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<ガンバ大阪>プレシーズンマッチで決勝点を挙げた倉田秋。今春、フットボールアカデミーDieciを開校

高村美砂フリーランス・スポーツライター
PSM・広島戦で出場から6分後に決勝ゴールを奪った倉田秋。 写真提供/ガンバ大阪

 2月10日に行われたエディオンピースウイング広島でのプレシーズンマッチ、サンフレッチェ広島戦。82分から途中出場したガンバ大阪の倉田秋はピッチに立つ前から「勝つことしか考えていなかった」という。

「僕たちは昨年から長らく勝てていない。プレシーズンでコンディションが整いきっていない状況はあるとはいえチームとしての自信や結束力を得るためにも、とにかく勝つという結果が欲しい。それだけを考えてピッチに立ちました」

 その執着を自身のゴールに繋げたのは88分だ。後半は押し込まれる時間も続いていたとはいえ、試合終盤は好機を見出せるシーンも増えていた中で、自陣からのカウンターで倉田が前線に抜け出すと、前線のイッサム・ジェバリへパス。倉田はそのままの勢いでペナルティエリア内に走り込み、ジェバリが粘って送り込んだ浮き球のパスを頭で押し込んだ。

「僕だけじゃなくて途中から入ったメンバーみんながやってやろうという気持ちでピッチに立っていた。そのみんなの気持ちが結びついたゴールだったと思っています。ゴールはいつ獲ってもいいもの。シーズンの序盤に獲れない時間が続くと見えない焦りみたいなものが生まれるし、逆に獲れれば乗っていけるところもあるので、プレシーズンマッチとはいえ1つ獲れた事実は、またここから自分を勢いづけてくれるんじゃないかと思っています。相手に当たって多少はラッキーもありましたけど、そういうラッキーも含めてサッカーだし、その運がこっちに向いているのはポジティブなこと。いいスタートになりました」

■『楽しむ』ことをテーマに、シーズンを通して戦い抜く。

 プロ18年目のシーズンは『楽しむ』ことをテーマに掲げてスタートした。

「自分にとっての『楽しむ』とは、試合に勝つこと。サッカーの楽しさってプレーがうまくなるとか、できなかったことができるようになるとか、人それぞれやし、もっと根本的なことを言えば、ボールを蹴っているだけでも楽しさは感じられるけど、結局は、それが勝つことにつながっていかないと本当の意味での『楽しい』にはならない。1つ1つの勝負も、試合も勝つから楽しめるんであって、負けてばっかりやったら、やっぱり面白くない。じゃあ、どうやって勝つことを求めるのかと言えば、やっぱり巧くなるしかないし、練習するしかないからやることは同じなんですけど(笑)。でも今年はその先に、ちゃんと勝ちを見出せるシーズンにしたいと思っています」

35歳になった今も、衰え知らずの運動量でピッチを所狭しと駆け回る。 写真提供/ガンバ大阪
35歳になった今も、衰え知らずの運動量でピッチを所狭しと駆け回る。 写真提供/ガンバ大阪

 そのために今年はシーズンオフから自分に『我慢』を求めてきた。昨シーズンは、ケガから復帰後、明らかにチームに変化を与え、15節・アルビレックス新潟戦から続く4連勝に大きく貢献を見せた倉田だったが18節・鹿島アントラーズ戦で再び負傷。約2ヶ月半の離脱を強いられたからだ。

「どれだけいいパフォーマンスを見せていても、ケガは全てをふいにしてしまう。去年もようやく戦列に戻っていいリズムでプレーしていた時にまたケガをして離脱になってしまい…チームにも迷惑をかけたし、自分の流れみたいなものも止めてしまった。その時のことを今になって振り返ると、鹿島戦の週は追い込みすぎたかもなとか、筋トレをしすぎたかも、という心当たりがあったというか。調子がいい時だからこそ『やりたい』気持ちが走りすぎていて、頭の隅っこではちょっと危ないぞと思っていたのに自分を止められず結局ケガをしてしまった。その経験からも、ちゃんと自分の体の状態を感じて『これ以上やったら負荷をかけすぎるぞ』ってなる手前で我慢するのも必要やなと。そもそも、僕は以前から(トレーニングを)やりすぎる傾向にあるだけに、練習したいけど飛ばす、筋トレしたいけどやりすぎないっていうコントロールを今年はしっかり自分に求めていきたいです」

 それもあってシーズンオフも、彼にしては珍しく「ベタ休みまではいかないけど、体を休めることも意識した」と倉田。ただし、「時間があるとすぐに動きたくてウズウズしてしまう(笑)」ため、指導者C級ライセンス取得のための講習会に参加したり、今春から開校を予定している自身のフットボールアカデミー『Dieci』の立ち上げ準備を行ったりするなど、新たなチャレンジもしながら過ごしたという。

「特にDieciのところは、自分でやってみないと大変さがわからないし、体を休める分、頭を動かすことを意識しようと、1から自分でいろんなことを勉強して準備を行ってきました。HPづくりのところは専門知識を持った人にも力を貸してもらいましたけど、自分なりに色々勉強しながら関わったので、学びも多かったです。なので、例年のオフに比べたら全然動いていません。始動してから開幕まで1ヶ月以上時間があると考えても、敢えてそこから体を作るくらいのイメージでいました」

 だからこそ、沖縄キャンプは例年に比べてかなりキツかったそうだ。キャンプ3日目に話を聞いた際も苦笑いを浮かべた。

「35歳という年齢を久しぶりに実感しました。俺、おっさんやな、って(笑)。今日のオールアウトのトレーニングも、体が仕上がりきっていない状態でやったら、こんなにしんどいんやな、と。ただ、今年はこういう状況に慣れていくこともトレーニングだと思っています」

 実際、この日の練習後も、倉田と一緒に行う筋トレを『倉田塾』と慕う美藤倫ら、後輩選手から「秋くん、懸垂しましょうよ」と誘われてやり始めたものの、5回ほどやったところで「今日は終わり! これ以上はアカン!」と自身にブレーキをかけていた。

「この年齢になれば『これ以上やったらやばいな』ってなる以前の段階で止めたところで、きっと自分のパフォーマンスに影響はないと思うんです。思考とか、経験値とかで補える部分もたくさん出てきますしね。ヤットさん(遠藤保仁コーチ)がいい例で、オフはあんなにベタ休みしていても、シーズンが始まればしっかり動けていたわけですから。となると、トレーニングってある意味、自分の欲との戦いだな、と。これまではそこに抗えず、ついついやりすぎていましたけど、今年はそこをセーブできるようにしていきたいです」

 そんなふうに例年とは違う過ごし方をしながらも、開幕を2週間後に控えた公式戦に近いプレシーズンマッチで『ゴール』という結果が1つ出せたことは、自身に正解を求める上でも「自分を納得させる材料になった」と倉田。今後も、そうして自分の体に耳を傾けながら、2月24日のJ1リーグ開幕に向かう。

「今年は新加入選手が12名(期限付き移籍から復帰の2名を含む)と大きく顔ぶれが変わって彼らの新天地に懸ける意気込みとか、頑張りみたいなものにみんなが触発されて、チームにいい雰囲気が生まれている。ただプレシーズンマッチは勝てたけど、公式戦はまた全く違うものになるはずやし、この先はメンバーが大きく入れ替わったからこその難しさも出てくると思うので。その都度、状況に一喜一憂せずに、みんなでやるべきことをやり続けることに注力したい。また、チーム戦術を結果に向かわせるには、個人のコンディションも大事になってくるだけに、僕自身ももう一段階ギアを上げて開幕を迎えられるようにしたいと思っています」

■フットボールアカデミーDieciを開校。「真剣を楽しむ面白さを伝えたい」。

 そんな倉田が3月に開校するフットボールアカデミー『Dieci』についての紹介を少し。以前からシーズンオフには定期的に、ガンバのホームタウンである吹田市や高槻市で『倉田秋カップ』を開催してきた倉田だが、今春からは「楽しみながら成長する」ことを目的に、kids園児(年中、年長)、U-8(小学1〜2年生)、U-10(小学3〜4年生)、U-12(小学5〜6年生)と4カテゴリーに分けたスクールを開校。自身の経験をもとに、各年代に必要だと考える能力を備えさせるための独自のカリキュラムで、子供たちがサッカーに感じている楽しさをより膨らませられるような働きかけをしていくという。

Kids園児クラス。最初は扱いにくそうだった2号ボールも慣れるにつれてうまく扱えるように。(筆者撮影)
Kids園児クラス。最初は扱いにくそうだった2号ボールも慣れるにつれてうまく扱えるように。(筆者撮影)

「チームではなく、あくまで週1回のアカデミーなので、年齢に応じて、個の技術に特化した指導をしていこうと思っています。今のところ、各カテゴリーの人数もそう多くは設定していないので、それぞれの選手と膝を突き合わせて、個性をしっかり伸ばせるような指導をしていきたいな、と。また、サッカーはやっぱり勝負に勝つことの楽しさを覚えてこそ成長もあるはずなので。ワーワー、キャーキャー楽しいっていうよりは常にチャレンジ精神を持って勝負することの大切さや、真剣を楽しむことの面白さを伝えていければいいなと思っています(倉田)」

 実は『Dieci』というアカデミー名にも、そんな彼の思いが込められている。

Duel(勝負にこだわる)』

identity(個性を大事に)』

enjoy(真剣を楽しむ)』

challenge(挑戦することを恐れない)』

ideology(一人一人の考え方を大事にする)』

 その5つの理念の頭文字をとって名付けられた『Dieci』は、イタリア語で数字の『10』を意味する言葉。倉田が17年からガンバでつけている背番号『10』にもリンクさせたという。

 1番の特徴は倉田自身の幼少期の経験をもとに考案した2号球を使った指導だ。

「誰かに勧められるでもなく、僕も子供の頃から、家の中ではずっとテニスボールとか、何かの賞品でもらった小さいボールでしょっちゅうリフティングをしていました。それによって指先の感覚みたいなものがすごく身についたし、実際に小さいボールを触ってから、通常のサッカーボールを触ると、同じプレーでもすごく簡単にできるような気がした。今回、Dieciで2号球を使ったトレーニングを数多く取り入れているのも、その経験がベースになっています。小さいボールで練習すると、指先の感覚を備えられるようになるだけではなく、脳の刺激にもなるというか。小さいボールでリフティングをしようと思ったら、めちゃめちゃ集中力を求められるんです。足に当たる面積が小さい分、少しでも集中力を欠いたらボールの芯をとらえられないし、変なところに飛んでいってしまいますしね。つまり、脳の刺激を入れながら体のアジリティを高めるために、すごく役に立つトレーニングだと思っています(倉田)」

 実際、2月13日に行われた無料体験会では、最初こそ小さいボールに手こずっていた子供たちだったが、倉田や同アカデミーコーチの吉田太郎のアドバイスによってコツを掴めるようになるにつれて子供たちの表情にも変化が生まれ、明るい声が飛び交うように。また、2号球を使ったメニュー以外にも、年代別にさまざまなトレーニングが取り入れられ、子供たちのスキルに応じて言葉がけを変えたり、回数を変化させたりといった工夫も目を惹いた。

「子供たちの気持ちが盛り上がっている時は、一番上手くなる瞬間でもあるので、それぞれの表情を見て、感じ取りながら指導にあたっていました。予定より回数を増やしたり、メニューを変更したのもその理由です。少人数での指導の魅力は、そんなふうに子供たちの動きや表情をつぶさに感じ取れること。スイッチが入るタイミング、瞬間はそれぞれですが、グッと集中した時に必ず変化がプレーになって表現されるので、僕たち指導者はそれを見逃さず、彼らのスキルをより引き上げられるようにしていきたいと思っています。子供の可能性は本当に無限。ちょっとした働きかけをするだけで驚くような変化を見せてくれるので、僕たち指導者もそれを楽しみに、Dieciだからこそできる指導を心がけていきたいです(吉田コーチ)」

右端が吉田太郎コーチ。ガンバジュニアユース出身。倉田の右腕として熱を持って指導にあたる。(筆者撮影)
右端が吉田太郎コーチ。ガンバジュニアユース出身。倉田の右腕として熱を持って指導にあたる。(筆者撮影)

 ちなみに本格的な開校は4月の予定だが、そこに向けた無料体験会はあと6回、開催予定。倉田は自身のコンディション等も考慮して今後の無料体験会や開校後のカリキュラムで毎回、直接指導にあたるわけではないが、吉田コーチとも連携を図りながら、トレーニングメニューの提案等、深く関わりを持っていくという。実際のトレーニングの様子を動画で録画し、アドバイスなどを送ることも検討しているそうだ。

「子供の頃に備えた技術は、きっとサッカーの面白さを何倍にもしてくれる。僕が得た感覚をたくさんの子供たちにも知ってもらって、夢を追いかける力にしてもらいたいです(倉田)」

 興味がある方はぜひ、DieciのHP(https://dieci-soccer.com)で詳細の確認を!

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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