Yahoo!ニュース

イスラーム過激派の食卓:トルキスタン・イスラーム党はのどかに暮らす

髙岡豊中東の専門家(こぶた総合研究所代表)
(写真:ロイター/アフロ)

 シリア北西部、特にシリア紛争の結果アル=カーイダを含むイスラーム過激派が占拠するようになった地域は、2023年2月のトルコとシリアでの大震災で甚大な被害を受けた地域だ。この地域については、依然として被災者を救援するための国際的な支援が行きわたっていないとの情報が発信され続けている。その一方で、この地域はシリア紛争に乗じて世界中からイスラーム過激派が組織を挙げて、しかも老若男女の家族ぐるみで入植し、本来「助けてやる」はずのシリア人民の生命・身体・財産を侵害して安住の地を築いた場所でもある。

 トルキスタン・イスラーム党も、そのようにしてシリアに入植して安住しているイスラーム過激派の一つだ。2023年の同派は、本来闘うべき中国共産党に対する戦果を全く上げない一方で、シリアでジハードに励み、ラマダーンの謹行を熱心に行う(ふりをする)画像や動画を熱心に発表し続けている。画像1は、トルキスタン・イスラーム党の者たちが前線の拠点で日没後最初に摂取すべきとされるナツメヤシなどの食物と飲料をとっている様子だ。ラマダーン中の同派の広報活動には、同派が入植している地域でシリア人民が震災被害に苦しんでいることに触れるものは一切なく、専ら自分たちとその家族が熱心に謹行に励む姿を紹介するだけだ。

画像1:2023年4月13日付トルキスタン・イスラーム党
画像1:2023年4月13日付トルキスタン・イスラーム党

 今般出回った動画で最も興味深いのが、画像2だ。これまでトルキスタン・イスラーム党が発信した同派の生活ぶりについての画像や動画では、同派がどの程度の兵站機能を擁しているのかを示すものがほとんどなかった。画像2は、車両の荷台に並べられたポリタンクに大口径のホースで水を注入している場面のようだが、これによってトルキスタン・イスラーム党が前線の諸拠点に飲料水・生活用水を配布しているらしいことがわかる。当然ながら、この営みではテキトーに水を配っていればいいというものではなく、拠点の数とそれぞれの拠点に配置されている人数を正確に把握し、諸拠点が必要とする量と質の水を継続的に確保する後方拠点や水を配布するための車両や人員を確保し、補給担当と各拠点との連絡を密に行うだけの組織力が不可欠だ。画像2を見るだけで、トルキスタン・イスラーム党が本来の活動地から遠く離れたシリアで、かなり恵まれた活動をしていることがわかる。

画像2:2023年4月13日付トルキスタン・イスラーム党
画像2:2023年4月13日付トルキスタン・イスラーム党

 画像3は、テント内と思しき所で食事担当の者複数が大量の餃子の仕込みをしている場面だ。より大規模な団体になると、専用の施設と人員を確保し、そこで一括調理した食事を前線に配布することが多いようだが、トルキスタン・イスラーム党がそのような施設や人員を擁していることを裏付ける情報は今のところ見当たらない。餃子の餡は肉のようだ。トルキスタン・イスラーム党も、2月の大震災にあたり多少は被災したシリア人民にお見舞いや物的支援をしたようなのだが、この調理風景を見る限り、支援はあくまでも自派の構成員の食生活の質を下げない範囲で行ったようだ。

画像3:2023年4月14日付トルキスタン・イスラーム党
画像3:2023年4月14日付トルキスタン・イスラーム党

 震災の被害規模や被災者の数に鑑みると、シリアの被災地ではラマダーンどころではない苦境にある人々が大勢いると思われる。今日に至るまで、被災地のうちイスラーム過激派の占拠地域で援助活動を行ったり、そのための資源を募ったりしている団体は国際的に著名なものも含めて沢山ある。にもかかわらず、本来シリア人民を「助けてやる」ためにやってきたはずの外国のイスラーム過激派が、今般のトルキスタン・イスラーム党の様に恵まれた環境の中でラマダーンを過ごしているというのは、何とも釈然としない。

中東の専門家(こぶた総合研究所代表)

新潟県出身。早稲田大学教育学部 卒(1998年)、上智大学で博士号(地域研究)取得(2011年)。著書に『現代シリアの部族と政治・社会 : ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地域の部族の政治・社会的役割分析』三元社、『「イスラーム国」がわかる45のキーワード』明石書店、『「テロとの戦い」との闘い あるいはイスラーム過激派の変貌』東京外国語大学出版会、『シリア紛争と民兵』晃洋書房など。

髙岡豊の最近の記事