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ワールドカップで世界を驚かせる準備が着実に進行中のバスケットボールU19日本代表

青木崇Basketball Writer
沖縄でチェコとスクリメージを行ったU19代表 (C)Takashi Aoki

7月1日にエジプトのカイロで開幕するワールドカップに向けて、U19日本代表は沖縄でチェコと公開スクリメージを行った。チェコは18歳以下のメンバーであり、U19ワールドカップに進めないヨーロッパのディビジョンB所属。「ディフェンスから速攻に持ち込めたのはよかった」とトーステン・ロイブルコーチは振り返ったが、スクリメージを見たかぎり、91対52のスコアで大勝したことに驚きは感じなかった。

2016年のU18アジア選手権で2位となり、U19ワールドカップの出場権を獲得した日本は、昨年10月から9回の強化合宿を開催。ロイブルコーチはアジア選手権のメンバーに加え、可能性のある選手を合宿に召集させることで競争意識を高めた。また、出場資格のあったゴンザガ大の八村塁に加え、アリゾナ州のピマ・コミュニティ・カレッジでプレイしている榎本新作も代表選出。2人は得点機会をクリエイトするだけでなく、身体能力をディフェンスで生かせる点で大きなプラスと言えよう。

アメリカに渡ってから1年でフィジカルの強さを増し、スキルのレベルアップしている八村は、まちがいなく日本の大黒柱。スクリメージではインサイドでもアウトサイドでもフィニッシュできることを示し、マッチアップしたチェコの選手は対応に苦労していた。榎本は194cmのスイングマンで、昨シーズン35試合で平均15.3点、52.7%のFG成功率をマーク。非凡な身体能力を持ち、ペネトレイトでディフェンスを抜けるだけでなく、コンタクトされてもフィニッシュできる強さを持つ。

「合流が遅かったこともあり、八村と榎本はチームの練習に参加できた時間が短いから、チームのコンセプトを100%理解できているわけではない。今日の榎本はいいゲームをしていましたが、塁は少しリズムに乗れていなかった。でも、彼は賢いから無理なプレイをせず、チーム・ケミストリーを壊すようなこともなかった。もちろん、塁が我々にとって最大の武器であり、もう少しいい形でボールを持たせたらと思っている」

ロイブルコーチはこう語るように、昨年のアジア選手権を経験したメンバー9人との連携はまだまだ。しかし、八村も榎本もリバウンドを奪えば自身でボールをプッシュし、速攻やアーリー・オフェンスからシュート力のある西田優大(東海大)、杉本天昇(日本大)、三上侑希(中央大)が生きる形をクリエイトできる。チェコ戦ではハーフコート・オフェンスになったとしても、サイドのピック&ロールを起点にしたウィークサイドのアクションで、西田や三上が3Pシュートを決めていた。「彼はスクリーンからのプレイがうまいので、その中で一緒にやれて楽しいです」と八村が語るように、榎本とのピック&ロールがU19ワールドカップまでに機能性を高めていけると、日本はオフェンスの選択肢を増やせる。「すごく身体能力が高く、見ているだけでも楽しいし、相当強いです」と、榎本も八村とのプレイにワクワク感を隠さない。

実力に少し差があるといえ、チェコとのスクリメージは、高さと腕の長さに慣れる点で大きな意味を持つ。特にシューティングガード、スモールフォワードのポジションは、日本にいると195cm〜200cmレベルの選手とマッチアップする機会がない。ディフェンスは当然のことだが、オフェンスでシュートを打つ時やパスをする際、相手の手がどのくらい長く、その動きがどんなものかという感覚をつかめる。日本でやっているのとまったく違うことを、U19ワールドカップ前に再認識できたのは大きい。

チェコとのスクリメージ後、ロイブルコーチは「でも、このチームは八村頼りのチームじゃない。得点で脅威になれる選手はたくさんいる。西田、杉本、三上、増田、アヴィ(幸樹)シェーファー(ジョージア工科大)に、八村と榎本が加わったことで、一人をディフェンスすればいいチームではない」と口にした。しかし、2年前のU16代表から先発ポイントガードを務めていた伊藤領(開志国際高)が、ひざの故障を理由にメンバーから外れたのは、U19代表が抱える不安要素。伊藤に代わるポイントガードには、インターハイとウィンターカップでの活躍でチャンスをもらい、合宿で指揮官を驚かせるプレイを見せ続けた重冨周希(専修大)が選ばれた。昨年のアジア選手権を経験している水野幹太(法政大)、中田嵩基(福岡大附大濠高)を含めた3人でローテーションすることになるが、「ポイントガードの問題が露出しなかったのはよかった」と、ロイブルコーチはチェコ戦でのプレイに及第点を与えた。

スペイン、マリ、カナダとのグループ・リーグ戦で勝利するには、日本が持っている最高レベルのプレイしなければならない。しかし、八村の「世界を驚かせるチャンスがあるので、頑張っていきたい」、榎本の「いいプレイをしてメダルに近づけるように頑張りたい」という言葉に象徴されるように、選手たちとコーチ陣は日本が成長していることを示すことに意欲満々。U19ワールドカップ前に行われる予定となっているドイツとのエキシビションゲームが、日本のレベルを知るいい機会になるのはまちがいない。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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