エリザベス女王杯連覇でGI4勝目を狙うラッキーライラック。昨年Vで約2年ぶりに勝利を手にできた理由
2019年エリザベス女王杯が1年8か月ぶりの勝利だったラッキーライラック
今週末、中央競馬はエリザベス女王杯(GI)が行われる。昨年の覇者はラッキーライラック。この勝利は待望の2つ目のG1タイトルだった。
ラッキーライラックは昨年のエリザベス女王杯を制した後、2020年に大阪杯(GI)を制している。いまでこそ、ラッキーライラックは上位安定、順風満帆のようにみえるが、昨年のいまごろはまだ勝てそうで勝てない長いトンネルの中でもがいており、もどかしい毎日を重ねていた。阪神ジュベナイルフィリーズ以来、桜花賞2着、オークス3着、ヴィクトリアマイル4着とG1戦線では善戦しつつも勝利に手が届かない日々。それだけに、実に1年8ヵ月ぶりに勝利となった2019年のエリザベス女王杯は彼女にとって大きな分岐点となったのだ。
■2019年エリザベス女王杯(GI) ラッキーライラック、1年8か月ぶりの勝利
長く勝利から遠ざかっているあいだ、松永幹夫調教師とスタッフたちはこの馬のポテンシャルの高さを信じて、心身の成長を見定めながら調整を進めてきた。
「人間の都合ではなく、馬の心身のリズムを何より大切にしながら焦らずに育ててきました。いくらポテンシャルが高くても、メンタルがレースに向かわなくては困ります。ラッキーライラックは比較的扱いやすいほうだと思いますし、それほど気が悪さも感じませんでした。
ただ、馬の気持ちをどういう方向に向けるのがいちばんいいのか、つねに考えながら調教を進めていきました。いかに馬の気持ちを損なわせずに気分よく進められるか。それを第一に考えてきましたね。そして、短距離馬ではなく距離の融通が利くように育てたかった。持ち乗りで担当している丸内調教助手と、そのあたりを意識して調教を進めてきました」(松永調教師)
瞬発力など高いポテンシャルを持つラッキーライラックを気分よく走らせながらも、距離が持つように育てていく。この簡単ではない課題に、日々の調教を任せられている丸内永舟調教助手は焦らずに応えてきた。
「2歳時から調教では出そうと思えばいくらでも速いタイムが出せる馬でした。しかし、若いうちにそれをしてしまうと、道中でじっくり我慢することよりもスパートして気持ちよく走ってしまう快感のほうが彼女の中で優先順位が高くなってしまうおそれがありました。そうなると、距離がもたない馬になってしまうし、短距離馬どころか、競馬でのコントロールさえ難しい馬になってしまう危険性がありました。だから、調教では道中はじっくり構えることを徹底的に教えてきました」(丸内助手)
■2017年 阪神ジュベナイルフィリーズ(GI) 優勝はラッキーライラック
陣営が目指した最終形は、冷静さを失わずに全力でスパートできるようになること
日々、コースをじっくり周回しながら落ち着いて、最後まで舞い上がらずに走ること。そして、ゴール板をすぎても集中力を途切れさせないようコントロールしていくこと。さらに陣営が目指した最終形は、最後に目一杯追われたときにそのようなメンタルを保ちながらも全力でスパートできるようになることだった。
「エリザベス女王杯の直前の調整で、はじめてそんな追い切りができたんです。馬自身、目一杯で走るのは苦しいですが陶酔感もありますから。心身ともに完成期に入りましたので、どれだけ追っても、最後までしっかり自我を保ちながら走り切る。そして、理性を保てるから2200メートル戦でもペース配分しながら走れたんだと思います」(丸内助手)
「ときに調教時計がすごく速くなることがあります。でも、それはまったく気にしませんでしたね。ラッキーライラックが気分よく走れば自然と時計は速くなってしまいますから。周囲と比較せず、あくまでもこの馬自身に合った調教かどうかということを考えてきました。その方針はこれからも変わりないでしょう」(松永調教師)
ラッキーライラックの現役生活は最長でも来年の3月まで、と残り僅かである。さらにもうひと花、ふた花、咲かせる姿をぜひ見たい。
出典 社台グループ発行「Thoroughbred 2020年3月号」に加筆修正