置かれるものとし、カジノ施設の設置及び運営に関する秩序の維持及び安全の確保を図るため、カジノ施設関係者に対する規制を行うものとする。(法第11条)

公営競技や宝くじなど我が国における既存の賭博業は、競馬は農水省、ボートは国交省、競輪とオートは経産省、宝くじは総務省、スポーツくじは文科省と、それぞれ単独の省庁の所管として管理監督されるのが慣例でありました。ところが、上記IR推進法の定めでは内閣府の外局に独立性の高い組織としてカジノ管理委員会を組成するとの点が明記されています。この規定に関する意図は、実は本法案提案者となった議員から以下のような説明がなされています。

平成28年12月02日衆院内閣委員会

西村(康)議員:

まず私から、三条委員会にすべきではないかという点についてお答えを申し上げたいと思います。全く御指摘のとおり、カジノに関する規制を行う機関としては、監督、規制を適切に実施するため、既存の行政機関から独立した新たな行政機関で実施することが適切であり、御指摘のとおりだというふうに考えております。

上記は議員立法としてIR推進法を国会に上程したIR議連の事務局長、西村議員による委員会答弁の内容ですが、「カジノに関する規制を行う機関としては、監督、規制を適切に実施するため、既存の行政機関から独立した新たな行政機関で実施することが適切」というのが、カジノ統制に関する政治側の意思でありました。

ではこのようなIR推進法の規定を受けて、今回、政府から示された実際のカジノ法制案において、上記のような政治的意思がどのように反映されたかをハイライトでご紹介しましょう。

以下、特定複合観光施設区域整備推進会議取りまとめ(案)の関連部分を筆者が要約

1. IR推進法に示されたとおり、内閣府にカジノ管理委員会を設置します。

2. これは法案提案者が委員会答弁にて示したとおり既存の行政機関から独立した行政機関です。

3. ただ、我が国のカジノ導入は観光振興が主目的ですから、主務大臣はそもそも想定されていた内閣総理大臣(内閣府の長)ではなくて、観光政策を統制する国土交通大臣にさせて頂きますね。

4. ついては施設区域や事業者の認定など主だった政策的機能は内閣府から国土交通省に移管します。

5. 当然のことですが国交省は主務官庁として事業者や自治体に対する継続的な監督権限を持ちますし、免許剥奪まで含んだ制裁権限も頂きます。

6. あ、でも一応、念のため確認しておきますが、議員の皆さんからご指示を受けた通りカジノ管理委員会は既存の行政機関から独立していますからね。「カジノ管理委員会は」ね。

つい最近、加計問題で時の人となった前川・元文部科学次官が発した「政治に行政が歪められた」というセリフが一世を風靡しましたが、今回のカジノ法制案においては「行政に政治が歪められた」と言わずして、なんと評すべきでしょうか。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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