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シリア:シリア民主軍による少女の徴兵に抗議行動が起きる

髙岡豊中東の専門家(こぶた総合研究所代表)
(写真:ロイター/アフロ)

 シリア北東部のハサカ県の最大の都市であるカーミシリー市で、クルド人の部隊に徴兵として年少の娘を連れ去られた家族による抗議行動が発生した。シリア紛争の結果、ハサカ県にはシリア政府、アメリカ軍、ロシア軍が拠点を構築したりパトロールを行ったりしているが、県の大半はクルド民族主義勢力の「民主統一党(PYD)」の軍事部門である民兵組織の「人民防衛隊(YPG)」を主力とする「シリア民主軍(SDF)」が占拠している。カーミシリー市はハサカ県の北端のトルコとの国境近くに位置し、県内で唯一の民間飛行場を擁することから、周囲をSDFが占拠する中でシリア政府が維持し続けていた都市だ。

 抗議行動の参加者たちは、YPGが彼らの十代半ばの娘たちを傘下の「女性防衛隊」に徴兵して連れ去ったと抗議した。YPGの女性兵士といえば、「イスラーム国」とクルド民族主義勢力との激しい交戦にも参加し、その姿は日本の報道機関にも取り上げられたことがあるので、ご記憶の読者もおられるだろう。シリア紛争での少年兵の起用は何かと問題となっているが、アメリカが支援するクルド民族主義勢力もその例外ではない。国連が去る5月に発表した報告書によると、2018年7月~2020年6月にYPGによって400人以上の子供が徴兵されたそうだ。抗議の参加者の一人は、連れ去られた娘の消息を方々に尋ねたが無駄に終わったと主張した。

 クルド民族主義勢力が「自治」を営む地域でも、当局が子供の保護に全く関心がないわけではない。「自治」当局は2019年6月に国連と少年兵の徴兵に歯止めをかけるための行動計画を締結している。「自治」当局の子供保護局のハーリド・ジャブル代表は、「子供の徴兵は絶対に容認しない」と述べ、これまでに213人の子供を(クルド民族主義勢力の)軍事機関から家族の許に戻し、最近ではSDFの許から1カ月で54人若年者を戻したとの実績を主張した。その一方で、同代表は最近(年少者の徴兵についての)苦情を多数受けており、シリア紛争に影響された若年者がクルド部隊への加入を試みていたこともあったと述べた。また、クルド当局と国連との行動計画も万能というわけではなく、国連によると行動計画締結以後も少なくとも160人の年少者が徴兵された。

 現在クルド民族主義勢力は、彼らをテロリストとみなすトルコからの軍事的な圧力にさらされるとともに、支援者であるアメリカの中東からの軍事的撤退の流れを受けて難しい立場に立たされている。それとともに、欧米諸国が引き取りたがらない欧米出身の者も含む「イスラーム国」の構成員とその家族の収監も任されている。そのような状況の中、アメリカやロシアが関与する形で、クルド民族主義勢力の処遇についてクルド側とシリア政府との交渉も行われている。交渉の焦点は、「シリアの領土・国民の一体性を認めるか否か」、「YPGをどのようにシリア軍に統合するか」、「シリアの構成要素としてのクルド人の地位の確保」、「天然資源の配分」など多岐にわたる。それらの一部は、紛争中にシリア政府が取った憲法改正や「改革」などの措置により制度の上では解消した問題もあるが、例えばYPGの処遇や「自治区やその旗を認めるか」、アメリカ軍の駐留をどうするのか、など当事者間の相違が大きな懸案も多い。

 ただし、今般取り上げた抗議行動のように、「クルド人」ならばシリア紛争やクルド人の政治・軍事問題に対して「必ず一体となって同一の立場をとる」のではなく、クルド人の間にもYPGやSDF、「自治」当局に対する不満や反対があるということは忘れてはならない。このような事実を無視して、民族や宗教・宗派、時には部族のような集団を「必ず一体となって同一の立場をとる」と単純化することにこそ、シリアに限らずイラクなど中東の紛争や政治問題をわからなくしてしまう要因の一つだ。また、クルド民族主義勢力やその下で活動する女性兵士は、本邦でも広く報じられているのだが、彼らの負の側面についても情報が得られるようにしてほしいものだ。

中東の専門家(こぶた総合研究所代表)

新潟県出身。早稲田大学教育学部 卒(1998年)、上智大学で博士号(地域研究)取得(2011年)。著書に『現代シリアの部族と政治・社会 : ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地域の部族の政治・社会的役割分析』三元社、『「イスラーム国」がわかる45のキーワード』明石書店、『「テロとの戦い」との闘い あるいはイスラーム過激派の変貌』東京外国語大学出版会、『シリア紛争と民兵』晃洋書房など。

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