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NCAAバスケットボール:強豪校との3連戦で成長への道のりを着実に歩んでいることを示した八村

青木崇Basketball Writer
NBAのGMやスカウトたちからの注目度が増している八村(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 感謝祭の週末にオレゴン州ポートランドで行われたPK80インビテーショナルは、NCAA(全米大学体育協会)ディビジョン1の強豪校が特別に集結したビッグイベント。将来を嘱望された選手も数多くプレーすることもあり、多くのNBA関係者が視察にきていた。旧知のジェネラルマネジャーやスカウトと顔を合わせて挨拶するごとに、ゴンザガ大でプレーする八村塁のことを話題にしてくる。

 「なぜ彼は出場時間が少ないのか?」という質問を何度もされたが、ゴンザガ大を取材するのは初めてだったこともあり、”わからない”と正直に答えるしかなかった。しかし、オハイオ州大、フロリダ大、テキサス大というハイレベルのチーム、いずれも違ったタイプの相手に八村がどんなプレーをするかをチェックできるのは、NBA関係者にとって絶好の機会だと断言できる。

 NBA入りへの期待が高まってきているといえ、2年生となった今季はNCAAで本格的にプレーする1年目のようなもの。1つ1つの試合が学びと経験を積み重ねるうえで大きな意味があることは、八村自身もゴンザガ大のコーチ陣も十分理解している。11月23日に行われたオハイオ州大との初戦では、フィジカルが非常に強い相手にどれだけ戦えるかという点に注目していた。

 オフェンスに絡むことが少ないことやマンツーマン・ディフェンスでのミスもあり、八村のスタッツは19分出場で5点、4リバウンドに終わる。それでも、前半の終盤にペイント内での激しい争いに勝ってリバウンドを奪うなど、いい部分もあった。マーク・フューヘッドコーチが「塁は努力とフィジカルの部分で、ようやくこのレベルで競争することを理解してきた」と語れば、八村も「試合前からその(フィジカルの)話をずっとしていて、コーチからも1、2週間くらい、チームでもリバウンドの練習ばかりしていて、その中で僕も何個か取れて、チームに貢献できたのではないかと思います」と振り返る。

 翌日、身体能力の高い選手が多いフロリダ大相手に自己最多タイとなる9本のリバウンドを奪えたのは、自身の課題を把握し、実践できたことが大きい。ただし、この試合はディフェンスに集中しすぎるあまり、オフェンス面で積極性を欠いてしまう。後半は残り10分48秒のタイムアウトから延長でキリアン・ティリーがファウルアウトになるまでの約12分間、ベンチからコートに出ることがなかった。歯がゆさを感じてもおかしくない状況だったが、「そういうのは全然ないです。来るときは来るので、僕はそれまで待てる」と話す八村には辛抱強さがある。フロリダ大に再延長の末に競り負けた後に迎えた26日のテキサス大戦は、その言葉が正しいことを証明する試合となった。

テキサス大戦で20点と大活躍して勝利に貢献した八村
テキサス大戦で20点と大活躍して勝利に貢献した八村

 前半16分45秒に登場した八村は、15分51秒のオフィシャルタイムアウト後に迎えた最初のオフェンスでカットからボールをもらうと、一気にゴールへアタックして強烈なダンクを叩き込む。フューコーチがタイムアウトに指示したセットプレーが完璧に決まったものだったが、「あのようにボールをもらったらダンクをすると決めていた」と振り返ったように、八村の姿勢はフロリダ大戦から一変していた。その後も、ドライブ、ポストアップ、3Pシュートなどで得点し、ゴンザガ大が24連続得点で一気に試合の主導権を握る原動力となったことは明白。28分間の出場で20点、9リバウンドという自己最多を記録しただけでなく、チームの勝利に貢献できたことは、今後に向けて大きな自信になる。

「今までオフェンスがよかったらディフェンスがダメだったり、ディフェンスがよかったらオフェンスがダメというときが多かったんです。その中で自分が一番できることはディフェンスだと思ってずっとやってきたんですけど、今日はディフェンスもオフェンスもよくできたと思います」

 NBA入りという目標達成までの道のりは長くて厳しい。とはいえ、八村がPK80で得られた経験は、今後に向けてのプラス材料でしかない。フィジカルで負けることなく対応できるか、ディフェンスのミスを減らして無駄なファウルをしない、オフェンスのスキルは単なる可能性だけでないことを示す。この3つで前進することができたのは、次の言葉からも理解できるだろう。

「今までの中でもいい経験ができたんじゃないかなと。自分がよくできたかできていなかったかわからないですけど、すごく学べたことがあったと思います。それを学んだだけでなく、これからつなげていきたいと思います。本当に強いチームと連続してできたし、すぐ頭の中でイメージがつかみやすかったので、この3日間いいあれ(経験)でしたね」

 7月のU19FIBAワールドカップでの活躍により、八村に対するNBAからの注目度は高まった。今季のプレー次第で、NBA入りに大きく近づく可能性があるのはまちがいない。しかし、NCAAのシーズンはこれからが本番。NCAAトーナメントが開催される3月、マーチマッドネスでテキサス大戦以上のパフォーマンスを一貫して発揮できるかが、八村にとっては重要になってくる。

 それは、イースタン・カンファレンスに所属するチームのGMが「3月にどんなプレーをするかだ」と話していたことでも明白。NBA入りへの期待を増すのは仕方ないことだが、PK80における強豪校との3連戦で成長の跡を残せたのは、ゴンザガ大が計画している育成プロセスの一環としても大きな意味があった。八村にとっても、大きな手応えを感じた週末だったのはまちがいない。

 

 

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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