J1リーグ開幕戦から常にメンバー入りをしながら、約3ヶ月間、ピッチに立てない時間が続いた。もちろん、シーズンが始まった時から昨年同様にセンターバックの競争が熾烈を極めることは覚悟していたが、ベンチを温める時間が続くほど胸に渦巻く悔しさはより勢力を増し、菅沼駿哉を襲った。仮に、チームが好調をきたしていたならそれが自分を納得させる要素の1つになったかもしれない。だが、決してそうではなかったからこそ、センターバック陣で唯一、チャンスをもらえない事実に苦しんだ。

「正直、キツかった」

 その時期について尋ねると、素直な思いが口をついたが、自分に約束事を決めて向き合ったと話す。

「キツかったですけど…チームとしても勝てていない状況が続いていたので、自分ならどうプレーするのかを考えるとか、試合に出ている選手に自分が感じたことを伝えていこうと思っていた。『なんで出られへんねん』と不満を口にするのは簡単だけど、試合に出ていない選手がそれを言い始めたらチームが本当に終わってしまう。だからこそ、ガンバのクラブハウスに来たら顔には出さない、やるべきことをやると自分の中で決めていました」

 ようやく彼にチャンスが巡ってきたのは松波正信が新監督に就任して2試合目、15節・FC東京戦だ。ユース時代にも指導を受けた指揮官の思いに応えようと強い決意でピッチに立ったが、思いとは裏腹に、キックオフ早々に自身のミスから失点を招いてしまう。

「マツさん(松波監督)に試合前『駿哉は今シーズン初先発だけど、お前のプレーを信じている。思い切ってやればいい』と声をかけてもらっていた中で、自分としてもその意識で臨んだのに、ああいったミスが出てしまった。開始1分でチームの勢いを削ぐようなミスをしてしまったことが情けないというか…自分への憤りもあったけど、裏を返せばまだ試合が始まったばかりだったからこそ、1点で抑えることができればチャンスは来るかもしれないと信じて気持ちを切り替えた。とにかく自分としては久しぶりの試合だっただけにこのチャンスを無駄にしたらアカンと自分に言い聞かせていました」

 結果的に、それ以上の失点こそ許さなかったものの、序盤の1点が重くのしかかり、チームは敗れてしまう。その事実を受け止めながら「もうチャンスはもらえないかもしれない」と覚悟もしたが、菅沼は2試合後の横浜FC戦で再び先発メンバーに抜擢される。3バックの一角を任された。

「東京戦のあともマツさんに『切り替えて、しっかり準備してくれ』と声をかけてもらっていたし、再びチャンスをもらえた中で、あとは自分がどれだけ結果で応えていくかだと思っていた。スタメンを告げられたのは試合の前日でしたが3バックについては去年のイメージも少し残っていたし、安パイなプレーというか、守りに走ってしまうと上手くいかないと感じていたので思い切ってチャレンジすることを意識して試合に入りました。ただ練習でできていたことが試合ではあまりできなかったというか…試合勘のなさも影響して、頭でイメージしたことがプレーで表現できないことも多かったというのが正直なところです。とはいえ、その後の湘南ベルマーレ戦を含めてもう公式戦を3試合、戦ったと考えれば試合勘は言い訳にできない。今後はもっと自分の強み、特徴をプレーで出し切れるように、積極的にトライしていきたいと思っています」

 印象に残ったのは、その横浜FC戦でFWレアンドロ・ペレイラが挙げた1点目のシーンだ。移籍後初ゴールを決めた彼のもとに駆け寄ると両手でペレイラの頭を抱きかかえるように喜びを示す。思えば、ホームでの2連戦、13節・川崎フロンターレ戦、20節・サンフレッチェ広島戦でも菅沼はアップをしながら時折、ペレイラに歩み寄って声をかけていたが、ここまでの過程で絆が生まれていたのだろう。菅沼の祝福に、ペレイラも珍しく表情を緩めた。

「ペレイラは僕と似て、ある意味、感情の起伏が激しい選手。チームにフィットできない難しさとか、試合に出ていない中で少しストレスを抱えているようにも見えたので、控えの時も出来るだけコミュニケーションを取ろうと思っていたし、一緒に苦しい境遇を乗り越えていけたらと思っていました。彼がうまくチームにフィットすればチームにとっても本当に大きな武器になる。彼もあの試合で点を取れたことで少し楽になるはずだし、僕自身も、もっとプレーの精度を上げてDFラインから縦にいいボールを供給してあげたい。その回数が増えれば彼に限らず前線の選手の個性も生きてくるはず。そこは僕も心がけていきたいです」

 もっとも、日本代表、韓国代表が顔を揃えるポジション争いは相変わらず熾烈だ。冒頭にも書いたように、それを征してピッチに立ち続けるのは簡単ではないという自覚もある。でも、それがわかっているからこそ「出場した試合で何ができるか」と菅沼は自分に矢印を向ける。その先にチームの勝利を描きながら。