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バスケ日本代表・張本天傑:複数のポジションをこなせる強みを最大限に生かして手にした東京五輪の舞台

青木崇Basketball Writer
アジアカップ予選からタフさと質の高いプレーで貢献中の張本 写真提供:JBA

「今までずっと目標にしてきたオリンピックに出ることが叶えられて、本当によかったです。まだまだこれからが始まりだと思うので、自分の責任、そして謙虚な気持で、全身全霊を込めてプレーしていきたいと思っています」

 東京五輪の出場メンバーに選ばれた心境について、名古屋ダイヤモンドドルフィンズでプレーする張本天傑はこのように語る。青山学院大に在籍していた時に日本代表デビューを果たしたものの、FIBA(国際バスケットボール連盟)主催の大会ということになると、常にメンバーに入れたわけではない。

 ワールドカップ予選での張本は、日本が出場権獲得を決めたカタール戦で19分プレーして9点を記録するなど、12試合中8試合で出場機会を得ていた。しかし、2019年に中国で行われたワールドカップに向けての代表選考では、アルゼンチン、ドイツ、チュニジアと対戦した最後の強化試合を前にメンバーから外れていた。

フィジカルなディフェンスで存在をアピール

 あの悔しい思いから2年、東京五輪の日本代表候補となった張本は、フィリピンで行われたFIBAアジアカップ予選できっかけを掴んだ。6月16日に行われた中国との1戦目、日本は試合開始から攻防両面で苦戦を強いられ、57対66のスコアで敗戦を喫した。そんな中でも8点しか取れなかった第1クォーターで張本は残り4秒でレイアップを決め、フィジカルの強さを発揮して2本のリバウンドを奪う。第3クォーターには7分41秒と4分30秒に3Pを決めるなど、アウトサイドからのシュートでもチームに貢献していた。張本は27分34秒の出場時間で12点だった比江島慎と金丸晃輔に続く11点を記録し、リバウンドもチーム最多タイとなる6本。もし、中国戦のベスト・プレーヤーがだれだったかと問われれば、筆者は躊躇することなく張本と答える。そう思えるくらい孤軍奮闘しているように見えたのだ。

「自分の持ち味であるフィジカルの部分、そこがしっかりアピールできたんじゃないかなと思います。中国戦、イラン戦もそうなんですけど、自分の持ち味であるディフェンスがしっかりとアピールできたなという風に思っています」

 こう語る張本は、アジアカップ予選とイラン戦で質の高いプレーとタフさを発揮し続けたことにより、東京五輪に出場する12人に残っただけでなく、その後の強化試合も含めて全11試合出場を果たした唯一の選手となった。

 張本は今回の選考期間を通じ、短時間でどれだけ成長できるかにフォーカスし続けながら、試合と練習の日々を過ごしている。フォワードのポジションで重なる八村塁や渡邊雄太というNBA選手2人が代表に合流したあとは、出場機会が一気に減ると思われたが、7月16日のベルギー戦も18日のフランス戦も出場機会を得ていた。

チームメイトが作り出しだチャンスで、3Pショットを決められるのも張本の強み 写真提供:JBA
チームメイトが作り出しだチャンスで、3Pショットを決められるのも張本の強み 写真提供:JBA

 日本代表のフリオ・ラマスコーチは、張本をメンバーに入れた理由を次のように説明する。

「3番も4番もこなせるというユーティリティなところがあり、3番としてはサイズがありますし、4番としても十分役割をこなせる選手だと思うので、すごく魅力的だということで入れました。

 今回、3番という役割の理解度、吸収度がすごく高くて、はっきりと彼の役目が何なのかというのをコートの中でわかったのかなと、自分は認識しています。インサイドのポストプレーだったり、3番としてゴールに正対したプレーだったり幅広く起用できるという部分で彼はすごく魅力的です。このチームの中で5番目のビッグマン、3番としても起用できるというのは大きな部分だと思います」

日本代表にとって重要な戦力であることを示したフランス戦

 フランス戦の第4クォーターは、ラマスコーチの言葉を象徴するような時間だった。後半2回目のタイムアウトを4分58秒にコールして以降、日本は渡邊、八村、張本がフロントライン、田中大貴と馬場雄大がガード陣というラインナップを採用。198cmの張本は221cmのルディ・ゴベールにマッチアップし、フィジカルの強さを生かすことでサイズのミスマッチをカバーしようと全力で戦った。

 残り4分4秒にコートに戻ってから試合終了までの間、ゴベールが残したスタッツはディフェンシブ・リバウンド1本のみ。張本はゴベールのスクリーンにもしっかり対処し、フランスに得点機会を簡単に作らせなかった。

「ディフェンスはよかった。ゴベール相手でもすごく頑張って、サイズの違いがあったかもしれないが、うまく対応してくれたと思います」と、ラマスコーチが張本に称賛の言葉を口にするのも決して不思議ではない。15分35秒で0点、0リバウンド、1アシスト、1ブロックショットというスタッツに終わったものの、張本が数字に出ない部分で勝利に貢献していたことは明らかだった。

試合中盤のゴベールだけではなく、元NBAでフィジカルの強いヤブセレ相手にもタフなディフェンスで奮闘した張本 写真提供:JBA
試合中盤のゴベールだけではなく、元NBAでフィジカルの強いヤブセレ相手にもタフなディフェンスで奮闘した張本 写真提供:JBA

 これまでの代表活動では、スモールフォワードで練習に参加していながら、試合になると前兆もなしにパワーフォワードで起用されることに戸惑いもあった張本。FIBAアジアカップ予選に向けた合宿が始まった当初、張本は東京五輪に出場できる12人に残れるか微妙な位置にいた。しかし、今は違う。役割を理解し、仕事をやり遂げる自信を手にしているのだ。

「ディフェンスの部分に関しては、ラマスヘッドコーチのシステムをしっかりと、最初からいるメンバーなので、そこを熟知している自覚はある。まずはディフェンスの部分でしっかり貢献し、オフェンスに関してはスペーシングを広げるシステムなので、自分の持ち味である3ポイントをこの合宿の最初から最後まで、しっかりと手応えのある感覚でシュートを打つことができた。そこもオリンピックでは発揮していきたいと思っています」

 7月26日午後9時ティップオフのスペイン戦で始まる東京五輪の本戦、日本は今までにない厳しい戦いに挑む。フォワードの両ポジション、フランス戦のような状況によってセンターとのマッチアップに対応できるという点でも、張本がこの1か月強の期間で日本代表に欠かせない戦力へと成長したのは間違いない。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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