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次の自動運転の普及はトーイングトラクタ? 自動運転は物流の諸問題を解決する救世主か

高根英幸自動車ジャーナリスト
長瀬産業が展示したEasymileのTracteasy(筆者撮影)。

自動運転レベル3がホンダに続いてメルセデス・ベンツでも実装されることになり、他メーカーも追随していくムードの中、完全自動運転を待ち侘びているドライバーも多いことだろう。

しかしEUの法整備を見てもレベル4以上の完全自動運転は商用車やバスでの利用を前提にしたもので、まだまだ乗用車への適用は先のようである。自動運転への環境整備や車両側のソフトウェア開発には相当な時間が必要だからだ。

そのため公道より先に自動運転技術は着々と導入されている。特に物流業界ではかなり自動運転が浸透し始めており、この先も次々と自動運転で動く機械が増えていくはずだ。現在は空港や工場などで使わているトーイングトラクタを自動運転化する動きが加速している。

物流業界では人手不足や人件費削減、スピーディな出荷や確実な在庫管理のために自動化が進められている。アマゾンなどの倉庫ではロボットがコンテナを移動させてピッキングを行なう様子を映像で見た人も多いことだろう。

さらに生産工場ではAGV(無人搬送車)が、床に貼られた磁気テープを辿って倉庫から生産機械まで材料を運搬している。最近は障害物を検知すると停止するなどより高度化、大型化されたAGVが登場している。

フォークリフトに続くのはトーイングトラクタ

そしてフォークリフトも自動化が進んでいる。工場内は自動化しやすい環境だから、フォークリフトによる積み下ろし作業を自動制御することで、省人力化を進められる。自動運転フォークリフトがロボットとして作業員と分担して仕事をこなすのだ。

運搬ルートの設定やパレットの位置指定も、公道のような複雑なルートや無数にある駐車場に対応させるのと比べれば、随分とハードルが下がる。棚やコンテナにQRコードのような情報を盛り込んだマーカーを貼り付けるだけで、位置や荷物の情報を判断して積み下ろしや搬送を行なってくれるのである。

そうやって自動運転が普及しつつあるのが、今の状態だ。その次に自動運転が導入されるのが、トーイングトラクタなのである。その兆候は4年前からあった。

自動運転のフォークリフトを発売したトヨタL&Fは、物流系の展示会「国際総合物流展2018」で燃料電池フォークリフトの発表だけでなく、燃料電池トーイングトラクタの試作車を持ち込んだのだ。しかも自動運転という飛び道具まで携えて。

真っ白なボディで乗員が乗るスペースが存在しないトーイングトラクタの試作車は、それはそれはインパクトがあった。燃料電池だけ、自動運転だけでは少々話題性が足りないと判断したのか、その両方の要素を一気に盛り込んだのだから目論み通りだったのだろう。

トヨタL&Fが試作した燃料電池自動運転トーイングトラクタ。他が乗車兼用となっているのに対し、自動運転を強調するためか乗車不可となっている仕様がインパクトあり潔い。(筆者撮影)
トヨタL&Fが試作した燃料電池自動運転トーイングトラクタ。他が乗車兼用となっているのに対し、自動運転を強調するためか乗車不可となっている仕様がインパクトあり潔い。(筆者撮影)

しかし当時はまだ試作段階、これから実用化を模索するという状態だった。それくらいトヨタL&Fの開発は先を行っていたのである。それから早4年、今年1月に開催されたオートモーティブワールドに取材に行ってみると、自動運転のトーイングトラクタが種類、出展されていた。

そのうちの1台が、フランスの自動運転ベンチャーEasymileが開発したTracteasyだった。Easymileはすでにレベル4の自動運転シャトルバスを公道で走らせている実績もあり、欧州の生産工場でトーイングトラクタの自動運転化を行なっているという。

今回の展示は日本の商社である長瀬産業と日本市場でのビジネスを展開するのが目的のようだ。まずは実証実験などを行なって、安全性の証明と実績づくりを行なっていくらしい。

Easymileが日本に持ち込んだTracteasyは、時速10km/hで14tもの荷物を台車で牽引できるというから、かなりの運搬能力を誇る。そしてフロントウインドウ上端に備わるLiDAR(赤外線レーザースキャナー)と前方や四方にあるカメラで障害物を検知し、設定されたルートを安全に走行するようだ。

ヤマハの電動ゴルフカートをベースに大型AGVとして、トーイングトラクタと同じ機能を持たせているものもあった。これは以前も見かけたが、最新のモデルはトレーラーとの断続も自動化して、指定地点での切り離しを行なえるなど、より省人力化を図っている。

ヤマハの電動ゴルフカートは自動運転のベース車両として様々な形で利用されている。シャトルバスやAGVなどに転用しやすいシンプルな構造がその理由だろう。(筆者撮影)
ヤマハの電動ゴルフカートは自動運転のベース車両として様々な形で利用されている。シャトルバスやAGVなどに転用しやすいシンプルな構造がその理由だろう。(筆者撮影)

シャトルバスやトーイングトラクタがレベル4の自動運転を実現できるのは、走行速度が比較的低速だから、ということもある。低速であればLiDARによるセンシングも容易であるし、システムに問題があっても停止させるのも問題が少ない。

ハンズフリーのレベル2やレベル3の自動運転は、ドライバーの意識を運転から解放してくれることはないのも最後の砦がドライバーであり、最終的に交通事故を回避するのはドライバーの操作次第になるからだ。つまり運転しやすい状況では頼りになるが、困難な状況になってお手上げとなりドライバーにいきなり助け舟を求めるのである。

それほどまでに道路環境は複雑を極め、天候や季節、時間帯によっても状況は大きく変わる。それにドライバーのように対応するのは自動運転のコンピュータにはまだ荷が重すぎる。

見方を変えれば、道路環境さえ整えられれば、一気に完全自動運転のハードルは下がる。その代表的な例がこうした物流界の自動運転なのだ。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人のテーマ支援記事です。オーサーが発案した記事テーマについて、一部執筆費用を負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

自動車ジャーナリスト

日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。芝浦工業大学機械工学部卒。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、様々なクルマの試乗、レース参戦を経験。現在は自動車情報サイトEFFECT(https://www.effectcars.com)を主宰するほか、ベストカー、クラシックミニマガジンのほか、ベストカーWeb、ITmediaビジネスオンラインなどに寄稿中。最新著作は「きちんと知りたい!電気自動車用パワーユニットの必須知識」。

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