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老後の年金が不安な人は知っておきたい「年金制度維持」の3要件

高橋成壽お金の先生/C FP/証券アナリスト/IFA
画像はイメージです(写真:アフロ)

前回「年金減額に備えるiDeCoとNISAの上手な使い分け方とは?」を寄稿し、年金制度の突っ込んだ解説が必要と感じました。今回は、年金制度の維持のために政府が実施、あるいは検討している施策も含めてお伝えいたします。

※一部タイトルを修正しました。

日本の年金制度は世代間扶養といって、今の受給者(主に高齢者)のために現役世代(働いている世代)の年金保険料、税金、今までの財源の余剰で支払いを続けています。年金保険料は自分のための積み立てではありません。従って、自分たちは年金保険料の納付を続けてきたけれど、いざ老後に自分が年金をもらいたくても若者が減っていれば、思っていたよりも少なくなる可能性もあります。若者もこのような状態に気がついているからこそ、天引きされない国民年金保険料の未納率が30%を超えていると考えられます。

なお、国民年金保険料を払わないと、督促状が送付され最終的に財産を差し押さえることになっています。日本に住む者の税金だと思って支払う必要があります。

年金制度維持のために必要なこと(1)社会保険料納付者の増加

年金制度の恒久的な維持のために、5年毎に年金財源に問題がないか検討することになっています。実はこの結果によって、いろいろなルールが追加で整備されています。

ルール追加の目的は、年金制度維持の条件が悪化した場合であっても、年金を払い続ける為ということが言えます。

年金制度の仕組みは至ってシンプルです。国民年金なら20歳~60歳の人たちが国民年金保険料を払い、65歳から死ぬまで一生老齢基礎年金を受け取ります。会社や行政で働いている人であれば、厚生年金保険料が給与から天引きされ定年退職までに支払った保険料に基づいて65歳から年金を受け取ります

保険料という収入があり、年金の支払いという支出があります。保険料収入だけで支払いができないため、税金での補填と過去の財源の取り崩しを同時に実行します。

今の社会情勢を考えると、保険料納付者が減りそうだということがわかります。たとえば団塊の世代と呼ばれる70代の人は一学年250万人生まれていました。一方、今の20歳は2000年生まれですから、一学年119万人と、団塊の世代の半分以下となります。受け取る側の人数が、支払う側の倍以上いるといういびつな構造です。

このような状況ではお金が足りませんから、税金が投入されます。また、過去の積立金の運用益も投入されます。しかし、税金も積立金による補填も、長期にわたって維持できるか心もとないため、抜本的に改善する必要があります。

抜本的な改善は2つしかありません。1つは年金保険料を増やすことです。もう1つは年金の支払額を減らすことです。

年金制度維持のために必要な年金保険料を増やすために政府はどのようなことに取り組んでいるのでしょうか。

■被保険者の拡大(短時間労働者)

具体的な取り組みは、いくつかの選択があります。週20時間以上働いていて月収8.8万円以上の人(125万人増加)、月収制限なく週20時間以上働いている人(325万人増加)、学生も含め月収5.8万円以上の人(1050万人増加)など、3つのパターンがあり、おそらく順次適用になるものと思われます。

高齢者雇用、女性活躍、外国人労働者といろいろ取り組んでいますが、その裏側は年金保険料を確保したいという本音も見えてきます。

年金制度維持のために必要なこと(2)年金支払いの先送り

もう1つの抜本的対策が、年金支払額を減らすことです。実際の金額を減らすこと以外に、支払いを先送りにする方向性で進んでいます。

■年金支払の先送り

国民年金の加入年齢を「60歳まで」から「65歳まで」に5歳引き上げることで、5年分の年金保険料を確保します。

厚生年金の加入上限を「70歳まで」から「75歳まで」に5歳引き上げることで、働き続ける高齢者からの年金保険料を確保します。

就労期間の延長と年金支払いの繰り下げ年齢の引き上げ。直近で70歳までの雇用確保を促す法改正がありましたが、年金保険料の確保と、年金の繰り下げ受給に伴う年金支払の軽減も目的となっています。

年金制度維持のために必要なこと(3)資産運用

GPIFという公的年金ファンドをご存知でしょうか。この団体が年金資金の運用を行っています。アベノミクスによる株高の恩恵を受けて、2011年に113兆円であった残高は2020年度の途中で177兆円に膨れ上がっています。運用益が85兆円あります。株価上昇の恩恵は投資家だけでなく、年金を受け取る権利のある人が等しくあずかることができそうです。

ただし、今後の株式市場の先行き如何によっては運用益の急減という可能性もありえますので、楽観はできません。

上記3つが年金制度の維持のために欠かせない要素となります。そして、高齢化が進むほど年金の支払いが増えます。少子化が進むほど将来の年金保険料の収入が先細ります。

いろいろな意見のある年金制度ですが、どの年代でも不公平感なく受け取れるようにするには、世代間扶養から個別の積立方式に移行せざるを得ないでしょう。そのための施策が、企業型確定拠出年金であり、個人型確定拠出年金であるiDeCo、あるいはつみたてNISAのような制度であると考えることができるのです。

お金の先生/C FP/証券アナリスト/IFA

日本人が苦手なお金を裏も表も解説します。お金の情報は「誰がどんな立場から発信したのか見極める」ことが大切。寿FPコンサルティング、ライフデザインセンター代表。無料のFP相談・IFA相談マッチングサービスとして「ライフプランの窓口」「住もうよ!マイホーム」「保険チョイス」「アセマネさん」を運営。1978年生神奈川県藤沢市出身。慶応大学総合政策学部卒業後、金融関係のキャリアを経て有料FP相談を開始。東海大学では非常勤講師として実務家教員の立場から金融リテラシー向上の授業を担当。連載:会社四季報オンライン。著書:ダンナの遺産を子どもに相続させないで。メディア出演、メディア掲載多数。

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