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海外の友人に東京五輪開会式の感想を改めて聞いた――評判が悪かったのは特にどこか

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
東京五輪開会式(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

東京オリンピックの開会式が23日夜、東京・国立競技場で行われた。筆者はフェイスブックで内外にいる友人らにテレビで開会式を見た感想を聞いた。

「過去一年間にわたって起きたことをすべて考慮に入れて、とても厳かで恭しい開会式だった」(オーストラリア人女性)

「競技種目を表す絵文字のピクトグラムが良かった。全体としては日本の一番クールな部分であるポップカルチャーの演出がもっとあるかと思っていた」(韓国人男性)

「大太鼓の演奏を期待していたけれどもなかった。閉会式ではあるのでしょうか」(フィリピン人男性)

一番多かった感想は、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長と大会組織委員会の橋本聖子会長の挨拶が長すぎるという文句だった。2人合わせて約9分とされていたが、バッハ会長は約13分、橋本会長は約6分半も挨拶した。

東京五輪開会式で挨拶するトーマス・バッハ氏と橋本聖子氏
東京五輪開会式で挨拶するトーマス・バッハ氏と橋本聖子氏写真:長田洋平/アフロスポーツ

「妻と私はテレビに向かって、ひたすらバッハ会長と橋本会長に『早くステージから降りなさい』と言い続けていた。彼らの挨拶は聞かなかった。選手たちに早く出てきて欲しかった」(日系アメリカ人)

日本政府が掲げてきた「復興五輪」のメッセージは届いたかとの質問には、橋本会長の挨拶からメッセージを感じることはあったが、全体として復興五輪らしき主張はあまり感じられなかったとの意見が目立った。

●中国の友人の反応は?

フェイスブックへのアクセスができない中国人の友人にも感想を聞いてみた。

「大会主催者が、中華台北(チャイニーズ・タイペイ)ではなく、台湾として紹介したことに驚いた。過去の五輪では通常は『中華台北』として紹介されてきた。SNSの微博(ウェイボー)で激しい議論が起きている」(中国深圳市のシンクタンクに勤務する男性)

東京五輪開会式で中華オリンピック委員会旗を掲げながら入場行進する台湾選手団
東京五輪開会式で中華オリンピック委員会旗を掲げながら入場行進する台湾選手団写真:ロイター/アフロ

NHKの和久田麻由子アナウンサーも入場行進で「台湾です」と紹介した。

NHK関係者は「日本の一部ツイッターは逆に和久田アナを英雄視?していますが、それもヘンな話で(苦笑)、台本組んでいますからね」と話した。

このNHK関係者によると、2016年のリオ五輪時のNHKニュース原稿でも「台湾」という表現を使っているという。例えば、「女子57キロ級でオリンピック2連覇を目指した松本薫選手は準決勝で敗れて3位決定戦にまわり、台湾の選手に勝って銅メダルを獲得しました」と報じられたという。

ただ、このリオ五輪には、台湾は中国大陸の圧力により中華台北の名称で参加。入場行進では中華民国(台湾)の国旗ではなく、今回の東京五輪同様、中華オリンピック委員会旗が掲げられた。

●物議を醸した入場行進の順番

中国・深圳のシンクタンク研究員の男性がほかに指摘していたのが、入場行進の順番だった。微博で大きな話題になっているという。

日刊スポーツの記事によると、確かに大会公式サイトで事前に発表されていた「あいうえお」順の入場順では、台湾の入場は「チャイニーズ・タイペイ」としてチェコ共和国の後の107番目となっていた。しかし、実際には韓国の後の104番目に登場した。

これはいったいどういうことか。筆者は初め、「台湾」という日本語の五十音順に基づき、韓国の正式名称である「大韓民国」の後の入場になったのだと思っていた。開会式の行進順はルールで五輪開催国のアルファベット順(日本の場合は五十音順)とされているからだ。

しかし、大会組織委の高谷正哲スポークスパーソンは24日の記者会見で、台湾が「チャイニーズ・タイペイ」の「チ」ではなく、「タイペイ」の「タ」の順で行進したと説明した。確かに、台湾の中華オリンピック委員会のサイトによると、1983年に当時のサマランチIOC会長と中華オリンピック委員会との間で、台北の英略字の都市コードTPEに基づき、「T」のグループで入場行進することで合意したと記されている。

しかし、中国では、日本が「台湾」という呼称を用いたことで、このような直前の順番変更になったとの疑念が生まれてしまったようだ。

このほか、米NBCが中国選手団を紹介する際に、台湾を含んでいない中国地図を放送したため、米国ニューヨークの中国総領事館が抗議し、中国でも強い反発が起きている。

ただし、来年2月に北京冬季五輪を開催する中国は、一貫して東京五輪を支援する姿勢を見せている。このため、入場行進での「台湾」との呼称での登場にも今のところ、中国政府自体は沈黙し、抗議の声を上げていない。

中国外務省の趙立堅(ちょう・りつけん)報道官は23日の記者会見で、「力の限り東京五輪の支持を続ける。東京五輪の成功を我々も引き継ぎたい」と述べた。

前述の深圳のシンクタンク研究員は「中国政府は日本との良好な関係の維持を望んでいる」と述べた。

菅首相が東京五輪の成功に政権の存亡を賭けているように、習近平国家主席も自らの権力基盤の強化に向け、北京冬季五輪を是が非でも成功させたいとの政治的思惑がある。それに比べれば、入場行進での「台湾」登場は小さな問題なのかもしれない。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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