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中国旅客のコロナ感染率が激減、日本政府は水際対策撤回を検討

高口康太ジャーナリスト、翻訳家
(写真:つのだよしお/アフロ)

NHKによると、中国からの旅客に対する水際措置の緩和、撤廃について、日本政府が検討を始めました。

中国は昨年12月初頭にゼロコロナ対策を撤回しました。その後1カ月で全国民の80%、約11億人が感染したと推定される、大流行が起きています。日本政府は12月30日より中国からの入国者に対するPCR検査の実施などの水際対策を実施してきました。

対策導入の第一週(12月30日~1月5日)は中国からの旅客の8.3%が陽性と判定されましたが、その後、感染者数、陽性率ともに急激に低下しています。また、中国で新たな変異株が出現する可能性も取り沙汰されていましたが、こちらも現時点では検出されていません。

厚生労働省の資料をもとに筆者作成。
厚生労働省の資料をもとに筆者作成。

ゼロコロナ対策撤回から1カ月あまりで感染ピークを越えた。にわかには信じがたい話のように思われましたが、日本側で行っている検査の数値には説得力があります。

陽性率がここまで低くなると、コストをかけて水際対策を実施する必要があるのかが問題となります。日本と同じく水際対策を実施していた台湾では、2月7日から対策をとりやめると発表しました。台湾CDCによると、1月1日時点では中国からの旅客の25%が陽性だったところが、直近では0.4~2.2%と低位で推移しているためとのこと。また、台湾が中国本土向けの観光ビザ発給を停止しているため、旅客数が急増する見通しがないことも理由にあげています。

ビザを止めているのは誰か?

旅客数が増えないという事情は日本も同じです。

中国側では、富裕層向けの5年マルチビザ以外は観光ビザの申請ができない状況が続いていると報道されています。この事情については噂が錯綜しており、中国側がビザ受付を行う旅行代理店を通じて差し止めているという話が伝えられているほか、昨年12月のコロナ感染拡大で大使館員の感染が増加し一時ビザ申請受付を停止していたことが日本側がビザ発給を停止したと「誤解」されたという話もあります。

日本大使館は1月20日、「新型コロナウイルス流行の影響を受け、一時期はビザ発給業務を縮小せざるを得なかったが、流行の変化を受けビザ業務は以前から正常に回帰しています」とのリリースを出しています。業務再開のタイミングでのリリースではなく「とっくの昔にもとどおりなんです」という不思議なリリースですが、前述の噂に対応したものとみられます。

ともあれ、春節休み(1月21日~27日)も中国から日本への旅客数は増えていません。

厚生労働省の資料をもとに筆者作成。
厚生労働省の資料をもとに筆者作成。

ちなみに余談ですが、このビザ発給の事情については公にはされていないため、「ゼロコロナ解除で海外旅行いける!日本に行きたい!!」と心待ちにしていた中国の人々からは日本政府がビザを止めている、日本政府ひどい!という勘違いが広がっています。私も知人から「遊びに行きたかったのに!日本政府はひどい!!」となじられました。

台湾とは逆に水際対策延長を決めたのが韓国です。中国からの旅客の陽性率は水際対策導入初期は10~20%と高かったのに対し、現在では1%前後にまで低下していますが、「旧正月休みに再度感染が拡大する可能性が排除できない」ことを理由としています。

*「ビザを止めているのは誰か?」以下三段落について、追加取材に基づき記述を変更いたしました。

ジャーナリスト、翻訳家

ジャーナリスト、翻訳家。 1976年生まれ。二度の中国留学を経て、中国を専門とするジャーナリストに。中国の経済、企業、社会、そして在日中国人社会など幅広く取材し、『ニューズウィーク日本版』『週刊東洋経済』『Wedge』など各誌に寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)。

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