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<ガンバ大阪・定期便76>これぞ、山見大登。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
山見らしいドリブル、スピードで切り裂きゴールを揺らした。写真提供/ガンバ大阪

■「ゴールしか見ていなかった」中でこじ開けた同点弾。

 J1リーグ25節・サガン鳥栖戦。0-1で迎えた7分のアディショナルタイムも残り数秒となった時間帯に、山見大登は値千金の同点ゴールを叩き込んだ。

 自陣、深いところから、すでに足を攣っていた山本悠樹が「武蔵くん(鈴木)を狙ってというより、時間帯からしてとにかく前にボールを進めたかったので、あそこに誰かいたらいいなと最後の力を振り絞って」ロングボールを送り込むと、自陣ハーフウェーライン付近で鈴木武蔵が頭で競り勝つ。

 「頼む山見。決めてくれ(山本)」

 その思いを受け取るかのようにボールが溢れてくることを信じて左サイドを抜け出した山見は、そのままドリブルで一気に前線へ駆け、利き足とは逆の左足でゴールネットを揺らした。「何かを変えたら、何かが変わるかもと思って」金色に染めた髪を颯爽となびかせて。

「(鳥栖の)ファン・ソッコ選手がその前のプレーで足を攣っているのが見えていたし、悠樹くん(山本)ならあそこまで飛ばすだろうということもわかっていたし、武蔵くんなら競り勝てると信じていたので、自分は全力疾走して入れ替わることだけを考えていました。右足に持ちかえることも一瞬、考えましたが相手DFもきていたし、切り返して奪われたら恥ずかしいなと思ってそのまま左で打ちました。これまでもリーグ戦では左足でしか得点を決めていなかったし、左足にも自信もあったのでそこは日頃の練習の成果が出た部分かなと思います」

 ボールを持った瞬間、「打つな」という確信があった。試合前に話していた山見の言葉が頭に残っていたからだ。

「チャンスが来たら、とにかく自分のプレーを出すことだけを考えます。もちろんチームでの約束とか、監督に求められることもありますけど、今の自分に必要なのはそれを忠実にこなすことではなく、結果を残すこと。2つ前の横浜F・マリノス戦で久しぶりに控えメンバーに入った時も…出場はできなかったですけど、周りの選手には試合前から『チャンスをもらったら自分の得意なプレーを全力でやります』と宣言していましたしね。今の自分の置かれている状況からして、また僕のプレースタイルを考えても、僕がピッチに立てるとしたら、チームがビハインドを追いかける展開のときや、点が欲しいとき。つまり、ダニ(ポヤトス監督)から求められることも、僕が求めたいことも数字、結果だからこそ、貪欲に狙います。それで結果を残せれば次に繋がるかも知れないし、残せなかったとしてもまた自分が同じ立ち位置に戻るだけ。それが今の自分の実力だと受け止めてまたこれまで通りやり続けるだけの話なのでビビる必要はない。出たら、チャンスが来たら絶対に自分でゴールを狙います」

 もっとも、それは逆サイドから全速力でゴール前に走り込んできたファン・アラーノの姿を視界では捉えながらの判断だと思っていたら「いや、全く見えていなかった」と山見。トラップした瞬間から、ゴールしか見ていなかったらしく「だからこそスピードを落とさずに入っていけた」とも胸を張った。

「アラーノのことは見えてもいなかったし、見る気もなかったです(笑)。自分が今後、試合に出るためにはあそこで決め切ることが必要だと思っていたので、足を振ることしか考えていなかったです。前半から相手GKも好セーブが続いていましたけど、そんなことも考えずに打つ一択。試合後、鳥栖のGK朴一圭さんにも『シュートコース、空いていた?』って聞かれましたが『わかんないです。思い切り足を振っただけなので』と答えました。残り時間もほぼなかったですしね。あそこでシュートを打たずに横パスを出したとして、それが相手DFにあたってコーナーキックになっても蹴る時間をもらえるかもわからなかったので後悔を残したくなかった」

与えられた時間はアディショナルタイムを含めても10分強だったが、2本のシュートを放ち、1本をゴールにつなげた。写真提供/ガンバ大阪
与えられた時間はアディショナルタイムを含めても10分強だったが、2本のシュートを放ち、1本をゴールにつなげた。写真提供/ガンバ大阪

 ちなみに、試合最終盤に素晴らしいスプリントを魅せたファン・アラーノも山見のプレーは想像しながら、走り込んでいたという。

「あのシーンはラストチャンスだと思って走り切りました。山見がそのまま自分で打ちそうだな、とは思っていましたが、仮にそのボールがGKやDFに当たって溢れる可能性もあったし、ゴールを取れるポジションに入っていきさえすれば何かが起きるんじゃないかと思っていました。結果的に、山見が素晴らしいゴールを決めてくれてよかったです。チームとしては勝ちたかったというのが正直な気持ちですけど、大事な勝ち点1になったと思います。ガンバのために走る、戦うことが僕にとってはいつもファーストチョイス。周りに活かされてこそ僕のプレーがあるように、全てはチームとしての機能があってこそだと考えています(アラーノ)」

■24回目の誕生日に誓っていたこと。自分を信じてやり続ける。

 8月16日、山見は24回目の誕生日を迎えた。「大していつもと変わらない一日だった」としながらも、節目の日に改めて誓っていたことがある。

「自分の未来のために、いつか花開く日が来ると信じて、腐らずに自分を信じてやり続けます」

 公式戦から遠ざかる中で、彼の心がさまざまな葛藤と戦っているのは明らかで、今シーズンも取材のたびに表情には悔しさが滲んでいたが、一方で逃げるわけにはいかないという決意も固くしていた。

「プロ2年目は自分が描いていたのとは全く違うシーズンになっています。試合に出られなかった時期も、個人的には決して調子が悪いという感覚もなかっただけに、正直、イライラを募らせていたこともあったし、必要とされないならこのチームにいる意味がないと思ったこともあります。クラブがどんなに求めてくれても、監督に必要とされない以上、試合には出られないのはこの世界では当たり前で、だからこそ戦う場所を変えることも考えました。でもガンバに残ると決めた以上、やるしかないな、と。8月頭にダニ(ポヤトス監督)と面談した時も『チーム状況的に今はまだ先発で出るのは難しいけど、チャンスが来たらそれを活かして欲しいし、与えられた時間で信頼を返してほしい』という話をされましたが、その時点ですでに3ヶ月くらいチャンスはもらえていなかったので。正直に『チャンスをもらえない以上、一歩目を踏み出せない』という自分の気持ちも伝えていました。ただ、そうやって思いを伝えた限りは、絶対に調子を落とすわけにはいかないし、チャンスで結果を残すための準備も必要なので。基本、僕は昔から何があっても練習はちゃんとやる派というか、じゃないと自分が自分に納得できないのでそこは心配していなかったですけど、かといって公式戦から遠ざかっているのも事実で…。試合勘やゲームコンディションがどのくらいのレベルで高まっているのか、高めているつもりでもそれが本当に通用するのか、ってことは不安だったりもしました。でも結局、僕ら選手はやり続けることでしか何も始まらないので。とにかく絶対に腐らず、自分を信じてやるだけだと思っていました」

 試合に起用されない日々の中で、より意識して取り組んでいたのが『スプリント力』だ。先の山見の言葉にもあった通り、自身の置かれている立場上、起用されるなら試合の途中から、得点を奪いにいく展開だと描いていたからだ。

「みんなが疲れている時間帯に、個人で打開することや、オープンな展開になった中での背後のスペースを使うのは自分の仕事。そのスプリント回数や精度を高めるためにも、自分の特徴をより発揮するためにもスプリント力は必要だと思っています」

 またチームとしても今シーズンはここまで、75分以降の時間帯に途中出場の選手が得点を決めた試合は2試合しかなかったからだろう。試合の最終盤、確実に勝利を引き寄せるためにも、途中出場の選手がチームのギアをもう一段階あげて、攻撃を加速させる必要性も感じていた。

「チームとしての試合の締め方についての考え方は様々だと思います。15節・アルビレックス新潟戦以降は特にリードする展開を守り切って終わる試合が殆どでしたが、チームとして結果を出せていたことを思えば、それも1つだとは思います。でもこの先、押し込まれた展開を耐え切って終わるだけでは苦しくなるはずなので。もう一度そこから点を取りに行く、盛り返すには途中出場の選手がチームのギアを上げるようなプレーをしなければいけないし、じゃないと相手にとっても怖くないと思うので。そこは自分の役割として意識していることの1つです」

■山見が求める『スプリント力』とは。

 そのために日々の練習を「やり切る」ことを心がけつつ、定期的に低酸素環境でのパーソナルトレーニングでスプリント力を磨いてきた。

「試合に出ている時は、公式戦でしか得られない強度も自分に蓄えられるし、課題も感じられますけど、そうじゃない時は当然ながら、公式戦から逆算して課題を感じ取ることはできない。だからこそ、やれることは全部やろう、と。そう思って自主トレを続けてきましたけど…さっきも言いましたが、何せ今シーズンの公式戦での先発出場は2試合だけなので。効果がどのくらいあるのかは正直、わかりません(苦笑)。でもそこは効果があると信じて、絶対に変化していると自分に言い聞かせてやり続けています」

 走る距離というよりは、与えられた時間をハイペースで強度高く走り抜くことをイメージして、だ。

「実は僕、高校時代から今日まで、一度もフル出場がないんです。僕みたいなプレースタイルの選手は、スプリント回数も多いし、長い距離を全速力で走ることが多くて、どうしても終盤は足が攣ってしまうというのも理由だったんですけど。ただ、今の時代は5人の交代枠ありますから。僕のポジション的にも90分をなんとなく走って終わるというよりは、与えられた時間で出し切るというか、強度の高いスプリントを見せて、結果を残すことの方が大事だと思う。現実的にそれができるようにならないと今のガンバの競争に食い込んでいける方法はないと思っています」

苦しい時に何度も声をかけてもらっていた福岡将太とゴールを喜ぶ。写真提供/ガンバ大阪
苦しい時に何度も声をかけてもらっていた福岡将太とゴールを喜ぶ。写真提供/ガンバ大阪

 冒頭に書いた、チームに勝ち点1をもたらす渾身の一撃もまさに、彼が求めるトップギアのスプリント力を余すことなく表現し、結果につなげたシーン。

「試合に出ていない中でも日々、取り組んできたことが1つ報われたのかな、と。試合が終わっていろんな人から反響があった中で、仁郎(中村)も連絡をくれましたが、僕と同じように悔しい思いをしている選手にいい影響を与えられたらいいなとも思います。ただ、僕もまだまだここからが勝負なので。ピッチに立つ時間を徐々に延ばしていくためにも、結果を求め続けたいです」

 描く未来は、自分らしくピッチで輝くことの先にあるという信念のもとに。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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