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自分を成長させてもらった、ガンバ大阪のために。

高村美砂フリーランス・スポーツライター

リーグ戦を終え、殆どのJクラブがオフに突入する中、3年ぶりの天皇杯奪還を目指して戦いを続けるガンバ大阪。今季のスタート時には『4冠』を目標に掲げたものの、ここまで、何一つとして手に入れることはできず。この天皇杯が最後の『タイトル』獲りのチャンスとなっているだけに、選手たちの今大会に懸ける意欲は強い。中でも、今大会に特別な想いを抱いてピッチに立ち続けているのが、今シーズン限りでG大阪を退団することが決まっている、MF佐々木勇人だ。

05年にJ2のモンテディオ山形でプロサッカー選手としてのキャリアをスタートさせた佐々木は、07年、G大阪と対戦した天皇杯4回戦での活躍がきっかけとなり翌年、G大阪へ入団。中心選手として活躍した山形時代とは違い、1年目は控えに甘んじる時期も長かったが、夏を過ぎて徐々に存在感を発揮し始めると、途中出場ながら試合に絡むことが増えていく。中でもこの年、目を惹いたのがカップ戦、AFCチャンピオンズリーグ(以下、ACL)での活躍だ。ACLでは、決勝戦までの戦いこそ控えの切り札としてピッチに立つことが多かったが、アデレード・ユナイテッド(オーストラリア)との決勝戦2試合にはともに先発出場。G大阪のACL初制覇に大きく貢献をみせる。加えて、同年の天皇杯でも、ヴァンフォーレ甲府との4回戦における決勝ゴールを皮切りに、5回戦では先制点を刻むなど、勝負強さを発揮。そうした勝負強さは翌年以降の戦いでも続き、年を重ねるほど、G大阪ファンの間では常に勝負どころでピッチに立ち、流れを変える『スーパーサブ』として注目を集めるようになる。彼がピッチに立ち、ボールを持つと、決まって万博記念競技場に歓声が沸き起こるようになったのも、その証拠。それに応えるかのように、佐々木自身も『パスサッカー』をスタイルとするチームの中で、持ち前の『ドリブル』を存分に発揮。小柄な身体をものともせず、大きく、強く、ピッチを駆け、ファンの声援に応え続けた。

そうした『スーパーサブ』の異名をとる一方で、本人は当然ながら『先発』のピッチを欲し続けた。

「サッカーはチームで戦うスポーツ。それぞれに役割はあると思う。特にG大阪の中盤にはスペシャルな選手が集まっていますからね。その一角を奪うのは簡単ではないはずですけど、プロである限り、そこは常に狙っているし、狙うべきだと思う。」

これは09年のリーグ戦序盤、先発とサブを行き来していた時期に彼から聞かれた言葉だが、その思いは月日が流れた今も変わっていない。というより、そうして常に先発のピッチを欲し、自分を高めてきたからこそ、途中出場でピッチに立ってもファンを惹き付け、魅了し、活躍が出来たのだろう。と同時に「子供の頃から小柄な体型を武器だと思っていた」との言葉通り、傍目にはマイナス要素だと思われがちなことも、プラス材料として捉え、自分らしいスタイルを追究し続けたことも、多才な顔ぶれが揃うG大阪の『中盤』で彼が輝き続けることができた理由だと言える。

「小柄な体格だからこそやれてきたことも多いし、実際、小さくても勝負はできる。大きな相手に勝つ術もある。だから、サッカーは面白いんだと思う。」

その言葉通り、今大会でも佐々木は自らのプレーを存分に発揮することでサッカーの面白さを証明し続けている。準々決勝のセレッソ大阪戦では、今大会では3試合目となる先発のピッチヘ。本人が欲した『結果=ゴール』こそなかったが、多彩なパスサッカーにうまく溶け込みつつ、持ち味を存分に発揮した。そんな彼の『G大阪・佐々木勇人』としての戦いも、残すところ、あと2つ。

「ガンバでの5年間は本当にいい経験が出来たし、サッカー選手としても成長させてもらった。最後、ベストなパフォーマンスを出し切って、タイトルのために貢献したい」

その思いをプレーで表現するために。自身のプロサッカー人生では最も長い5年という月日を過ごしたG大阪へ恩返しをするために。そして今大会の『タイトル』を、次なるキャリアの“スタート”として刻むために。佐々木は全力でピッチを駆ける。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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