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新型コロナウイルス起源をめぐる米情報機関の評価報告書(全文)

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
世界保健機関(WHO)調査チームが2021年2月3日に訪問した武漢ウイルス研究所(写真:ロイター/アフロ)

米政府の18の情報機関を統括する国家情報長官室は8月27日、新型コロナウイルスの起源についての評価報告書を公表した。機密扱いされない情報をまとめた2ページにわたるサマリー(要旨)となっている。ウイルス起源をめぐって、動物からヒトに感染した自然発生なのか、中国の武漢ウイルス研究所からの流出なのか、十分な証拠が得られず結論を出せずに終わった。

なお、英語の報告書名は「Unclassified Summary of Assessment on COVID-19 Origins」となっており、Investigation(調査)の代わりにAssessment(評価)という言葉を使っている。このため、日本語では「評価報告書」と呼ぶのがふさわしいだろう。

米国家情報長官室が公表した新型コロナウイルスの起源についての評価報告書要旨(米国家情報長官室ホームページより)
米国家情報長官室が公表した新型コロナウイルスの起源についての評価報告書要旨(米国家情報長官室ホームページより)

内外メディアが「新型コロナ起源めぐる結論出ず」と既に一報を報じた中、筆者が翻訳した評価報告書要旨全文の日本語版を掲載する。

評価報告書要旨全文は以下の通り。

米情報コミュニティー(=米情報機関の総体を指す)は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)がおそらく、最初は小規模な(ウイルスへの)曝露を通じて遅くても2019年11月に人間に感染し、同年12月に中国武漢市で最初のクラスター(感染者集団)が発生したと評価している。さらに、米情報コミュニティーは他にいくつかの重要な問題で大筋での合意に達することができた。我々はウイルスが生物兵器として開発されたものではないと判断している。ほとんどの情報機関は、確信度は低いながらも新型コロナウイルスがおそらく遺伝子操作(機能獲得)されていなかったと評価している。しかしながら、2つの情報機関は、どちらにしても評価を下すための十分な証拠がなかったと考えている。最後に、米情報コミュニティーは中国当局者が新型コロナの最初の感染発生を事前に察知していなかったと考えている。

しかし、入手可能なすべてのインテリジェンスレポートやその他の情報を分析した後、米情報コミュニティーは新型コロナウイルスの最も可能性の高い起源をめぐっては、意見が分かれたままでいる。すべての情報機関は、2つの仮説が可能性が高いと評価している。つまり、感染した動物への自然曝露と研究所関連の事故だ。

 ● 4つの情報機関と米国家情報会議は、確信度は低いながらも最初の感染が、新型コロナウイルスまたはその前駆ウイルス(99%以上が新型コロナウイルスと類似)に感染した動物への自然曝露によって引き起こされた可能性が最も高いと評価している。これらの分析は、中国当局者が事前に察知していないことや自然曝露への数多くのベクター(媒介動物)、その他の要因を重視している。

 ● 1つの情報機関は、中程度の確信度を持ちながら新型コロナウイルスの最初のヒト感染がおそらく実験や動物の取り扱い、または武漢ウイルス研究所によるサンプリングを含む研究所関連の事故の結果である可能性が高いと評価している。 これらの分析は、コロナウイルス研究が有する本質的な危険性を重視している。

 ● 3つの情報機関は、追加情報なしでいずれかの説明への意見を集約することができないでいる。一部の分析者は自然発生起源を支持する一方、他の分析者は研究所起源を支持する。2つの仮説は同程度にあり得るとみている別の分析者もいる。 

 ● 分析の見解の違いは、各情報機関がインテリジェンスレポートと科学出版物を比較検討する方法の違いや、インテリジェンスと科学的な差異に主に起因する。

米情報コミュニティーは、新たな情報によって動物との最初の自然接触の具体的な経路を特定したり、武漢研究所が新型コロナウイルスの出現前に新型ウイルスまたは前駆ウイルスを取り扱っていたと判断したりしない限り、新型コロナウイルス起源についてのより明確な説明を提供できないと判断している。

 ● 米情報コミュニティーと世界の科学コミュニティーは、臨床サンプルや初期の新型コロナウイルス感染例の疫学データを完全に理解することが不十分でいる。関心を引く場所や職業上の曝露を特定した最も初期の症例についての情報を入手した場合、我々の仮説の評価が変わる可能性がある。

新型コロナウイルスに関する結論的な評価を得るには中国の協力が必要になる可能性が最も高い。しかし、中国は引き続き、国際的な調査を妨げ、情報の共有を拒み、米国を含む他国を責めている。これらの行動は、1つには、調査がどこに通じる可能性があるかについての中国政府自身の不確実性と、国際社会がこの問題を使用して中国に政治的圧力をかけることへの不満を反映している。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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