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<ガンバ大阪・定期便84>プレシーズンマッチで見えた、たくさんの光。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
サンフレッチェ広島戦は6名の新加入選手が先発に名を連ねた。写真提供/ガンバ大阪

 2月10日に行われたエディオンピースウイング広島でのオープニングマッチ『サンフレッチェ広島対ガンバ大阪』戦。沖縄キャンプで3つの練習試合を戦った上でこの一戦に臨んだガンバは、期限付き移籍から復帰した一森純、坂本一彩を含め、中谷進之介、山田康太、岸本武流、鈴木徳真という6名の新加入選手が先発メンバーに名を連ねてキックオフを迎える。

「チームづくりの過程ということもあり、新加入選手を起用したらどういった流れになるのか、どんな動きができるのかを見たかったのと、試合の中で調整していく必要があると感じていた部分を試してみようという狙いで先発メンバーを選びました(ポヤトス監督)」

「プレシーズンマッチという位置づけですが、お客さんが入る試合だし、ガンバを応援してくれる人たちの前で負ける試合は見せられない。ケガ人が出ていたり、選手それぞれにコンディションが上がりきっていない部分も間違いなくあると思いますが、そもそも負けていい試合は1つもない。ガンバとして戦う姿勢を見せれば今年のガンバに対する印象も変わるのかなと思うので、そこは心掛けたいです(山田)」

■たくさんの狙いが表現された、理想的な前半。

 前半は、キャンプから繰り返し取り組んできた『背後へのアクション』『攻守の切り替え』『強度』といった狙いがしっかり表現された展開に。トップ下を預かった山田が示したプレー強度や前への推進力、攻守における鈴木徳真の積極的にボールに関わるプレーなど、個々が持ち味を発揮しながら、それぞれがスペース、選手同士の距離間を意識したポジショニングを徹底して、相手ゴールに迫るシーンを作り出す。

ある程度自分たちの狙い通りの戦いができた前半だったと思っています。自分の動きが攻撃、守備に活性化になるように心掛けながら、攻撃の回数を増やすことを意識していましたが前半はそういったシーンも多く作り出せた(鈴木)」

 また守備においても、昨年の課題とされた『攻撃から守備の切り替え』や『局面での強さ』が表現され、自陣ゴール前に相手を寄せ付けない。両サイドバックのバランスも良く、相手のウイングバックの動きを警戒しながら、中にポジションを取ったり、高い位置にポジションを取ったりと、守備と攻撃を連動させた動きが目を惹く。左サイドバックの黒川圭介、右サイドバックの半田陸ともに戦術理解への高さを窺わせた。

「今日はこれまで準備してきた形とは若干違って、左サイドはそこまで高い位置を取らずに、まずは相手のウイングバックを引き出すことが狙いとしてありました。そうやって引き出した時に、一彩(坂本)や康太(山田)らが2ボランチとうまく関係性を保ちながら顔を出してくれたおかげで、1タッチで楔のボールを入れるシーンも多く作れたと思っています。ただ、試合の流れに応じて僕が中にポジションを取ることが増えた時に、もう少しボランチの1枚が顔を出してくれたら相手もスライドしてきて、より楔が通りやすくなったのかな、と。そこは今後の課題ですけど、今日の試合中もお互いが言葉を交わして細かい修正をしながら進められたのは良かったと思っています(黒川)」

「右サイドは縦だけではなく、サイドから中に入っていくことをプランの1つにしていたので、ボランチのダワンとの関係性の中で、僕が中にポジションを取ってダワンを前に押し上げるとか、逆にダワンが下がったら僕がそのスペースを使っていくというように、ダワンの動きとか、距離感は常にイメージして試合を進めていました(半田)」

 立ち上がりの4分の決定機はまさに、それぞれが意図を持った動きの中で、理想的にスペースを攻略し、ゴールに迫ったシーン。セカンドボールを拾った山田が右サイドのスペースを目掛けて展開すると、反応した岸本がボールを受け、グラウンダーのボールを送り込む。そこに逆サイドから走り込んだファン・アラーノが中に折り返し、敵陣、中央あたりポジションを取っていた半田が鋭く右ゴール前に詰めてフィニッシュまで持ち込んだ。残念ながら相手DFに対応されゴールネットは揺らせなかったが、『今年のガンバ』を十分に感じられるシーンだった。

「うまく相手のゴール前に進入していく形を作れた前半でしたし、自分がボールを持った時に相手に向かっていく姿勢や、パスだけじゃなくて局面で違いを作るといったシーンもいくつか出せたのかなと思っています。(ゴールの起点になったシーンも)セカンドボールを予測して拾って前向きになれたら、チャンスになるという感覚があったし、あの時も、ボールが浮いている間に足を止めてしまわずに予測して動けたから生まれたシーンだったと思います(山田)」

昨年は横浜F・マリノスに期限付き移籍をしていた一森純。優勝を争うチームでコンスタントに公式戦に出場し経験値を積み上げた。(写真提供/ガンバ大阪)
昨年は横浜F・マリノスに期限付き移籍をしていた一森純。優勝を争うチームでコンスタントに公式戦に出場し経験値を積み上げた。(写真提供/ガンバ大阪)

 そうした攻守を展開する中で特筆すべきは、期限付き移籍からの復帰戦となった一森の存在だろう。練習でも積極的に口を開いて味方を動かすことはもちろん、足元の技術を活かしてビルドアップに参加するなど随所に『進化』を示してきた一森だが、その姿はこの日も健在。42分にはカウンターから抜け出した広島・柏好文に作り出されたビッグチャンスを左手一本で弾き出した。

「正直、ピッチに入った時にはもっとバタバタするかなと思っていたけど、それぞれが自信を持って、すぐにバックパスを選択するのではなくて前に、前にという意識で戦えていた。後ろからもすごく頼もしく見ていました。前半は特にチームとして狙いとしているところが多く出た展開になったと思っています(柏選手の決定機については)ちゃんと映像を見返さないと分からないですが、おそらく弦太(三浦)が僕の左側にいてくれて、それが視界に入っていたので予測をかけたというか。先に動いたわけではなくどういうボールがくるかを最後までイメージしてあのプレーを選択しました(一森)」

■後半は先制点を許す展開に。間伸びした時間帯も。

 一方、後半は前半の勢いを自ら断ち切ってしまうかのように立ち上がり早々の48分に、ゴール前での混戦からこぼれ球を繋がれ失点。ビハインドを追いかける展開に。

「ハーフタイムで相手はメンバーを変えてきて、おそらくは監督にもハッパをかけられて後半を迎えていた中で、その勢いのままにやられてしまった。どの試合でも立ち上がりは大事な時間帯だし、前後半の最初と最後は絶対にやられてはいけない時間なので、そこは大きな反省材料です(一森)」

「自分たちが流れを掴んでいながら先に失点してしまうというのは昨年も課題だったところ。改善しなければいけない(黒川)」

 ただ、展開としては決して悪くはなく、前半同様に選手同士がいい距離間でプレーしながら、前を意識した戦いが続く。7分にはアラーノが左サイドから強引に仕掛けて局面を打開し、山田がダイレクトで合わせたり、13分には前半より高い位置を取ることが増えた黒川がアラーノとの連携から好機を演出したりと、足を止めずにゴールに迫るシーンも。その流れの中から得た58分の左コーナーキックのシーンではキッカーに立った鈴木が「狙い通り」の形で岸本の同点ゴールを演出した。

ニアサイドで陸が逸らして、ファーサイドに人が入っていくという形は練習していた、狙い通りの形でした。目に見えた結果を残せて良かったです(鈴木)」

徳島ヴォルティス時代はポヤトス監督とも仕事をした鈴木徳真。戦術理解も深く、中盤のコントローラーとしての存在感を示す。(写真提供/ガンバ大阪)
徳島ヴォルティス時代はポヤトス監督とも仕事をした鈴木徳真。戦術理解も深く、中盤のコントローラーとしての存在感を示す。(写真提供/ガンバ大阪)

 もっとも70分を過ぎた頃からはチーム全体の運動量が落ち始めたことも影響して、やや間伸びした展開に。ボールを持った選手のパスラインの選択肢も少なく、前線にボールを入れられない時間が続く。

「後半は、相手にボールを持たされてしまっているような展開になり、プレッシャーをハメられてしまうことも増えた。僕自身も、前に出て行くなどしながらリズムを作れたシーンもあった一方で、(流れを)ひっくり返すほどのプレーは出せなかった。今はまだプレシーズンで、コンディションを含めて整っていない状況はあったとはいえ、今後、長いリーグ戦を戦っていくことを考えるなら今日の広島のようにうちの出方に策を講じてくる相手にもしっかり掻い潜っていけるだけの力をつけなきゃいけない。そこは今日の自分の反省点です(鈴木)」

 山田もコンディション的な影響があったことを認めた上で、自身の課題に目を向けた。

「ガンバが目指すサッカーを続けるためには後半のような状況でも正確な技術を発揮し続けなければいけないし、そこはまだまだ詰めていかなくちゃいけないと感じました。また去年のガンバもそうでしたけど、ガンバが押し込まれている時は決まってファーストディフェンスがプレッシャーをかけられずに簡単にボールを失って、サイドに展開されて、クロスボールを入れられてしまっていたというか。それによって後ろもずるずる下がってしまって間伸びして…ということも多かった気もするので。今日の後半のように苦しい時間帯でも、自分が少し縦関係を壊して前に出て行ってボールフォルダーに圧力をかけるとか、いいタイミングでロングボールを蹴らせないという部分はもっともっとやっていこうと思っています(山田)」

■それぞれが示した個性を、逆転勝利につなげる。

 それでも、88分にはイッサム・ジェバリのペナルティエリア内での粘りから途中出場の倉田秋が、泥臭く勝ち越しゴールを奪ったこと。途中出場の宇佐美貴史が短い時間ながらキレの良さを示し、キックの精度で攻撃を輝かせたこと。坂本が持ち前の裏抜けや、再三の動き直しでチームの攻撃の矢印を前に向かせたこと。三浦弦太、中谷進之介のセンターバックコンビがチャレンジ&カバーを徹底しながら、個の強さを発揮し続けたこと。何より、それらをプレシーズンマッチとはいえ、26418人が詰めかけた満員のスタジアムで勝利を挙げられたことは、間違いなく開幕戦に向けてチームを勢いづける要素だったと言える。顔ぶれは大きく入れ替わったとはいえ『ポヤトス・ガンバ』としては昨年から長らく白星に飢えている状況にあったことを考えても、だ。

「ガンバのエンブレムをつけて戦う以上、負けていい試合は1つもない。今日もその思いを持ちながらプレーしていたので公式戦と同じようにめちゃめちゃ緊張もしたし、責任感も感じていたんですけど、それを感じながらプレーできたのは何よりの収穫だと思っています。ただ、ガンバが勝つためにもっともっと僕自身が合わせていかなくちゃいけないと感じた部分がたくさんあったし、ゲームの流れを読んでプレーを選択していく必要性も感じました。今日も後半の流れが悪い時にシン(中谷進之介)や弦太、徳真(鈴木)らとは『どうする?』『この時間は割り切るか?』といった話をしながらプレーしていたんですけど、そんなふうに監督の指示待ちではなくて選手同士でゲームの流れを感じてアップデートをしていくことも、もっともっとやっていきたいです(一森)」

「コンディション的にはまだベストではないにしても、ガンバのユニフォームを着てピッチに立つ試合だったので、ガンバの一員になれるようなプレーを心掛けていました。個人的には、キャンプの最後の練習試合も(アクシデントで)出られなかったので今日は久しぶりの試合で…。選手の特徴もすべてを把握できていたかといえばそうではなかったし、今日の試合の中で『ああ、そういう時はそっちにボールを置くんだ』といった新しい発見をした部分もあったんですけど、そこはあまり気にしていないというか。試合の中でそういう個人の特徴を知れて、これからやらなくちゃいけないことが明確になったと前向きに受け止めています(山田)」

「今日、一番良かったのは、たくさんのお客さんの前でプレーして勝てたことだと思っています。沖縄キャンプを含めたプレシーズンを僕たちがどんなふうに過ごしてきたのか、ほとんどの人が知らない中で、プレシーズンマッチといえども勝つ姿を見せられたのは、ファンの皆さんに対して『ああ、キャンプでしっかり作ってきたんだな』ということを1つ証明することにも繋がったはずだし、開幕が楽しみだ、という気持ちにもなってもらえたと思うので。僕らプロサッカー選手はたくさんのファン・サポーター、お客さんの前でプレーするから頑張れるし、戦える。これからもできるだけたくさん勝って、強いガンバを見せられるように、またここからしっかり準備したいと思います(鈴木)」

「去年はなかなか先制された展開からひっくり返せなかった中で、途中から入ってきた秋くん(倉田)が点を取ってくれて逆転勝ちできたのは、プレシーズンの時期とはいえすごく自信になった。また戦いの中身としても、チーム全体としていく時はしっかりいくとか、ボールを奪われた後の切り替えのところも、一彩(坂本)や康太くん(山田)ら前の選手がしっかりファーストディフェンスに行ってくれる分、後ろの僕らも狙いを持ってボールを取りにいく、ポジションを取ることができていた。そこは去年とはだいぶ変化した部分だと思います。もちろんあくまで今の段階での話で、ここからまだまだみんなで良くしていけると思っています(半田)」

トップ下のポジションで存分に持ち味を発揮した山田康太。「コンディションが上がっていけばもっとやれる」と自信をのぞかせた。(写真提供/ガンバ大阪)
トップ下のポジションで存分に持ち味を発揮した山田康太。「コンディションが上がっていけばもっとやれる」と自信をのぞかせた。(写真提供/ガンバ大阪)

■披露されたガンバの新たな武器。黒川の左足。

 また、ガンバの新たな武器を確認できたのもこの試合における大きな収穫の1つだと言えるだろう。

 黒川によるコーナーキックだ。実は、先の沖縄キャンプでも練習でフリーキックのキッカーを任されたり、練習後に遠藤保仁コーチとフリーキックの練習に向き合う彼の姿を確認していた。

「今はまだ本来の試合より近い距離にゴールを置いて、壁を越えることだけを意識して蹴っています。近い距離で(壁を越えて)ボールを落とせるようになれば、距離が遠くなった時にもっと簡単になるはずなので、今はまず短い距離で感覚を掴もうかな、と。ただ、イメージはまだぜんぜん掴めていません(笑)。ヤットさん(遠藤コーチ)に教えてもらっている最中ですけど、ヤットさんは短い距離でも簡単に落としますからね。近くで見ているとあの蹴り方が全てだろうなってことはわかるんですけど、僕とヤットさんでは体も筋力も違うので。真似をしたら同じように蹴れるというものでもないし、ヤットさんも習得に1年くらいかかったそうですしね。ヒントをもらいながら、数を蹴って自分でコツを掴んでいくしかないのかなと。…という状態なので、すぐに蹴れるようになることはないはずですが、徐々に自分の蹴り方みたいなものを掴めたらいいなと思っています。練習から決められるくらいになればチャンスももらえるかもしれないので、まずは自分に自信と感覚を備えられるようにしていきたいです(黒川)」

今年からガンバのレジェンド・藤春廣輝から『4』を受け継いだ黒川圭介。新境地を切り拓きながら、今年も左サイドを加速させる。(写真提供/ガンバ大阪)
今年からガンバのレジェンド・藤春廣輝から『4』を受け継いだ黒川圭介。新境地を切り拓きながら、今年も左サイドを加速させる。(写真提供/ガンバ大阪)

 その中で、広島戦では前半(40分)に1回、後半(75分)に1回、右コーナーキックのキッカーに立った黒川。特に前半のシーンでは、精度、スピード共に申し分ない弾道のボールを左足で送り込み、三浦の頭に合わせた。

「我ながら結構いいボールだったと思っています。弦太くんからも『ピンポイントで(頭に)当てられたら入ったはずなのに、俺がうまく当てられなかったわ』って謝られました(笑)。沖縄キャンプから帰ってきてからも、ヤットさんに見てもらってキックの練習は続けているし、フリーキックだけじゃなくて、最近はコーナーキックも意識しながらやっていたので、その成果が出たのかな、と。まだまだ練習中ですけど、今日は2本とも自分が思ったところに蹴れましたし、この先も精度を上げていけたらチームのオプションにしていけるんじゃないかと思っています(黒川)」

 始動からまだ1ヶ月という状況で、この日のキック精度が確認できたということは、すなわち『黒川の左足』が今後、チームのオプションになる可能性は十分にあるということだろう。それも含めて、多くの収穫と、課題を掴んだプレシーズンマッチだったと言っていい。

 もっとも選手それぞれも話していたように、この日のガンバが今シーズンの『完成形』ということでは決してない。選手それぞれのゲームコンディションもこの先より高まりを見せていくはずだし、細部を含めて、課題と修正が必要なのも間違いないだろう。

「チームは生き物。僕は、その生き物をどうやって活性化させていくのかが大事だと考えています。今日はこうしたから、次の試合も、ではなく、その時々の状況をしっかり分析しながら、試行錯誤をしながらチームづくりを進めていきたいと思っています(ポヤトス監督)」

 ポヤトス監督の言葉を聞いても、今はまだまだ発展途上にあり『成熟』を実感するのは、きっともっと先だ。だが、少なからずこの日の広島戦が、そこへの期待を高めるものになったのは事実だ。だからこそ、ワクワクが止まらない、ということも。

 余談だが、この日は勝利した試合後に必ず行われてきた『ガンバクラップ』がお預けに。キャプテン・宇佐美によれば、エディオンピースウイング広島のオープニングマッチということを考慮しての判断だったという。

「柿落としのスタジアムでガンバクラップをするのは相手へのリスペクトを欠く気がするからやめておこうと思うけど、いいですか? と一部のサポーターに確認したら、彼らもそうしようと賛同してくれたので、今日はナシにしました(宇佐美)」

「足を運んでくれたサポーターのみんなにお伝えあれ!」と伝言を預かったので、ここに記しておく。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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