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<GAMBA CHOICE13>柳澤亘がガンバデビュー。「みんなに助けてもらった」。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
7月29日にチームに合流。「覚悟を持ってここに来ました」 写真提供/ガンバ大阪

 『J1リーグデビュー』のチャンスは、ガンバ合流からわずか6日、8月3日のベガルタ仙台戦で回ってきた。

「とにかく思い切って、アグレッシブに戦ってこい」

 松波正信監督の檄に送り出されたのは67分。1-0でリードを奪う状況下、右ウイングバックを預かった。

「勝っている状況だったのでとにかく勝ち点3を意識しながら、デビュー戦を楽しもう、と思ってピッチに立ちました。正直、試合前は緊張もあって、うまくやろうとか、どうやってチームを勝たせるのか、とか重く捉えていたところもあったんですけど、ベンチに座っているときから、いろんな選手、スタッフに『絶対に出るよ。楽しんで!』と声をかけてもらっていたし、ピッチに立ってからも周りの選手から『楽しんで』『のびのびやればいい』と声をかけてもらって自分に戻れた。僕の持ち味はオーバーラップとか長い距離のランニング、あとは味方をうまく使って攻撃参加していくこと。今日はスコアや試合展開もあって、そういった自分の特徴をほとんど出せなかったけど、本当に周りの人たちにサポートしてもらったおかげで、なんとか楽しめました」

 出場時間は、アディショナルタイムを含めても30分弱だったとはいえ、確認できたこともある。

「5バックのウイングバックはそこまで過去に経験がなかったし、チーム合流からあまり合わせる時間がない中で、本当にピッチの中でいろんなことを感じながらプレーしていたという状況でしたが、ボールをもらう場所だったり、人の動かし方といった部分は時間が経つほどわかってきたところもあった。シーズン中の移籍で、こういう連戦に入っていくことも覚悟していたとはいえ、もっともっといろんなことを吸収してやらなきゃいけないとも感じました。今日は本当に周りのサポートのおかげで…みんなに助けてもらった。危ないシーンもあったし、厳しい試合になりましたけど、ディフェンダーとしてゼロで抑えられたのは良かったし、勝てて良かったです」

 以前から目標の1つに『J1リーグでのプレー』を描いていた中で、思わぬタイミングでガンバからのオファーが届いた。他のJ1クラブとは違い、ガンバだけは怒涛の連戦を戦っている最中にある状況も理解していたし、その流れに加わってチームにフィットしていくのは決して簡単ではないと自覚していたが、強気に自分に『チャレンジ』を求めた。

「初めてのJ1リーグですがここで輝く自分を描いて、覚悟を持ってここに来ました。この状況でやれない自分ではダメだとも思っています」

 かつて、柳澤がプロキャリアをスタートさせたFC岐阜からヴィッセル神戸の主軸となり、日本代表へと成長を遂げた古橋亨梧(セルティックFC)の姿にも自分を重ね合わせて。

「僕が岐阜に加入した際は、古橋選手は移籍した後だったので、一緒にはプレーしていませんが、当時からよく古橋選手の話は聞いていたし、チームを離れてからもサポーター、クラブスタッフ、選手の全員が彼を応援していた。自分もそういう選手になれればいいなと思っていました」

 一方、前所属の水戸ホーリーホックでは、かつてガンバでプレーした森勇人やタビナス・ジェファーソンとチームメイトだったが、彼らからは「安心する一言をかけられた」と笑う。

「関西だけど、意外と静かだよ」

 柳澤にとっては初めての『関西』で、当初は気後れするんじゃないかと不安だったが、それを聞いて「安心して大阪に来れた」そうだ。

「僕はプロ1年目に岐阜に行くまでずっと千葉にいて、関東から出たことがなかったので関西のノリは楽しみでもあり、不安でもあります(笑)。そもそも僕は自分で言うのもなんですが、だいぶ人見知りで…なかなかすぐにみんなと仲良くなれない性格なんです。でもこうしてシーズン途中に加入するとなった限りは、自分からいろんな人と会話しなければいけないと思っていますし、今はコロナ禍でチームメイトともピッチ外での時間が作れないと考えても、練習中や、その合間の時間に自分からどんどん話しかけていきたい。自分より多くのことを経験している選手がたくさんいるだけに、いろんなものを盗んでいけたらと思っています」

 利き足は右足ながら、4バックであれば左右サイドバック、3バックであれば両ウイングバックと幅広くプレーできるサイドのスペシャリスト。幼少の頃からセンターバックやボランチとしてプレーしてきたが、順天堂大学時代に元日本代表の右サイドバック、堀池巧監督によって右サイドバックにコンバートされ、以来、サイドを主戦場にチームの『攻撃』を加速させてきた。

「大学時代、堀池さんには練習場に行くのが嫌になるくらい(笑)、厳しく、細かく、ポジショニングやファーストタッチの指導をしてもらった。長い距離を走ることや、オーバーラップからの攻撃参加だけではなく、チームのバランスを見てポジショニングをしたり、試合状況でプレーを変化させていくのも自分のプレースタイル。目立つわけじゃないけど、縁の下の力持ちというか、チームが一つになって戦えるようにうまくバランスを見ながらプレーできたらと思っています」

 サイドバックを預かるようになってから参考にしてきたのは、元鹿島アントラーズの内田篤人や西大伍(浦和レッズ)。抜群のポジショニングから攻撃を加速させるだけではなく、時に自らゴールに迫る二人のプレーは、柳澤の理想のサイドバック像とも合致する。もっとも、プロになって3年。多くの試合にこそ絡んできたものの『プロ初ゴール』は未だ実現していない。そこは新たなステージで、と思い描く。

「今はサイドバックが点を取る時代。早くガンバでプロ初ゴールを決めたいと思います。ガンバは小さい頃から憧れたビッグクラブ。施設も素晴らしいし、選手、スタッフにも本当にプロフェッショナルな人がたくさんいる。その人たちに刺激をもらいながら、自分もここで堂々と、ミスを恐れずにチャレンジしたいと思っています」

 その覚悟はきっと、ピッチでの輝きに変わる。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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