イスラーム過激派の食卓(「イスラーム国 シナイ州」の衰退)

(写真:ロイター/アフロ)

 「イスラーム国」現象の特徴の一つは、世界各地のイスラーム過激派の個人や集団が、買収されたりファンの世論に迎合したりして「イスラーム国」の自称カリフに忠誠を表明し、「イスラーム国○○州」と看板をかけ替えることだ。エジプトのシナイ半島においても、長年同地で活動していたイスラーム過激派の武装勢力が自称カリフに忠誠を表明した、「イスラーム国 シナイ州」に衣替えした。「イスラーム国 シナイ州」の活動は、その気になればいくらでもできるはずの外国人観光客やイスラエルへの攻撃をほとんど行わず、専らエジプトの軍・治安部隊を攻撃し、時にエジプトの官憲の「スパイ」を粛清することに終始してきた。それでも、「イスラーム国 シナイ州」は何度も行われたエジプト軍による掃討作戦を生き抜き、「存続し、拡大する」という「イスラーム国」のスローガンを体現する存在であるかのように振る舞っている。

 その「イスラーム国 シナイ州」が、今期もラマダーンのごちそうを調理し、食べる様の画像群を発表した。もちろん、画像を発表した狙いは、同派が依然として健在であり、ラマダーン中の夕食を楽しむゆとりがあることを誇示することにある。しかし、今期の食事風景がそのような狙いにかなうものであるかについては大いに疑問である。写真1は、昨期のラマダーン(イスラーム暦だと本当にちょうど1年前)に「イスラーム国 シナイ州」が発表したラマダーンのごちそうの模様である。

写真1:2020年5月13日付「イスラーム国 シナイ州」
写真1:2020年5月13日付「イスラーム国 シナイ州」

食卓には、ジュース、サラダ、そしてエジプトでは結構人気のある魚の揚げ物が並び、砂塵にまみれた屋外での食事という点はさておき、まあまあ彩りがある。それに対し、今期発表された写真2は、確かに肉がたくさん入った炊き込みご飯風の食事を囲んではいるものの、副菜や飲み物が全く見られない、本当に彩の乏しい食卓である。

写真2:2021年5月3日付「イスラーム国 シナイ州」
写真2:2021年5月3日付「イスラーム国 シナイ州」

 「イスラーム国 シナイ州」は、この料理が供されるまでの調理風景(羊か山羊をつぶすところも含む)も発表してくれたが、写真3の通り、砂漠の野外で芝や廃材を燃料にした焚火で調理している。写真4も、同様に屋外の焚火でパンを焼く様である。中東観光の一環として砂漠キャンプを楽しむ分ならこうした野趣あふれる調理・料理は楽しいものだが、実はこのようにして調理したものを日常的に食べることには、必然的に混入する砂の影響で歯にひどい悪影響をもたらすらしい。その点、過日紹介した「イスラーム国 シャーム州ホムス」の調理・食事風景は屋内でのものなので、それだけでもこちらの方が若干マシに見えてしまう。

写真3:2021年5月3日付「イスラーム国 シナイ州」
写真3:2021年5月3日付「イスラーム国 シナイ州」

写真4:2021年5月3日付「イスラーム国 シナイ州」
写真4:2021年5月3日付「イスラーム国 シナイ州」

 昨期との比較でとりわけ重要なのは品数の減少であるが、さすがに「イスラーム国 シナイ州」の者たちが漁労を営むとは思われないので、彼らが魚の揚げ物を調達するには、少なくとも魚はお店で買うなり、誰かから巻き上げるかしていると思われる。サラダに使う野菜や、ジュース類についても似たような調達の仕方をしていたのだろう。それが今期の画像群で一切見られないということは、「イスラーム国 シナイ州」に金銭や物資を提供する支援者や、同派による「喜捨」との名目でのゆすり・たかりに応じる者が減った可能性を考えるべきだろう。或いは、同派の中で魚などの食材を調達する才覚のある者がいなくなってしまったのかもしれない。いずれにせよ、構成員にどのような食事を提供するかは、その組織の力量を何よりも正直に表すものである。繰り返すが、「イスラーム国」がラマダーンの食事風景の画像群を発信するのは、彼らが順境にあると主張したいからであり、逆境に負けずに頑張っていると言いたいのでは決してない。食事風景を見る限り、「イスラーム国 シナイ州」は昨期よりも明らかのショボい状態になっていると考えてよい。そのようなわけで、「イスラーム国」が拡散し、勢力を伸ばしているはずのサヘル地域やモザンビークなどの「州」がどのような食事風景を見せてくれるのか、興味が尽きないのである。