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高額療養費の廃止提言と勘違い炎上?いったい何が廃止になるのか。

高橋成壽お金の先生/C FP/証券アナリスト/IFA
高額医療費のイメージです。(写真:イメージマート)

※2022/10/3記事タイトルを修正しました。

SNSで「#高額医療負担制度廃止案に反対します」というハッシュタグがトレンド入りし、何事かと調べたところ、多くのアカウントが、高額「療養」費と高額「医療」負担金を誤認しているのではないかと感じました。先日、高所得層を中心に上限が引き上げられたばかりの、高額療養費制度が直ちに変更されるとは思えず、状況を調べました。今回、いったい何が廃止になると言われているのでしょうか。

■高額医療負担金とは

高額医療負担金は、国から国民健康保険への資金的な補助のことを指します。対象は1件80万円超の高額な医療費です。

国民健康保険法70条第3項には

3 国は、第一項に定めるもののほか、政令で定めるところにより、都道府県に対し、被保険者に係る全ての医療に関する給付に要する費用の額に対する高額な医療に関する給付に要する費用の割合等を勘案して、国民健康保険の財政に与える影響が著しい医療に関する給付として政令で定めるところにより算定する額以上の医療に関する給付に要する費用の合計額(第七十二条の二第二項において「高額医療費負担対象額」という。)の四分の一に相当する額を負担する。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=333AC0000000192_20220401_503AC0000000066

とあります。

どうやら財務省の調査は、国民健康保険の財政を安定させるための、国からの支援が必要ないから今後廃止に向けて動きましょう、といった趣旨のようです。

参照:令和4年7月26日財務省令和4年度予算執行調査の調査結果の概要(7月公表分)

https://www.mof.go.jp/policy/budget/topics/budget_execution_audit/fy2022/sy0407/0407c.pdf

国保財政が黒字化していることもあり、国の負担を減らしたいという意向があることがわかります。歳出の削減と言えます。

参照:令和2年度国民健康保険(市町村国保)の財政状況について

https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000955083.pdf

■「高額療養費」と誤解された高額医療負担金

「高額医療負担金」と検索すると、高額療養費の説明記事が表示されます。文字をよく認識しないと、同じ言葉のように見えてしまいますから、ネット検索のワナといってもいいかもしれません。

なお、高額療養費制度とは、ひと月の医療費自己負担額に上限を設けて、上限額以上の支払いをしないようにしたり、払いすぎた医療費が還付される仕組みです。

つまり、高額療養費の廃止に言及したわけではありません。

■ひと月の医療費が1,000万円以上の人が1,517人という情報も

一方で、別の報道ではひと月の医療費が1,000万円以上の人が増えているという報道もありました。

健康保険組合連合会(けんぽれん)のWEBサイトに掲載の令和3年度高額レセプト上位の概要

https://www.kenporen.com/include/press/2022/20220921.pdf

によると、近年の高額医薬品の影響で、有効性が高い画期的新薬のため、薬価が高額になっているとあります。

健康保険組合連合会は、民間企業の設立する健康保険組合の連合組織ですから、行政による国民健康保険とは異なります。また、健康保険組合連合会の別の資料では、令和3年度は5,028億円の赤字、令和4年度は2,770億円の赤字見込みです。

なお、健康保険組合の保険料支出の41.7%は高齢者等拠出金となっており、働く世代の健康保険財政は大幅に黒字です。今後、高齢者拠出をどう抑えるかが働く世代や子ども世代への負担に影響することは必至です。

■何も廃止にはならないが、医療費について真剣に検討する時期

今後、国民の医療費をどうコントロールするかは非常に難しいところです。医療費は大きく、後期高齢者、国民健康保険、健康保険組合の3つありますが、保険料収入を増やそうとすれば保険料を引き上げる必要があります。

一方で、恒常的に財源を安定させるには、わかりやすく給付を引き下げ、国民負担を引き上げる必要があります。具体的には医療費の自己負担を現行の3割から引き上げたり、高額療養費の上限を引き上げる必要があります。

医療費の自己負担が5割になる国もありますので、その気になればいつでも引き上げることはできるでしょう。

今回、国民健康保険の高額医療負担金の国の負担を段階的に廃止するための種がまかれました。今後、国民健康保険の財政が悪化した際に、次なる一手として高額療養費の上限引き上げが議論される余地はありそうです。

保険料引き上げも、自己負担引き上げも、ともに国民に痛みを強いる結果となりますから、国民から見て不必要に見える予算を削減するなど、セットでの政策提言が求められるでしょう。

お金の先生/C FP/証券アナリスト/IFA

日本人が苦手なお金を裏も表も解説します。お金の情報は「誰がどんな立場から発信したのか見極める」ことが大切。寿FPコンサルティング、ライフデザインセンター代表。無料のFP相談・IFA相談マッチングサービスとして「ライフプランの窓口」「住もうよ!マイホーム」「保険チョイス」「アセマネさん」を運営。1978年生神奈川県藤沢市出身。慶応大学総合政策学部卒業後、金融関係のキャリアを経て有料FP相談を開始。東海大学では非常勤講師として実務家教員の立場から金融リテラシー向上の授業を担当。連載:会社四季報オンライン。著書:ダンナの遺産を子どもに相続させないで。メディア出演、メディア掲載多数。

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