Yahoo!ニュース

DF今野泰幸、新しいチャレンジで更なる高みへ。

高村美砂フリーランス・スポーツライター

ガンバ大阪の主軸の一人であり、SAMURAI BLUE(日本代表)メンバーでもあるDF今野泰幸はこれまで殆どの場合、SAMURAI BLUE選出の知らせを「インターネット配信されるニュース等で知ってきた」と言う。ともすれば、自分が知るより先に、報道陣の取材を受けて選出の報を知ることもあったらしく、このことは、彼の頭の中にいつもいつも、日本代表のことがある訳ではない、ということを示してもいる。

その証拠に、彼はたいていの場合、代表発表の日を知らない。今回もそうだ。キリンチャレンジカップ2013(5月30日@豊田スタジアム)および2014FIFAワールドカップブラジル アジア最終予選(6月4日VSオーストラリア@埼玉スタジアム2002)に出場するSAMURAI BLUEについて、そのメンバー発表直前に話を聞いた際も、彼は発表の日を把握していなかった。周知の通り、同オーストラリア戦は、日本サッカー史上初めて、ホームの地でワールドカップ出場を決められるかも知れないという注目度の高い一戦であるにも関わらず、だ。

このことは、彼が常々口にしている「直近の試合のことしか頭にない」ということにもリンクする。

「日本代表は、普段のJリーグでの戦いの結果としてついてくるもの。選ばれるかどうかも決まっていないのに、そのことに頭を悩ましても仕方がないし、例え選ばれたとしても大事なのはまずは、目の前の試合ですから。その試合を精一杯で戦い、結果を出すことしか考えていない。代表戦のことは、目の前に代表戦が迫った時にまたしっかりと考えます」

だから、まずは直近の試合に全力を注ぎ、結果を求める。いつもそのスタンスで『サッカー』に向き合い、今の自分を築きあげてきたからこそ、どれだけのキャリアを積み上げても、そこにブレはない。

ところが「直近の試合のことしか頭にない」彼も、今回の代表発表の直前だけは珍しく、こんな言葉を漏らしていた。

「今回だけは初めて、選ばれるかどうか、なんか不安なんですよね」

かといって、代表発表の日がいつだとか、そんなことを気にしていた訳ではない。また彼の言葉を借りるなら、その言葉は、あくまで「なんとなく思ったこと」で、根拠がある訳でもなさそうだ。ましてや、これだけザックジャパンの不動のレギュラーとして活躍してきたことを思えば、そんな彼の言葉を冗談だと受け止める人も少なくはないだろう。だが、誰もが“不動”だと思う状況にさえ危機感を抱くのが、ある意味、今野らしさとも言える。更に言えば、常に危機感を抱きながら、自身を敢えて厳しい状況に追いやってサッカーと向き合ってきたことが、彼を高みへと引き上げてきたようにも思う。

■  

と同時に、彼が今、そんな風に不安を感じるのは、今季、ガンバ大阪で新たなチャレンジを続けていることも理由の1つかも知れない。それは、本来のセンターバックではなくボランチを預かっていること。といっても、5月に入ってからの5試合は、DF岩下敬輔の負傷離脱もあって再びセンターバックにポジションを戻しているが、3月20日に行われた4節・熊本戦以降、4月28日の11節・鳥取戦まで、代表戦等で抜けた試合以外の5試合は、全てボランチとして出場している。これは、長谷川健太監督の意向によるもの。昨年の天皇杯での彼のボランチとしてのプレーを評価した同監督から、シーズンが始まってすぐに声を掛けられたそうだ。

「今季は、センターバックとボランチの両方のポジションでプレーすることを考えて欲しい(長谷川監督)」

それに対して「チャレンジしてみます」とその場で、快く返事をしたと言う今野。そこには彼なりのこんな思いが込められている。

「代表でセンターバックをやっていて、チームでボランチをするというのは、正直、リスクはあると思います。ましてや今年はアジア最終予選のある年で、来年はワールドカップイヤーですからね。でもそれを乗り越えて、両方をこなせるようになれば、自分の成長にも絶対に繋がるはず。というか、これまでもサッカー選手として成長しようとする時には必ず難しさを伴ってきましたからね。何かしらの困難にぶつかって、でも、精神的、技術的にそれを乗り越えたからこそ、新しい自分に出会えた。それに、選手って代表に残りたいからといって変にセフティなプレーばかりしていても絶対にダメになるはずだし、『無難なプレーをしていれば残れるだろう』と思ってワールドカップに向かうのは絶対に良くないと思うんです。というか、そんなことをしていたら、逆に代表には生き残れない。だからこそ僕はボランチにもポジティブにチャレンジしているし、センターバックを預かる上でも、常に、ミスになるかも知れないけど、狭いところを縦パスで通したり、リスクを負ったパスというようなプレーにチャレンジし続けたいと思っている。その上でもし呼ばれなくなれば…力が足りなかったんだということを自覚して、また努力を続けるだけです」

5月23日、日本サッカー協会は、冒頭に書いた代表戦に出場するSAMURAI BLUEメンバーを発表した。そこには、彼の不安をよそに『今野泰幸』の名前が確かにあった。考えてみれば、今回は、彼が本格的にガンバ大阪でボランチにチャレンジして以降、初めての挑む代表戦。そこで彼がどんなパフォーマンスを魅せるのか。新しいチャレンジを続けている彼のプレーにどんな変化が見られるのか。今はそのことを楽しみにしつつ、歓喜の瞬間を待っている。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

高村美砂の最近の記事