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チェコはFIBAワールドカップのシンデレラストーリー。その歩みは日本にとって参考になる。

青木崇Basketball Writer
サトランスキーを中心に攻防両面で質の高いプレーを見せているチェコ(写真:ロイター/アフロ)

 ワールドカップの組み合わせが決まった時、日本はチェコに勝つチャンスがあると見ていた。3年前にベオグラードでの五輪最終予選で戦ったチームに比べれば、八村塁やニック・ファジーカスの代表入りによってフロントラインはレベルアップ。チェコが元ウィザーズのセンターで、現在ユーロリーグの強豪フェネルバフチェでプレーするヤン・ベセリーを欠いたことも、その考えに至る要因にもなっていた。

 しかし、現実は違った。ベセリーの代わりに先発センターとなったオンドレイ・バルビンは、217cmの身長とフィジカルの強さを生かしてインサイドを支配。NBA選手として着実に実績を作っているトマス・サトランスキー(この夏にウィザーズからシカゴ・ブルズへ移籍)を司令塔としてゲームをコントロールし、ヤロミール・ボハチック、ボイテック・フルバン、ブレイク・シルブらがシューターとして存在感を示す。日本戦に関しては、2Qにシルブ(トータル22点)の3Pシュートでリードを広げたことが勝因になった。

3Pシューターとしての役割に加え、司令塔としてもいい仕事をしているヤロミール・ボハチック (C)FIBA.com
3Pシューターとしての役割に加え、司令塔としてもいい仕事をしているヤロミール・ボハチック (C)FIBA.com

 さらに、2次ラウンド進出をかけたトルコ戦では、1Q途中から試合の主導権を握り、終わってみれば15点差の快勝。サトランスキーはFGが8本中1本の成功ながらも11点、7アシストをマーク。サトランスキーから「ピックしたら、とにかくロールし続けろ」と言われたバルビンが17点を記録するなど、トルコはチェコのピック&ロールに対するディフェンスで答えがなかった。警戒しすぎるとしっかりボールを動かされ、フルバン、ボハチック、シルブのシューターだけでなく、パワーフォワードのパトリック・アウダも得点に絡むところは、チェコが良好なケミストリーを持った質の高いチームであることを象徴していた。

ベセリーの不在を感じさせない活躍を続けるバルビン (C)FIBA.com
ベセリーの不在を感じさせない活躍を続けるバルビン (C)FIBA.com

「我々は歴史を作った。でも、これで満足するわけにはいかない」

 サトランスキーの言葉が正しいことを証明するかのように、チェコは2次ラウンドの初戦でもグループ戦で3連勝だったブラジルを93対71のスコアで大勝した。次のギリシャ戦を7点差で落としたものの、アメリカがブラジルに勝ったことによって決まった準々決勝進出は、今回のワールドカップにおけるシンデレラストーリー。「試合を重ねるごとに良くなっている。我々の目標は東京に行くことだ」と、ローネン・ギンズバーグコーチはチームに対する自信を深めている。

 12点差でギリシャに負けると2次ラウンド敗退という試合、チェコは4Q残り6分47秒でその点差までリードを広げられた。しかし、決してパニックに陥ることなく、サトランスキーのアシストからボハチックが2本の3Pシュートを決めるなど、自分たちのスタイルでプレーし続けて点差を詰めることができたのは、ワールドカップ3連勝で手にした自信によるところが大きい。11点、5リバウンドを記録したフルバンは、12点差にされた時の状況をこう振り返る。

「まだ時間が十分に残っていることをわかっていたし、40分間最後までハードに戦おうとしていた。12点ビハインドになった時に初めて点差を数え始めたけど、“OK、まだチャンスがある”とみんなで声をかけ合った後、残り2分で2点差まで詰めることができた。その後ギリシャがシュートを決めたことで負けたけど、必要最低限のことはやり遂げた」

ワールドカップ予選から主力として活躍しているボイテック・フルバン (C)Takashi Aoki
ワールドカップ予選から主力として活躍しているボイテック・フルバン (C)Takashi Aoki

 2000年代半ばまでのチェコは、24チームが出場するユーロバスケットのファイナルラウンドに進めるレベルのチームではなかった。しかし、ベセリーやサトランスキーといった素晴らしい選手の登場、2011年から6年間チェコのNo.1チームであるニンブルクを率い、2013年から代表のヘッドコーチと務めるギンズバーグの好采配もあって、2015年のユーロバスケットでは準々決勝進出という成果を出した。

 日本はアメリカで飛躍した渡邊雄太と八村塁の存在に加え、ニック・ファジーカスの帰化によって得点力不足が改善。フリオ・ラマスヘッドコーチ指揮下の2年間でアジア予選を突破できたことは、ユーロバスケットで進歩したころのチェコと似ている。ワールドカップでの日本は、選手としてもチームとしてもレベルの差を見せつけられて5連敗という結果に終わったが、チェコも2017年のユーロバスケットでグループ戦の成績が1勝4敗、20位という苦い経験をしていた。

 2年前のチェコはベセリーとシルブの不在の穴を埋めきれなかった。しかし、フルバンとボハチックがスターターとして経験を積み、アウダとマルティン・ペテルカがフロントラインの戦力として計算できるようになったことが大きい。また、期待外れの結果でもギンズバーグを解任しなかったことは、チェコ協会の首脳陣が長期的な視野を持って強化していたと言えるもの。だれもが認めるチームの大黒柱、サトランスキーはチームの進化について次のように語っている。

「チームメイトたちがすごく自信を持ってプレーしている。それ見られるのはすばらしいこと。2017年のユーロバスケットは悲惨だったけど、彼らの大半にとっては初めての大舞台。いい教訓になったし、それ以来選手としても人間としても成長をしてくれた。このレベルで持っているものを発揮できるとわかった彼らを誇りに思うし、素晴らしいリーダーシップ(ギンズバーグコーチ)の下、私が経験した中で最も謙虚な人間が集まったグループだ」

 日本がモンテネグロに敗れた後、ラマスコーチを変えるべきという声も出始めている。しかし、日本が13年前にジェリコ・パブリセビッチを解任した後、アジアでベスト8に進めない暗黒の時代があったことを忘れてはいないだろうか? 

 東京五輪まであと10か月、ラマスコーチは攻防両面でもっと引き出しを増やなければならないし、これまでの2年間で積み上げてきたものをさらにレベルアップさせることも必要。選手たちもこの苦い経験を糧にプレーの質をさらに上げなければならないが、チェコが歩んできた道のりは今の日本にとってすごく参考になるだろうし、「継続は力なり」の重要性を証明したと言える。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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