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変わらず、勝ちを求めて。

高村美砂フリーランス・スポーツライター

チームというのは毎日、いろんな、少しずつの積み重ねによって形作られていく。どれだけ強いチームも、歴史のあるチームも、一朝一夕にチームが出来上がることはなく、裏を返せば、どれだけ果てしなく長い時間を注ぎ込んでも「これで完成した」と言えるものにたどり着くことはない。

終わりなき旅。そんな風に言えば聞こえもいいが、現実はそんな格好いいものではなく、時にボロボロになりながらもチームは這いつくばり、なんとか前に進もうと必死に足を踏み出す。いろんな荒波にもまれながらも、選手は、監督はただひたすらに、目の前のサッカーに向き合おうとする。すべては、勝つために。

そんな、至って当たり前のことを、改めて思い知らされたのが、10月4日から2日間にわたって訪れたギラヴァンツ北九州の練習だ。振り返れば先週末、Jリーグよりクラブライセンスが交付され、北九州には『J2クラブライセンス』が与えられた。このライセンスは『順位等の要件を満たしていれば、2013シーズンはJ2に残留または昇格することができる(J1に昇格することはできない)』というもの。つまり、北九州は今季のJ2リーグで1、2位になってもJ1に昇格できないし、3〜6位に入っても、プレイオフにまわることもできない。現在、北九州は勝ち点52で10位と、充分に昇格の可能性を残しているにも関わらず、だ。

J2リーグも残り6試合という終盤戦に突入して、このあまりにも残念な現実を突きつけられたチームは、監督は、選手は、何を思うのか。そんなことを考えながら足を運んだ練習場には、これまでと変わらない光景があった。三浦泰年監督の声が熱く飛び、選手たちの声があちこちから聞こえてくる。練習には実にアラートな空気が流れ、1プレー、1プレーに熱が感じられる。練習は連日ともに約1時間20分。そう長くはない時間を最大限有効に使うべく、選手たちはアップのときから集中力を研ぎすませてボールを蹴る。すべては、勝つために。

もちろん、「変わらない」と見えた光景も、おそらく、その中味は揺れ動いている。いや、勝つことをひたすらに追い求め、こつこつと積み上げてきた毎日があるからこそ、どれだけ結果を追い求めてもJ1リーグに昇格できないという現実に、心が揺れ動くのは当然だろう。ただ、それでも、監督も、選手も、歩みを止めることはない。すべては、勝つために。その『勝ち』が毎日、少しずつの積み重ねの先にしか手に入らないものだと分かっているからこそ、足を止めない。裏を返せば、そうしてこつこつと時間をかけて積みあげてきたチーム力だからこそ、簡単には変わらないし、壊れない。三浦監督の言葉がドシリと響く。

「先週末の水戸戦然り、周りはこれから先の勝ち負けにいろんな見方をするだろう。勝てばこの悔しさがバネになった、負ければ目標を失ったからだ、と言うかもしれない。もちろん、僕だってきれいごとを言えば、そう言えないこともない。だけど、僕たちはこれまで、そんな発想でサッカーをしてきた訳ではないし、これからもそれは同じだ。勝つためにどうするか、それだけを考えて毎日に取り組んできたように、残り6つ、お互いが信頼を深めて、より北九州らしいサッカーをしたいと思う。」

J2リーグも残すところ6試合。今シーズンを通して、ただひたすらに「勝ち点82ポイント、70得点以上、55失点以下』という目標を追い求めてきた北九州は、最後までただひたすらに、勝ちを求めて戦い続ける。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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