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<ガンバ大阪・定期便53>山本理仁が輝くサイン。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
直近の公式戦2試合では攻守に確かな輝きを見せた。 写真提供/ガンバ大阪

■チャンスで何をできるか。自分に問いかけ続けた半年。

「チャンスが来ないのは恥じるべきじゃない。チャンスが来た時に自分のパフォーマンスを出せなかったことを恥じるべきだ」

 そう思って、自分を奮い立たせてきた。東京ヴェルディユース時代からの恩師、永井秀樹にもらった言葉だという。ガンバに加入して約半年。内側楔状骨骨折で離脱していた間も、戦列復帰後、思うようにチャンスが巡ってこなかった時も。「悔しい」と「自分の成長」をいつもセットで考えてきた。

「もちろん、試合に出られないのは悔しいです。悔しいという感情を、素直に言葉に変えるなら『ふざけんな』とも思います(笑)。でも一方で、外れたことに動じない自分も大事だと思っているので、メンバー外になった時は『その時間を使ってパーソナルトレーニングを入れればいいや』くらいの感覚で過ごしてきました。試合に使われるか、使われないかは監督次第というこの世界で、そのことに気持ちを揺らしている時間があったら、自分のパフォーマンスをしっかり発揮するための準備期間に充てた方がいいし、自分が成長することにフォーカスして過ごした方が絶対にいい。永井さんに言われた言葉と照らし合わせても、チャンスが来た時に何ができるか、だと思っていました」

 今シーズン、初先発となったルヴァンカップ、京都サンガF.C.戦はその覚悟が伝わってくるような63分間だった。いや、遡ればその直前に戦ったJ1リーグ3節・ヴィッセル神戸戦も然りだ。インテリオール(インサイドハーフ)として出場した山本理仁は、水を得た魚の如く中盤を走り回り、繰り返し攻撃チャンスを演出した。

「決定機を作るという意味では、自分の持ち味を発揮できたと思っています。ダニ(ポヤトス監督)には試合前から『相手はインテンシティ高くくるぞ』と言われていた中で、局面で負けたら勝負にならないと思っていたので、目の前の相手に1対1で負けないことを意識しつつ、その上で自分の違いをどうやって表現していくのかを考えていました。今日はアラーノ(ファン)とダワンとの3人で中盤を構成しましたけど、アラーノは走れるし、ダワンは強さがあるという中で、それぞれが自分の役割を全うしつつ、うまく三角形を保って他の選手の動きを見てカバーし合うこともできていたんじゃないかと思っています」

 球際で示した強度もさることながら、前線との中継役として、絶妙なポジショニングから再三にわたって長短のパスを送り込み、相手のDFラインを切り裂いていたのも印象的だ。

「うまくポジションを取れたことで前向きになれるシーンも多かったし、相手が中を締めてくるというのは自分のイメージとしてもあったので、湧矢(福田)だとかウイングに入る選手の動きは常に視界に入れていました。特に湧矢には僕がオープンにボールを持てることもあって『見ていて』と言われていたし、練習からそういうコミュニケーションもとっていたのでうまく活かせればいいなと思っていました」

 ダワンが挙げた2得点目のシーンでは福田が左サイドを駆け上がった瞬間、並行してハーフウェイライン付近からニアサイドに全速力で走り込み、後ろから上がってきたダワンをフリーにさせるという役割も果たした。

「分析をもとに『ニアに誰かが入っていけば、マイナスのところがあく』ということはチームでも共有していたので、あのシーンも誰かしらがあそこに入っていければ後ろがあくだろうと予測しながら入っていきました。それによって自分が点を取るのもアリだし、結果的に、分析通りにダワンのところがあいたと考えても、チームとして狙いを持ったいい形、いい得点だったと思うので、今後もああいう形は増やしていきたいです」

個人的に取り組んでいる『スプリント力』も随所にわたって光らせた。 写真提供/ガンバ大阪
個人的に取り組んでいる『スプリント力』も随所にわたって光らせた。 写真提供/ガンバ大阪

■自分らしくプレーするために。

 そうしたスプリント力は今シーズン、山本が意識的に取り組んでいることの1つだ。本人曰く「なぜか周りからは走っていないように見られることが多い」そうだが、実はアカデミー時代からチーム内で1〜2位を争う走力の持ち主。ヴェルディ時代には時に1試合で13キロを超える距離を走ったことも。とはいえ「走り方にしても、速さにしても、まだまだ突き詰められることはある」との思いから、このシーズンオフは高強度で長い距離を走れるようになるための高地トレーニングに取り組み、それと並行して、新たにスプリント力を高めるパーソナルトレーニングを続けてきた。今も継続中だという。

「教えてもらっているのは、サッカー専門の方ではなく、運動学などが専門の大学の教授で、簡単にいえば、スプリントのトレーニングです。それを応用してプレーに必要な動作に落とし込んだり、局面での最初の一歩目の動きだしとか、動作の速さ、スプリント力につなげたり…全体的に動きの速さを上げるのが目的です。と言ってもまだ始めたばかりなので効果を語れるほどではないですけど、トレーニングのたびに教授が『股関節の動きが良くなっている』とか『足の出し方がスムーズになった』などコアな目でいろんな良くなっていることをフィードバックしてくれるので、それが嬉しくて続けています(笑)。あと、毎回、宿題みたいなのも出されるんですよ。『チームでの練習前に、スプリントの姿勢を作るためにこの筋トレをするように』とかって言われるんですけど、それをサボったら次に教授のところに行った時に絶対にバレる。つまり、そのくらい変化があるということでもあるし、そもそも僕は怒られるのが嫌いなので、怒られたくない一心で真面目にやっています(笑)」

 付け加えるなら、生来の性格的には辛いことや、しんどいことは、できれば避けて通りたいタイプだと笑う。

「自分一人で頑張れる人もたくさんいるし、頑張った先にある達成感みたいなものが好きな人もいるじゃないですか? でも僕は全然そこには惹かれません(笑)。やらなくても走れるなら絶対にやりたくないし、寝ていてサッカーが巧くなるなら、断然そっちがいいです。でも、それじゃあ上には行けないし、サッカーも楽しめないから、強制的に自分に課しています。いや、期間の長いオフシーズンは気持ちで乗り越えようとしても揺らいじゃうし、一人でコツコツと筋トレを頑張るみたいなことも絶対にできないと自覚しているので、パーソナルトレーニングのスケジュールを先にガンガン入れちゃっていました。そうやって、やらなくちゃいけない環境を無理やり自分に作ればやらざるを得なくなるから。繰り返しますが、根本はなるべくやりたくないし、楽な生活をしていたいんですけどね(笑)。なのに、なぜか色々見つけてはやっちゃうんです。なんででしょうね?」

 答えは、自身の言葉にある通りだろう。上に行くため、サッカーを楽しむため。ひいては『自分らしくプレーする』ため。

「プロになって自分のプレーがうまくいかず、生まれて初めて練習に行くことすら嫌になった時、永井さんに言われたんです。『理仁は笑ってサッカーをしている時が一番いいプレーをしているよな』って。そう言われてみれば、確かに子供の頃から僕にとってのサッカーはいつも楽しいものだったし、楽しめていた時が一番自分らしくプレーできていた。そして、この世界で楽しいを貫くには、やっぱり取り組まなきゃいけないこと、磨かなければいけないプレーもある。それをやれば、もっと楽しい世界が見れるはずだから」

 もちろん、自分らしくプレーするためには課題に向き合うことも忘れていない。その1つが、より効果的なプレーの判断をする『材料』を増やすことだという。

「もっと周りを見れるようになるというか、プレーしながら見れるものの量と質を増やせたら、もっといいポジションが取れるはずだし、プレーの選択肢もまだまだ広がっていくんじゃないかと思っています」

 あとは、明確な『結果』だ。今シーズンの開幕前から「ゴール、アシストに関わっていくこと」は常に自分に求めている。

「この世界には(パスで)捌ける選手は無限にいると考えても、それに加えて、ゴール、アシストに関わっていけるようになることが自分の評価をもう1つ上げるポイントになる。今シーズンはその数字にこだわりたいです」

 だからこそ神戸戦、京都戦ともに見出した自身のゴールチャンスを決めきれなかったことを悔やんだ。

「京都戦での左足のシュートは、タイミングとしては完璧で、うまくGKもずらせていたし、角度的にも…神戸戦は外したけど、今回は入ったなと思ったんです。なのにあとボール1個分、巻けていたら、という惜しい感じで終わってしまった。でも、惜しいでは意味がないし、あの1本を決められるかどうかで選手の評価は大きく変わる。いやぁ、決めたかったです」

 取材の最後は苦笑いを浮かべたが、そうした課題と向き合うことも含めて、今の彼はとても楽しそうだ。それはすなわち、山本のプレーがまだまだ輝きを増すというサインでもある。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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