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<ガンバ大阪・定期便70>東口順昭、食野亮太郎、ファン・アラーノ。節目を迎えた男たちの柏レイソル戦。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
それぞれの節目の柏戦を勝利で飾り、勝ち点を26に伸ばした。写真提供/ガンバ大阪

 それぞれの『節目』を迎えた男たちが、揃って輝いた。ガンバでのJ1リーグ300試合出場の東口順昭。J1リーグ50試合出場の食野亮太郎。そして、J1リーグ100試合出場のファン・アラーノだ。

 ダワンの先制点で口火を切ったホームでのJ1リーグ21節・柏レイソル戦。東口は、安定のセービングで味方を勇気づけ、食野は1-1で迎えた後半立ち上がりに左足のスーパーゴラッソで、流れを引き寄せる。67分には、アラーノが自ら掴んだPKのチャンスでゴール左下を捉え、相手の息の根を止める追加点を奪った。

■食野亮太郎のスーパーゴラッソ。堂安律の言葉にも力をもらう。

 食野の意識下に、J1リーグ50試合目はなかったが、昨年の同カードで取り消しになった幻のゴールのことは試合前から頭にあった。

「去年の終盤、J1リーグ31節の柏戦で僕のゴールがVAR判定で取り消しになってしまったシーンは今も忘れていない。あの試合は結局、スコアレスドローに終わってしまったので、今回はチームを勝たせるゴールを絶対に決めてやろうと思っています」

 その言葉通り、文句なしのスーパーゴラッソだ。山本悠樹からボールを受けた瞬間「打つことの一択しか考えなかった」と振り返った食野は、得意のカットインでコースを作り出し、左足を振り抜いた。

「前半は足を振れるようなシーン自体がなかったので、後半は改めてしっかり足を振り切ろうとリマインドしていました。それがゴールに繋がって良かったです。あの角度で持ち込んだらいいところに蹴れる自信はありました。練習からシュートも入っていたし、調子もすごく上がってきていたので、今日はホンマにゴールが取れる気がしていた。これから暑くなる夏場も、どんどん点を取れるように、今の調子をキープしたいと思っています」

プロ7年目。プロになって初めて背負う一桁の背番号『8』に覚悟を漂わせる食野。写真提供/ガンバ大阪
プロ7年目。プロになって初めて背負う一桁の背番号『8』に覚悟を漂わせる食野。写真提供/ガンバ大阪

 『足を振る』。今一度、原点に立ち返らせてくれたのは、前節・京都サンガF.C.戦で約半年ぶりに再会した、ジュニアユース時代からの同期、堂安律だ。幼少の頃からの盟友が何気なく口にした言葉にハッとさせられた。

「律とはこまめに連絡を取り合っているわけでもないし、会うのも久しぶりですけど、会えばいつも自分に必要な言葉をかけてくれる。京都戦前は、チームのYouTubeに流れていたのが全てってくらい、わずか1分くらいの再会でしたけど、会った瞬間『丸くなったら終わりやからな、お前のプレースタイル。(足を)振れよ』って言われて。短い一言でしたけど、子供の頃から僕の性格もプレーも知ってくれているからか、自分が一番必要としていた言葉をかけてくれたし、素直にそうだよなと思えた。これまで自分がなぜマンチェスター・シティのオファーをもらえたのか、何を評価されたのかってことを改めて考えても、僕の良さはやっぱり思い切った仕掛けと、足を振れること。その自分に改めて立ち返らせてもらった、すごくありがたい言葉でした」

 その決意は、食野が13節・浦和レッズ戦を最後に、先発メンバーから遠ざかっている最中にもリマインドしていたことでもある。6月初旬、倉田秋のピッチでの躍動に触れ「自分も原点に立ち返る」と話していた。

「秋くん(倉田)がいい意味で少しチームの戦い方を壊して秋くんらしさで勝負している姿を見て、そうよな、と。もちろん、チームでの役割はありますけど、それをしていたら自分の持ち味を出さなくていいというわけじゃない。『俺じゃないとアカン』ってことを示すには自分が一番得意としているプレーで勝負することも考えないと。それを秋くんが教えてくれたので、僕ももう一度そこに立ち返って練習からやり続けます」

 つまりは、そうした積み上げもしてきた中で、堂安の言葉がより自身を奮い立たせてくれたと理解すべきだろう。その決意のもとに前節・京都戦でも途中出場で攻撃を加速させた食野は、この日、8試合ぶりの先発出場となった柏戦で自身も待ち望んだ、今シーズンのリーグ戦初ゴールを叩き込んだ。

「危険なところに何回、ボールを運んでいけるか。人を送り込んでいけるか。その回数を増やしていけば自ずとチャンスは増える。逆にボールを失うのを怖がってバックパスばかりになるとチャンスも作れないし、相手にとっても脅威にならない。だからこそ柏戦は、自分も含めて、危険なゾーンにボールと人が入っていくことを意識して戦いたいし、チャンスでは思い切って足を振りたい。点、取ります!」

 試合前に話していた通りの有言実行のゴールは、1-1の均衡を破る、値千金の一撃だった。

利き足は右だが、この日は子供の頃から意識してきて磨いてきた左足で決めた。写真提供/ガンバ大阪
利き足は右だが、この日は子供の頃から意識してきて磨いてきた左足で決めた。写真提供/ガンバ大阪

■「どうしても点を獲りたい」思いを得点に繋げたファン・アラーノ。家族が運んでくれた『幸運』も力に。

 1点のリードは決してセーフティな状況ではない中で、相手を突き放す3点目を決めたのがアラーノだった。シーズン序盤から、圧巻の運動量でピッチを所狭しと走り回ってきた中盤のダイナモはこの日も序盤から存在感を示す。周りの選手との連係も良く、9分にはネタ・ラヴィ、イッサム・ジェバリと縦に崩したシーンも。アラーノから中央のジェバリに送り込もうとしたパスは相手DFに阻まれたが、その2分後には再びラヴィ、アラーノと繋ぎ、左サイドの黒川圭介がマイナスのクロスボールを送り込む。アラーノもシュートを狙える状況ではあったが、そこは敢えてスルー。後ろから上がってきたダワンが先制点を叩き込んだ。

「これまでも左サイド、僕やダワン、圭介(黒川)のところでチームに何シーンか決定的なチャンスを作れていたし、コンビネーションで崩せていたシーンがたくさんあったので、お互いに活かし合える状況にあることはメリットだと考えていました。あのシーンでも後ろからダワンがしっかり入ってきて、ゴールに繋げてくれたので、すごく嬉しかったです」

 この日が、J1リーグ100試合目の節目の試合だということは、意識して試合を迎えたという。

「どうしても、点を取りたい」

 スタートからその思いはプレーでも表現された。チャンスが訪れたのは63分、自らの突破が相手のファウルを誘いPKに繋げたシーンだ。

「ハーフタイムに、マルセル(サンツ・ヘッドコーチ)と相手のライン間にスペースがあるという話をしていて、そこを活かしたいなと考えていました。あのシーンも、しっかり相手のスペースにポジションを取ったタイミングで(高尾瑠から)ボールが入ってきた。相手のセンターバックの間にうまく体を入れられたのが良かったと思っています。本当はそのままシュートまで持ち込みたかったんですが、相手選手に引っ張られて倒れてしまい、PKを得ることができました」

 DOGSO(得点または決定的な得点機会の阻止)による相手選手の退場というVAR判定が出るまでには、やや時間を要したものの、その間もしっかりボールを小脇に抱え、離さなかった。

「自分としては引っ張られた感触はありましたが、(VAR判定で)ちゃんとファウルを取ってくれるかは心配でした。ただPKを蹴ることへの不安は全然なくて、普段の練習通りに蹴れば結果が出ると思い、落ち着いていました。今日の試合で100試合目だとわかっていたので、どうしても点を取りたかった。ジェバリも蹴りたそうでしたが、僕もそれ以上に蹴りたいという気持ちがあり…お互い、PKの練習を一緒にしている仲なのでそういう自分の気持ちも汲んでジェバリが譲ってくれたんだと思います」

 細かなステップでフェイントをかけ、相手GKの動きを見極めてGKの逆、ゴール左下を捉えたシュートは、柏を突き放す大きな3点目に。沸き上がるホームサポーターの前で雄叫びを上げた。

昨年夏に完全移籍。Jリーグでのプレーは4年目に突入したファン・アラーノ。写真提供/ガンバ大阪
昨年夏に完全移籍。Jリーグでのプレーは4年目に突入したファン・アラーノ。写真提供/ガンバ大阪

 苦しい戦いが続いていた5月末。初めて両親がブラジルから来日。すごく嬉しいと声を弾ませていたのを思い出す。

「僕が(前所属の)鹿島アントラーズに加入した時は、コロナ禍で両親は一度も試合を観に来ることができなかったので、今回の来日をすごく楽しみにしていました。運良く、その間には連休もあったので両親を連れて京都に出掛けることもできましたし、大阪も、京都も、日本のことを『すごく美しくて人が温かい街だ』と気に入ってくれました。何より、僕としては、両親が来てからルヴァンカップの大阪ダービーも含めてずっと勝っている姿を見せられているのがすごく嬉しい。両親が幸運を運んできてくれました。なので、もう少しいて欲しいところですが、お父さんの仕事の都合でどうしても帰国しなきゃいけないのが残念です(笑)」

 J1リーグ18節・鹿島アントラーズ戦の直前に聞いた話だったが、以降もガンバは負けなしの戦いを続けている。この日の柏戦後に「ご両親が置いていってくれた幸運が続いていますね」と投げかけると、再び表情を崩した。

「そうですね。このまま幸運が続けばいいなと思っています」

■取り戻した自分。東口順昭が足掛け10年でガンバでのJ1リーグ300試合出場を達成。

 効果的に得点を重ねた一方で、この男の存在がなければ勝利もなかったと言っても過言ではない存在感を示したのが、東口だ。この日、ガンバのGKでは歴代初となる『ガンバでの300試合出場』を達成した守護神は、後半、相手の決定的なシーンで何度も輝いた。

 とりわけ、印象に残ったのは53分、柏のFWフロートの至近距離からのシュートを左手一本で弾いたシーンと、60分に左サイドを攻略されてDFジエゴに許したシュートに体を張ったシーンだ。さらに言えば、後半アディショナルタイムにも、オウンゴールになりかけた味方選手のクリアボールを右手一本で掻き出した。

「集中して止められた。いずれのシーンも、角度が少ない方に持っていけたという意味ではディフェンス陣と協力してしっかり守れたと思っています」

プロ15年目を迎えた守護神・東口順昭は37歳になった今も成長を続けている。写真提供/ガンバ大阪
プロ15年目を迎えた守護神・東口順昭は37歳になった今も成長を続けている。写真提供/ガンバ大阪

 14年にガンバに加入してから、ケガをしていた時以外は、継続的にピッチに立ってきた東口だが、今シーズンの序盤はプロになって初めて味わう状況に苦しんだ。試合に出たり、出なかったりという日々は、体のコンディションを整える上でも、試合に向かうリズムを作り出す上でも難しく、実際にピッチに立っても『らしくないプレー』が散見する。それでも「自分で自分を壊すようなことがあってはいけない」と長いキャリアで培った経験値を力に、目の前の試合に自身をアジャストさせることに力を注いだ。

これまでは、試合に向けて調整するというリズムで1週間を過ごしてきましたが、今シーズンは試合に出ることを目指して準備をし、でも試合には出られずに控えにまわり、翌日の『試合に出ていない組』のトレーニングでも負荷の高い練習をする、と。そうなると体も頭も、気持ちも1週間のリズムにほとんどアップダウンがないというか。しかも試合に出ていないとなれば、当然、練習でのアピールを続けなければいけないわけで…。自分の中でも、ここでは(強度を)上げて、ここでは少し落とそうという調整ができなくなり、いざ先発出場のチャンスがきても、うまく本当のピークを持っていけていないような感覚に陥っていました。特にシーズン序盤は膝の痛みを抱えていましたしね。でもそれじゃあ試合で自分のプレーを出せないと思い直してからは、少し自分の中でアップダウンの波を作り出せるように意識して調整するようになり、その頃、ちょうど膝の痛みが抜けて筋トレも練習もフルでガンガンできるようになったこともプラスに働いて、コンディションが上がっていきました」

 そうした過程を過ごす中で、本来の自分を取り戻せたと確信したのは、先発復帰2試合目となった14節、横浜F・マリノス戦の後半アディショナルタイム、マルコス・ジュニオールと水沼宏太に立て続けに打たれたシュートに反応したシーンだ。試合には敗れたものの、東口にとっては意味深い一戦になった。

「2回続けて反応したあのシーンで『これや!』と。正直今シーズンは、なかなかピンときていない試合が続いていたけど、浦和レッズ戦で先発に戻った時にそれまでとは違う感覚を少し感じていて、マリノス戦はさらにそれを感じながらプレーでき、あの最後のセーブで『ああ、そうか!』と。ようやく自分を取り戻せた気がした」

 その『確信』が彼にどんな変化をもたらしたのかは、以降のパフォーマンスを見れば一目瞭然だろう。この日の柏戦も安定したセービングで最後の砦となった守護神は、足掛け10年で達成した節目の試合を白星で飾った。

「ガンバに加入した時から、ガンバの黄金期を支え、ACLを含めて、全てのタイトルを獲得したフジさん(藤ヶ谷陽介/現ジュニアユースGKコーチ)のタイトル獲得数を上回らないと、フジさんを超えることはできないということを、ずっと自分に突きつけてやってきたと考えれば10年経って、それをまだ超えられていない悔しさもありますけど、よく積み上げられてきたな、と思う自分もいます。…と言っても、正直、この記録のことは知らなかったんですけど(笑)。試合直前にスタッフに教えられて、そうなんやと。家族も含め、いろんな人に支えてもらった記録なので、幸せやなと思う反面、この数字もヤットさん(遠藤保仁/ジュビロ磐田)の数字を見ると、小ちゃく見えるというか、かすみまくるので(笑)。節目の試合を勝利で飾れたのは嬉しいですけど、ヤットさんを目指して、まだまだ頑張らないとアカンって思いの方が強いです」

 この日も、そしてこれまでも。何度も、何度もガンバの窮地を救ってきた守護神に支えられ、また、節目の試合をゴールで飾った男たちが輝く中で掴み取った柏戦での勝ち点3。15節・アルビレックス新潟戦を皮切りに6月、7月の戦いも5勝1分と、勝ち点16を積み上げたガンバは、上位チームとの連戦で再開する、真価を問われる8月のJ1リーグ戦に向かう。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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