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<ガンバ大阪・定期便72>葛藤の先に。『インテリオール』のダワン。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
新たに開拓したインテリオールで今シーズン6ゴール目を挙げた。写真提供/ガンバ大阪

 壮絶な打ち合いを繰り広げたJ1リーグ22節・川崎フロンターレ戦はダワンの『頭』で締め括られた。

 合わせたのは、後半アディショナルタイムの6分。山本悠樹の左コーナーキックのシーンだ。山本のキックの精度もさることながら、ダワンもまた絶妙な駆け引きから空中戦の強さを際立たせてエアバトルを制し、ゴールネットを揺らした。

「練習していた通り、悠樹(山本)がいいボールを入れてくれたのできっちり合わせることができました」

 2点のリードを奪って折り返したものの、後半は立ち上がりから川崎に押し込まれ、71分に途中出場の瀬川祐輔にゴールを許すと、その4分後にも再び瀬川にこじ開けられた。3-3。試合内容も、流れも理想的だったとは言い難い。それでも、途中出場の選手も含め、個々が与えられた場所で持ちうる力を振り絞り、足を攣っても戦い抜いた気迫は最後の最後で、セットプレーのチャンスを生み出し、ダワンのゴールで結実した。

 リーグ戦において、ガンバが3失点以上を喫した試合で勝利を掴んだのは、実に11年8月20日のJ1リーグ22節以来、約12年ぶり。奇しくもその時の相手も川崎だった。

■「中断明けの入りはとても重要」という決意で臨んだ川崎戦。

 ダワンにとっては『フル出場』の責任を胸に刻んで迎えたJ1リーグ再開だった。事実、中断前のJ1リーグ21試合において、全試合に出場しているのはチーム内で自身と黒川圭介だけ。今節・川崎戦でその黒川が出場停止になることはわかっていたと考えれば『唯一』という責任も頭にあったはずだ。それにプレーで応えたいという思いは強かった。

「選手というのは監督からの信頼を感じた時に、さらに力を発揮できます。もちろん僕も、ここまでの21試合、続けて自分に出場時間を与えてくれていることに対して、ダニ(ポヤトス監督)からの期待はすごく感じますし、それに応えなければいけないという思いは強くなっています。ここまで、序盤戦こそ苦しい戦いが続きましたが、中断直前のJ1リーグ戦では、ようやくチームに勝ち癖がついてきたと実感できていますし、チームとして自信を持ちながら、成長できているとも感じています。ただ、今の自信をより大きなものにするには、まずは再開後の2試合、自分たちよりも上位を走る川崎と、横浜F・マリノス戦での結果でそれを証明しなければいけません。どこのチームも、少し長めの中断期間を使ってそれぞれの課題に向き合い、変化や改善を求めてきたはずですが、それは僕たちも同じです。ここから終盤戦に向かってより自分たちが目指す場所に進むには、確実に自分たちより上位のチームを倒していかなければいけないし、そのためにもこの中断明けの『入り』はとても重要な意味を持ちます。自分たちのサッカーをしっかりと示すことと、勝ち切るということの2つをしっかりリマインドして戦いたいと思います」

 その言葉通り、川崎戦もインテリオールを預かったダワンは攻守に気を利かしたプレーを光らせながら90分を戦い抜いた。継続的に中盤を構成している山本やネタ・ラヴィはもちろん、ウイングのファン・アラーノや石毛秀樹らとの連係もよく、目立ちはしないが効果的なポジショニングで、チームを前に進めていたのも印象的だ。この日も再三にわたって起点となってボールを収めたイッサム・ジェバリとは別に、チームにとってはもう1つ、前線にダワンというエアバトラーがいるのも心強い限りだろう。後半は、押し込まれる時間が続いたため、ポジションを落として守備の役割を担うことも多かったが、セットプレーでは相変わらずの強さを見せつけ、最後はそれをゴールにつなげて勝利を引き寄せた。

ゴール後はホームゴール裏のサポーターの元に駆け寄り歓喜を爆発させた。写真提供/ガンバ大阪
ゴール後はホームゴール裏のサポーターの元に駆け寄り歓喜を爆発させた。写真提供/ガンバ大阪

■慣れないインテリオールに適応できた理由。

 もっとも、ここまで順風満帆に進んできたわけではない。特にガンバでの2シーズン目となる今シーズンはダワンにとって初めてとなるインテリオールというポジションにチャレンジする中で「不安の中でプレーしていた時期もあった」と振り返る。それを自分なりにどう消化すればいいのかを悩み、ポヤトス監督と膝を突き合わせて話し合う場が設けられたことも、少なくとも4〜5回はあったと聞く。

「インテリオールという役割はこれまでの自分のキャリアでプレーしたことがなかったし、そのことはシーズン序盤から直接、ダニにも伝えていました。もちろん、自分なりにベストを尽くし、そこに慣れるためのチャレンジは続けようと思っていましたが、序盤戦は特にインテリオールで心地よくプレーできているという感覚はありませんでした。練習ではうまくいっても試合の中では想定外の事象が多く起きることもあり、その経験値が少ない僕は対応に戸惑ったこともあります。当時はチームとしても結果が出ていなかった中で果たして自分がここでプレーするのがベストなのか、本当に大丈夫なのか? ということをいつも考えながらプレーしていました。ただ、ダニは僕に感じてくれているポテンシャルをもとに根気強く僕をそのポジションで使い続けてくれました。序盤は、ポジショニングを含め、どういう形で前線に繋げていけばいいのか探り探りプレーしていたところも多かったですが、ダニは繰り返し僕を呼んで話をしてくれたし、外から試合全体を観ているダニだからこそ感じられる視点でプレーの指摘もしてくれました」

 時に、過去の映像と現在の姿を照らし合わせ、いいプレー、改善が必要なプレーを指摘してもらうという時間はダワンの中に自信を植え付けていった。

「ダニは過去の映像と、現在の映像の両方を並べ、比べながら『これだけできることが増えているぞ。期待にも応えてくれている。だから今度はここを改善しよう』というふうに常にポジティブな思考を僕に落とし込みながら自信をつけさせてくれました。ダニ以外にもいろんなコーチングスタッフ、チームメイトもアドバイスをくれました。そのおかげで自然と『インテリオールでやれる』という自信が備わっていき、思ったよりも早く、インテリオールにフィットし始めたなという感覚を掴むことができたんだと思います。もっとも、まだまだ伸ばさなければいけないところはありますし、過去ほどではないとはいえ、今もミスはあります。ですが、過去よりも確実にいいチャレンジはできていると思っていますし、インテリオールというポジションをすることによって、自分にも複数ポジションができるという自信が生まれています。試合では、事前に準備してきた通りに相手が出てくるとは限らない中で、僕が戦況に応じてアンカーにポジションを下げたり、攻撃時にインテリオールからペナルティエリアの中に入っていくことができるのは、チームにとってもプラスに働くものだとも思います。そうあり続けるようにこれからも努力を続けようと思います」

■すべては、ガンバの勝利のために。

 川崎戦でのゴールは、ダワンにとって今シーズン6得点目。この日もゴールを決めたファン・アラーノと並ぶ、チーム最多タイの数字だ。これについては試合前から「インテリオールというポジション的な役割もあっての数字」と冷静に受け止め、自身がゴールを決めることよりチームの勝利が嬉しいと話していたダワン。川崎戦後も例に漏れず「自分のゴールよりもチームが勝てたことが嬉しい」と振り返った。

「ゴールというのは個人的なものではなくてチームの力だと受け止めています。実際、今、僕たちが取り組んでいるサッカーは『スペース』をすごく意識していて、選手の誰もがポジショニングに気を配りながらプレーしていますし、ゲームプランの中で自分たちのサッカーがしっかり表現できた時には、決定的なチャンス、ゴールにつながるチャンスを数多く作ることもできています。そしてそのゴールチャンスはセンターフォワードに限らず、いろんな選手に生まれています。だからこそ、僕を含めて、チャンスを得た選手はそのチャンスに驚かず、確実にゴールにつなげるという役割を果たさなければいけないと考えています。サッカーというのは誰か一人が輝くだけではうまくいきません。選手それぞれがピッチの中で輝けるように、いいプレーを目指さなければいけません。たとえ地味なプレーでもそれぞれがチームのために戦い、走った先に、ゴールやチームの勝利があるからです。今のガンバは、そういうチームになってきているし、裏を返せば、個人がそれぞれの持ち味を発揮して輝き出せたから勝利という結果がついてきているとも言えます。僕もその一人として、任されたポジションでより自分らしさ、スタイルを発揮していけるように続けていきたいし、並行して自分のプレーの幅をもっと広げていきたいと思っています」

 プレーの幅といえば、先のプレシーズンマッチ・セルティックFC戦では終盤、チーム事情もあって20分ほどセンターバックを預かったことも。これも『幅』と受け止めていいのだろうか。

「僕の記憶では昨年末のプレシーズンマッチ、アイントラハト・フランクフルト戦でも預かったセンターバックで…もっと遡れば、確かAAポンチ・プレッタでプレーしていた最後の方も公式戦でプレーしたことがあります。ただ、当時もチーム内にケガ人が出てしまったり、センターバックの選手が人数的に足りていなかったりというチーム事情によるものでしたし、おそらくは今回もそういう考えのもとでの起用だったんじゃないかと思います。もちろん、常にチームのサポートになるならば、とは思っていますがおそらくはダニもそこに重きを置いては考えていないはず…いや、そうだといいですが (笑)」

今シーズンのJ1リーグではチームで唯一、全試合に出場。存在感を示している。写真提供/ガンバ大阪
今シーズンのJ1リーグではチームで唯一、全試合に出場。存在感を示している。写真提供/ガンバ大阪

 ダワンに取材をすると、いつも「チームのために」という言葉を繰り返し耳にする。その思いは、在籍2シーズン目、特に今シーズンは完全移籍になったことでより強まっているのだろうか。問い掛けると「いや、それはない」と返ってきた。あくまで、ポジティブな意味で。

「昨年、初めて来日し、ガンバでの仕事を始めた時から妻には『僕はこのチームに長くいることになる気がする。僕自身もここに長くいたいという気持ちが強い』という話をしていましたし、遅れて来日した奥さんも僕と同じようにガンバというクラブ、大阪という街をすごく気に入ってくれて、今も変わらずここでの生活に愛着を示してくれています。つまり、期限付き移籍だった昨年も、完全移籍になった今年も、僕の中でガンバへの愛情は『変わらない』というのが正しい答えだと思います。日本のビッグクラブであるガンバが、あるいはサポーターの皆さんが僕に示してくれる信頼、愛情に対して、僕も全力で応えたい、ガンバのために戦って、このチームの誇りを守りたいという気持ちは常に持ち続けていますし、より多くの喜びを分かち合いたいと考えています。できるだけ長くガンバでキャリアを過ごし、ここで終わりたいという気持ちもあります。ただ、そのためには僕自身の結果も必要だということは自覚しています。だからこそ、まずはチームのために、勝利のために、自分の全てを捧げて戦い続けます」

 かつてダワンは、試合の中で時に「よし、このタイミングでゴールが決まるぞ、という予感を感じる瞬間がある」と話していたことがある。スタジアムの雰囲気、サポーターの表情、チームメイトの目、ピッチに漂う空気。言葉では説明できないそれらが、ピタッと合致してゴールにつながる瞬間がサッカーにはある、と。

「そんな時は身震いするというか…すごくゾクっとします」

 おそらくは川崎戦での決勝ゴールにもその予感があったのではないだろうか。決して偶然ではなく、それぞれに積み重ねた過程がもたらした、必然という名の『予感』が。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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